※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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はじまりの絵本
●紅鬼は背伸びする
とある辺境の片田舎に、一人の鬼が住んでいました
角が生えているわけではありません
鋭い牙もありません
勿論、とても強いわけではありませんでした
他の誰よりも華奢な体
半身を覆う不気味な紋様
生まれてからこれまでにまつわる不思議な出来事
周りのみんなと違うこと、それこそが鬼を鬼としている理由でした
鬼には優しい母親が居ました
喧嘩をしてくれば、静かに傷の手当てをして
物を捨てられれば、共に探して
石を投げられたとき、一緒に怪我をして
鬼が何をしてきても、必ず抱きしめてくれました
あなたは私のかわいい子
他の誰があなたを嫌っても、私はあなたを愛してる
けれどそんな優しい日々は、長く続かなかったのです
母と愛を失くした鬼は、自ら鬼になりました
力がないなら、愛がないなら、貧しいままなら
幸せになんてなれやしない、守る者もいやしない
言われなくても鬼になろう
「逃げたぞ、追え!」
息巻く大人達の声を聞きながら、鬼百合(ka3667)は自分専用とでも呼べそうな狭い隙間をすり抜けていく。
――するりと掏ってすり抜けて、最後に残った誰の手に?
(ちょろいもんでさ)
後はこの道を抜ければ自分の勝ちだ。
(今日はこっちにしましょうや)
分かれ道の判断はいつも直観だ。周囲の気配を読んで、声の響きを聞いて。繰り返しにならないよう注意を払う。
読み合いには自信があった。
「このよはかせいだもの勝ちでさぁ」
あと一息走ればあいつらを撒けるだろう。特に最近は足運びの調子がいいらしい。大人達の声が近づくこともめっきり減った。
自らの勝利を確信して、口の端があがる。
だから、反応が遅れた。
スッ……
「へんですねぃ、行きどまりのはずは」
バキィ!
「!?」
影がかかったことを不思議に思う、そのつぶやきは最後まで口に出来なかった。
痛みよりも先に驚きが勝って、それからゆっくりと左頬に衝撃が走った感覚を自覚する。
……ズシャァ
鬼百合の小柄な体躯が地面を擦る。
「あ~ぁ、汚れちまったなァ」
続いて聞こえるのは複数の足音。いつも自分が動きが遅いとあざ笑うように振り切ってきた、大人達の気配。
「やったか? ホント手間ァかけさせやがって」
唾を吐かれる。
「……ど……して……」
わからない、自分は鬼として大人達さえも金ヅルとして、稼ぎ先として手玉に出来ていたと思っていた。
場所も変えた、時間帯も変えた、対象も変えた……何もかも繰り返してはいない。読み切れているはずだった。
「これだから餓鬼だってんだよ」
頭を鷲掴みにされる。深くかぶった帽子は脱げてしまっていて、視界を遮る物もない。
涙が流れるが、それは意図したものではない。
「決まった時間だけ網を張った。あとは糞餓鬼を引っかけるだけだよ」
その時間だけ、大人達が皆協力し逃げ道を塞いだ。それだけ。
自分が甘かったことを後悔するが、多分もうその意味はないのだろう。
「今更泣き落としが効くとは思わねぇこった」
「お前ら、場所を変えようぜ」
ずるずると。
鬼百合の紋様が広がる様に、細く跡が出来ていく。
●蒼鬼の想う先
街で暮らしていた鬼は、大きな船に乗っていました
世界の壁を飛び越えたせいで、気付けば見知らぬ慣れぬ土地
大好きな家族と離ればなれになってしまったのです
気づくとこぼれる溜息は、離れてしまった養父への祈り
醜い怖いと恐れられて
小さなころから鬼と呼ばれて
愛も知らず 絶望の淵に居て
人の温もりを知らなかった鬼を
家族と受け入れてくれた、大切な親
心のある鬼に育ててくれた、大事な父
離ればなれになった今、心配してるとわかるから
気付くと思いだして、物思いに耽るのです
鬼には友達が居ました
見た目に驚くことはありません
心が温かいことを知ってくれる
鬼の隣を歩いてくれる、やさしい友達
鬼が鬼であることを、個性のひとつと認めてくれる
時には揃って騒いでくれる
共に過ごせる気安い存在
だから寂しくはありませんでした
この世界で暮らしていくためにハンターをはじめて、仕事にも幾分慣れてきていた。友人達と共に出かけることも多い春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)だったが、この日はたまたま別行動をとっていた。
まだクリムゾンウエストの地理も把握しきれてなどいない。今日は辺境の仕事でも行ってみようかと足を運び、風習等も多岐にわたる多部族の集まり、その空気を感じ取りながら……帰りはのんびりするのもいいだろうか、そう思った矢先のことだ。
その細い、すぐにでも消えそうな違和感を見つけたのは偶然だろうか。
過去の記憶が疼いたからか、理由は紫苑本人にもわからないけれど。
(鳥にしては大きいし、獣にしちゃぁ小さいですねぇ)
何より続く先は医者ではなく、人の家さえもないような方角で。
(狩ってきた獲物を捌くような気配もないでさ)
けれど。
胸騒ぎのようなものを覚えて、引きずられたような跡を辿っていく。
バキィ!
「……や、やめ」
ゲシィッ!
「ぐぁ」
……
「やっと黙りやがった」
見て見ぬふりは出来なかった。
気配に振り向いた男達は、まず紫苑の顔を見て息をのんだ。
「なんだ手前ぇは」
けれど一人、それも女性だからとすぐにその表情を戻す。
「……どんな理由があれ、子供相手に良い大人複数掛りでするようなことじゃねぇでしょう。それは」
暴力。
直接的な力に限らず、言葉によるもの、ともすれば何もしない無関心によるものだって含まれる。
「余所者には関係のないことだ」
「常識ってもんを教えてやってるところなんだよ」
牽制する男達に紫苑は退かず、むしろ近寄ろうとする。
「それともアンタが俺達に教えてくれるってぇのか?」
男達の顔に浮かぶのは余裕の笑みばかり。
「女相手に言うじゃねぇか」
くくっと笑いながらちらと周囲を一瞥すると囲まれた。けれどそれは子供から目を離したという事でもある。
「そのブス面じゃあ俺達は靡かねぇぞ」
「俺達全員の相手をするってぇんなら、なぁ?」
下碑た笑いが紫苑を包囲する。結局は紫苑を女だからと侮っているのだ。
「醜女で悪ぃねぇ。なんせ俺ぁ鬼ですから、そりゃ醜いでしょう」
バキィッ!!
肩に手を置こうとした男の顔面へ、挨拶代わりに叩き込んだ。
足運びが軽やかなだけなら、こんなに目を惹いたりしない。
男達の悲鳴が聞こえてうっすらと目をあけた鬼百合は、自分を助けた相手の姿を見ようと体を起こした。
――芽吹き誇るは華のいろ、散らず霞むは夢のあと、心の花は何をいう?
水仙、菖蒲、七変化が紫苑の足取りを追うように咲き誇る。花に慕われ愛されるようなその姿に、そして強さに鬼百合は見惚れた。
男達が皆仲良く揃ってのびるまで、終えた紫苑が声を掛けるまで、ずっと。
●繋いだ手の先
「そりゃお前が悪い」
「だってそうしなきゃ生きてけねぇんでさ」
自分が得意な技術を使って何が悪いのか。そうやって暮らす者は他にだっているしそれが当たり前だ。
「それは違いやすぜ」
何が違うのか。自分を鬼扱いするあいつらは金ヅル、それでいいじゃないか。
「鬼は例え強くても、人を否定するだけじゃ何も得られやしないんですぜ」
「かせげば、おかねでなんでも買えるじゃねぇですか」
答えながら思う。この人の言葉はどうしてこんなに気になるんだろう、聞きたいと思うんだろう。
ちょっと怖いような気がするのに。怪我したような顔の事じゃなくて、叱ってくるその雰囲気が。
「奪えば確かに手に入りやす。けどそれは本当に嬉しいもんですかい?」
真っ直ぐ聞いてくるから、どこか眩しくて。
「じぶんで生きていけるなら、それでうれし」
ゴツンッ!
「そういうことじゃねぇんです」
どう言えばいいのかねぇと息を吐く様子を、まじまじと見つめる。
頭に喰らった拳骨が痛い。でもどうして優しく抱きしめられた時と同じ気持ちになるんだろう。
「とにかく、一度ちゃんと働いてみなせぇ」
それで美味しいものを食べてみればわかるはずだと言って立ち上がる。あとはこの子が決めることだ。
ぐいっ
「? まだ痛い所でも」
手当はすべて終わったはずだ。
「オレもつれてってくだせぇ、オレもはんたーになりたいんでさ!」
きらきらと、先ほどまでとは違う輝きが紫苑を見上げている。
「オレ、ねーさんみてぇな強い鬼になりたい!」
確かに自分は先ほど鬼と言ったが。
改めて彼の半身を見る。特に気にしては居なかったのだが……言われてみれば鬼と呼ばれていてもおかしくない容姿だ。
(ああ、この子も)
面しか見ない人々の犠牲になっていたのか。
身寄りもないのは見ればわかる。犯罪をしなければ食うにも困る現状は理解していたのに、自分はこの子を叱った。
(同情で動いたら、きりが無いのはわかってるんでさぁ)
後悔は遅い。
掴まれた服の裾、その手を振りほどけない。
(親父様、俺に出来ますかねぇ?)
自分を育ててくれたように、この子を導けるだろうか。
鬼百合の手が震えている事にも気づいている。
もう、見つけてしまったのだ。
進んで助けることは諦めていたはずだけれど。自ら歩む気が、希望があるなら。
「……わかりやした」
紅鬼は、憧れの鬼の姿を蒼鬼の中に見つけました
蒼鬼は、昔の鬼の姿を紅鬼の中に見つけました
母親の愛を受けて育った紅鬼と、父親の懐を見つめて成長した蒼鬼
父親の懐を知らない紅鬼と、母親の愛を知らない蒼鬼
紅鬼が伸ばした手は、蒼鬼の手に届きました
家族になった二人のこの先は、また、別のお話
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3667/鬼百合/男/10歳/魔術師/初めて伸ばした手】
【ka3668/春咲=桜蓮・紫苑/女/22歳/闘狩人/父の背を追う決意】
副発注者(最大10名)
- 春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)