※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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心の内とは裏腹に……
先日、開催されたパーティの席。
想い人がみせた、ある行動。
それは挨拶だと、頭では理解している。
理解しているのだ。
だけど――。
「んぅ……あれは挨拶なの、ですよね。でもヴェルナーさんと親しそうだったの。それに距離が……」
普段は物静かな桜憐りるか(ka3748)だったが、思わず口から本音がこぼれ落ちる。
それは、怒りと嫉妬が入り交じった複雑な感情。
出してはいけないと分かっていても漏れ出てしまう。
自然と震える唇。
一瞬だけあの人の姿を視線で追うが、視界に入った途端に別の方向へ視線をずらしてしまう。
一体、どう接すれば良いのか。
りるかは、ただ戸惑うばかりだった。
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「いけませんね。レディからの誘惑に抗う事ができません」
りるかの目の前で、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は帝国貴婦人の前で傅いた。 ヴェルナーの右手には、貴婦人の手。
そして、貴婦人の手の平にそっと口づけをする。
それを目撃した瞬間、りるかの瞳孔は大きく見開いた。
「……!っ」
再び入り交じる感情。
りるかの脳内を飛び回り、混乱を誘発する。
一体、何をどうすれば良いのか。
呼吸が荒くなっていく。
(だ、ダメ。まずは、冷静に……)
ゆっくりと呼吸を整えるりるか。
だが、体の震えを押さえ込むのは簡単な事ではない。
少し離れた場所にいたヴェルナーを目にしただけで――。
(あ、頭の中で、整理できない……でも)
りるかは、自らの頭に生まれた嵐を押さえ込んだ。
これでも東方を出て幾つかの経験をしてきた。
あの頃の自分とは違う。少しはコントロールする術を覚えたのだ。
頭を上げてヴェルナーに視線を向けるりるか。
「……ううっ」
チクリ、と胸が痛む。
だが、このまま臆してはいけない。
このままヴェルナーから無視されてしまう存在になってもいいの?
このままヴェルナーから忘れられてしまった存在でもいいの?
――否。
そんな事、あってはいけない。
不安から来る怯えは、いつしか勇気となってりるかを歩ませる。
目指す先は、ヴェルナーと貴婦人の間。
あの二人の間に立ち入って、邪魔をするのだ。
「ヴェルナーさん、それはダメ……。止めないと」
一歩、一歩と進むりるか。
しかし、あと数メートルという地点で足が止まってしまう。
感情は今にも走り出しそうな勢いなのだが、足がどうしても前に出て行かないのだ。
「なんで? どうして?」
疑問を口にすれど、りるかはその場から動けない。
いつしかりるかの原動力だった勇気は、ヴェルナーへの気遣いと怒られるのではないかという不安で小さくなっていく。
気付けば、臆病で気弱なりるかへ逆戻りしてしまっていた。
こうしている間にも、ヴェルナーは帝国貴婦人と楽しそうな挨拶を交わしている。
(ヴェルナーさん、気付いて。あたしは、ここにいます)
ヴェルナーに向かって必死に手を伸ばすりるか。
だが、ヴェルナーはまったく気付く素振りもない。
まるでヴェルナーが遠くへ離れていく感覚。
一人、その場へ置いて行かれる。
いつしか周囲には誰もおらず、一人残されるりるか。
「待って、行かないで。ヴェルナーさん、あたし……あたし……」
必死で追い求めようとするが、それでも足は動こうとしない。
動かなければ、あの人は――ヴェルナーは行ってしまう。
だけど、あと少しの所で踏み出す事ができない。
暗闇の中で灯る蝋燭のように、離れていくヴェルナー。
「あたし……居たい。ずっと、ヴェルナーさんの傍に……誰にも邪魔される事無く……」
貴婦人のいる場所は、本来自分が居るべき場所。
なのに、自分はそこへ赴く事すらできない。
悔しさと悲しみに塗れたりるか。
気付けば自分の中にあった本当の気持ちを口にしていた。
「ヴェルナーさんの傍らに……あたしがいたい、です」
その言葉を口にしたりるかの意識は、何故か薄らいでいく。
●
「……う、ん」
意識を取り戻したりるか。
ぼやけていた視界がゆっくりと鮮明になっていく。
再び色を取り戻した世界が、りるかの眼前へと広がっていく。
気付けばベッドの上で横たわり、布団が掛けられている。
一体、何が?
そう思うよりも前に、りるかに思わぬ展開が訪れる。
「お目覚めになりましたか、レディ」
りるかの傍らには椅子に腰掛け、手にした本を閉じるヴェルナーの姿が飛び込んできた。
ぼーっとしていた頭であったが、ヴェルナーの姿を認識した瞬間にりるかの頭は一気に働き出す。
「……! ヴェルナー、さん!?」
「はい、何でしょう? もしかして、起こしてしまいましたか?」
物凄い勢いで頭を横に振るりるか。
事態が飲み込めず、どうしてこうなってしまったのか。
りるかの様子を察したヴェルナーは、ゆっくりと状況を説明する。
「ふふ、落ち着いて下さい。りるかさんは、パーティの最中に疲れて眠ってしまったようです。ですので、私がここまで運ばせていただきました。
確か、『お姫様だっこ』という格好でしたね」
「……!!!」
ヴェルナーはわざわざ『お姫様だっこ』の部分を強調して見せた。
どぎまぎするりるかを見たかったのだろう。
何処かヴェルナーの顔に悪戯っぽい笑みが浮かぶ。
「ヴェルナー、さん」
「ふふ、失礼しました。起こすといけないと思ってお声かけしませんでしたが、お疲れなのでしょう。もう少しお休みになった方が良いと思います。
私はりるかさんの為に水を……」
そう言って立ち上がろうとするヴェルナー。
だが、その言葉を受けてりるかは咄嗟にヴェルナーの制服の裾を掴んだ。
りるかに引かれた服はピンと張り詰め、着ていたヴェルナーの体を引っ張った。
「……あ」
りるかも何故そうした行動に出たのか分からない。
ただ、はっきりしているのは『ヴェルナーの傍らにいたい』という想いだけ。
自然に取った行動だったが、その行動だけでもヴェルナーには十分伝わったようだ。
「ふふ、可愛らしいですね。ですが、言葉ではなく行動で示されるとは。
私のレディは、案外行動派なのかもしれません。分かりました、もう少し傍におります。
あなたの温もりと息遣いを、もっと傍で感じさせていただきますね――私の愛しいレディ」
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「……夢?」
りるかは、いつの間にか眠ってしまったようだ。
要塞ノアーラ・クンタウの休憩室。そこのベッドの上で眠っていたりるかは、徐々に頭を働かせていく。
どうやら先程のヴェルナーはすべて夢の中の存在だったようだ。
だが、そのリアル過ぎる夢のヴェルナーを忘れる事ができない。
「ヴェルナーさんの傍に……あたしがいたい……」
夢の中で呟いた言葉を、現実でもう一度繰り返すりるかであった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3748/桜憐りるか/女性/17/魔術師】
【kz0032/ヴェルナー・ブロスフェルト/男性/25/疾影士】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊です。
この度は発注ありがとうございます!
今回もヴェルナーの夢の中の出来事ですが、様々な感情に忙しいりるかさんだったと思います。
でも、それがまた乙女なりるかさんらしいと思います。
様々な感情に振り回されながらも、強く逞しくその道を進んでいっていただきたいです。それではまたご縁がございましたら、宜しくお願い致します。