※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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Etertnal pure white
桜憐りるか(ka3748)には、遠く離れて暮らす父と兄が居た。
過保護な父と、優しい兄。
兄が世話好きだった事もあるのだろう。りるかは、よく兄に世話を焼いて貰っていた。
泣いて家に帰ってきた時も、優しく慰めてくれた。
愚痴についてもすべてに耳を傾けて、小さく頷いてくれる。
りるかにとって、兄はとても大切な人だ。
そして――『あの人』も、兄のような存在と思っていた。
●
「とても良くお似合いですよ」
浴衣姿のりるかを前に、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は優しく微笑みかける。
冒険都市リゼリオで特別開催されていた東西交流祭の別企画『東方露天会』。
東方地域にも存在する露天をリゼリオに呼び寄せて開催しようという企画であった。
実は西方諸国にも露天は存在していたのが、東方の露天とは大きく異なる。
夜になって灯される提灯の明かり。
赤く優しい色が周囲を照らし、露天に並べられた商品を浮き上がらせる。
東方の露天には独特の雰囲気があり、それが西方の人々を魅了していた。そのせいもあってか、東方露天会には非常に多くの人が押しかけていた。
(頑張った甲斐が……あ、ありました)
浴衣姿を褒められたりるかは、そっと胸を撫で下ろす。
この企画の存在を知ったりるかは、自身を奮い立たせてヴェルナーを東方露天会へ誘った。ヴェルナーからすれば東方地域に関する情報収集という理由が成り立つ。りるかが会の参加を促したとしても、無碍には断られないだろう。
既にスケジュールも確認済み。りるかの知っているヴェルナーなら、きっと一緒に東西露天会へ参加してくれるはずだ。
「あ、あの……おかしくは、ないでしょうか……?」
「ふふ、おかしくなどありませんよ。とても魅力的です。お嬢さ……いえ、私のレディ」
ふいにヴェルナーがお嬢さんと言い掛けた後、直ぐに呼び方を変えた。
私のレディ?
りるかが今までヴェルナーにそう呼ばれた記憶はない。
いつから変わったのだろうか。
「あの……『私の、れでい』とは……?」
「おかしな事を仰いますね。私を試されているのでしょうか。でしたら、私もそれに答えねばなりませんね」
ヴェルナーは、そっとりるかの右手を手に取った。
あまりの自然な流れで、りるかは抵抗する余裕すらなかった。
(……え……ヴェルナーさんが、て……手を……)
頬が紅潮するりるか。
ヴェルナーの手袋越しではあるが、りるかの手にヴェルナーの温もりが伝わってくる。
「参りましょう、レディ。私を案内していただけるのですよね?」
●
露天には様々な商品が並べられている。
屋台寿司や蕎麦、竹細工――中にはりるかが東方で見た記憶の無いソース焼きそばやフランクフルトまで存在している。どうやらリアルブルーの商品を露天で売る商人まで紛れ込んでいるようだ。
りるかは、ヴェルナーに一つ一つ商品を説明していく。
「なるほど。この小さな弓で的を当てれば、商品を貰う事ができるのですか」
「……は、はい。『的あて』と、言います……」
りるかは、いつも以上に言葉の歯切れが悪い。
その理由は明らかだ。
説明している間中、ヴェルナーがりるかの手を握り続けているからだ。
事前に露天をチェックして商品の説明をできるようにしていたのだが、これだけヴェルナーに密着されてしまっては説明どころではない。
「あ、あの……」
りるかは思い切って話し掛けてみた。
このままでは恥ずかしさのあまり気絶してしまう。
「はい、何でしょう?」
「て、手が、ですね。その……握られて、いると」
「握られていると?」
りるかの言葉を繰り返すヴェルナー。
少々、りるかには意地悪っぽくヴェルナーが見えているのだが、今は伝えるべき事を伝えなければ――。
「……と、とても……恥ずかしく、て」
言ってしまった。
恥ずかしいという言葉は、周囲を意識しての言葉だ。
周囲から見られた自分を想像する事で芽生える感情だ。
嫌ならば既に自ら手を離している。
そうしないのは、ヴェルナーに『そうではない感情』が少なからずあるからだ。
だが、ヴェルナーの反応はりるかの想像とは異なっていた。
「恥ずかしい? 何故です?」
笑みを浮かべながらも、ヴェルナーは小首を傾げる。
路上で立ち止まる二人の横を、露天見物の客が通り過ぎていく。
こうしている間にも通行人に見られているのだが、ヴェルナーは今もりるかの手を握り続けている。
りるかは、再び自分を奮い立たせる。
「手を……に、握られていると……胸が、ドキドキして……」
「ふふ、その可愛らしい顔に免じて手を離して差し上げます。少々名残惜しいですが、仕方ありません」
ヴェルナーはりるかの手を、そっと離した。
離れる手。りるかは、ヴェルナーの遠ざかる手を自然と目で追っている。
寂しそうな表情へと変わったりるかの顔。
その様子見をみたヴェルナーは、満足した様子で露天にあった弓を手にした。
「弓を射て、的に当てればよろしいのですね?」
「……え。あ、はい」
一瞬遅れて返事をするりるか。
その言葉を待ってから、ヴェルナーは弓の弦を大きく引いた。
「私のレディの為、的に命中させましょう。真ん中に命中したら、『お願い』を聞いていただきます」
「え……お、お願い……?」
「残念。レディの答えは不要です。私が勝手にお願いを実行しますから」
呆気に取られるりるか。
次の瞬間、ヴェルナーが放った矢は――的の中央へと吸い込まれていった。
●
――おかしい。
りるかは違和感を感じていた。
明らかにいつものヴェルナーとは違う。
りるかに対しての対応が、いつも以上に『近い』のだ。
(……歪虚の、仕業? ……でも、それなら……おかしい)
自問自答を繰り返すりるか。
だが、当のヴェルナーは的を命中させて嬉しそうに道を歩いている。
お願いと言っていたが、一体何をするつもりなのだろうか。
「この辺でよろしいでしょうか……レディ」
「……え」
唐突に、りるかの手が強引に引っ張られた。
そこは露天が多く立ち並ぶ広場。
今回の東西露天会で、もっとも人通りが多い場所である。
引き寄せられたりるかの前には、ヴェルナーの胸元。
自然と二人の吐息が、お互いにかかる。
「あ、あの……な、何を」
再び紅潮するりるかの頬。
耳を澄ませば、ヴェルナーの鼓動が聞こえてくる。
「ふふ、言ったでしょう。お願いをここで叶えます」
そう言ったヴェルナーは、りるかを抱え上げる。
足が地面から離れ、りるかの体はヴェルナーの両腕に支えられる。
世に言う――『お姫様抱っこ』という奴だ。
既に通行人達は二人の姿を見つけて、視線を集めつつある。
何か催しでも起こるのかと期待している様子だ。
「ちょ、ちょっと」
「私の願いは、私のレディをここにいる者達に見せ付ける事です」
りるかは、お姫様抱っことヴェルナーの言葉で恥ずかしさの最高潮を迎える。
まさかヴェルナーがここまで積極的だったとは。
いや、そんな事よりこの状況を何とかしなければ。
「ま……待って、下さい。は……は、恥ずかしくて」
「恥ずかしがる事はありません。皆さんに見ていただきましょう。
私の……最愛なレディがこんなにも美しく、愛おしい事を」
愛しい?
最愛?
りるかの頭は、パニック寸前だ。
ヴェルナーはクスッと笑みを浮かべると、りるかの耳元で囁いた。
「安心して下さい。見せびらかすだけです
私は、誰にもあなたを触らせたくない。私のだけのレディとして、ずっと抱きしめていたい。
私は、世界一の幸せ者です。
愛しいあなたと、こうして二人で過ごせるのですから――レディ、私はあなたを……」
●
「…………!?」
りるかは、飛び起きた。
周囲を見回せば、リゼリオの宿。
寝ぼけた頭を起動させて思い返す。
東西露天会は存在せず、露天商もいない。
そう――すべては夢の出来事だった。
「ゆ、夢……」
りるかは安堵した。
だが、心に残る寂しさに似た感情。
その感情に合わせるように、胸は激しい鼓動を打ち続けている。
(最近、ヴェルナーさんに……お会いできて、いないと思ってはいたの……ですが。
あたしは、夢に見る程……会いたかった、という事で……しょうか)
夢の内容を思い返すりるか。
次の瞬間、夢で見た自分のように頬が紅潮し始める。
体を震わせ止まらない鼓動に振り回される、誕生日の朝であった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3748/桜憐りるか/女性/17/魔術師】
【kz0032/ヴェルナー・ブロスフェルト/男性/25/疾影士】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊です。
この度は発注ありがとうございます!
本編では描けない物を描く為にOMC登録させていただいたのですが、今回のノベルで目的の一つが果たせた気が致します。少し積極的なヴェルナーを前に、振り回されるりるかさんでしたが如何でしょうか? ご満足いただければ幸いです。
それではまたご縁がございましたら、宜しくお願い致します。