※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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灯籠アパートの604号室の吸血姫
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なぁ、知っとる?
ここで暮らしたきゃ、先ずは命を落とさなあかんのや。
死んでからが戯びの本番ってな。永遠に続くパーティタイムや。
うちにぴったりやろ?
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雨雫に頬を打たれたんみたいに、うちは目を覚ました。
……やけど、脳細胞が起きてへんわぁ。
焦点が定まるまで何度か瞬きぃして、瞼ん上に架かった蜘蛛の巣を払う。
あー……。
見慣れた天井、やな。っちゅーことは、うちの部屋や。
……なんや、無意識ん強張ってたんやろか。肩が、ほっとしたようにベッドん沈む。幼気な少女じゃあるまいし、しょーもな。
まぁ、むかーしむかしは“一夜のベッド”で目が覚めることもあったよって……若気の至りっちゅーやつやな。……言い訳とかちゃうで?
うちは手探りでナイトテーブルの上をまさぐった。
とけいとけいー、うちのかわえぇカボチャのとけいー、って――うちの指先は空を掻き回すだけで、なんの手応えもあらへん。
うちは眠気と気怠さが残る身体を起こすと、アンクレットを鳴らしながら脚を床に放り出す。
「あいたぁ」
足の裏ぁ小突いたんは、にかっと笑うカボチャ。口の中ん闇は17時を浮かべとる。あかん、シャワー浴びて準備せんと。
「あぁ……血ぃ足りな……O型のブランデー味のパックまだ余っとったやろか」
やぁん、吊られた人形みたいんに足ふらつくぅ……。
金銀砂子な白蝶が煌めく天井の寝室を後にすると、うちは絶句した。
……。
………。
…………。
せや。夕べ、猫娘と枕投げもどきのぬいぐるみ投げしたんやった……。片付けせんと寝てしもうたんやったわぁ。ああぁぁもー! かわえぇにゃんこやわんこ、カピバラが転がっとるぅー! ……しっかしあの桃色にゃんこ娘、片付けせんと帰ったんは故意犯か……!
ファンシーに仕上がったリビングを抜けながら、うちは寝間着のシャツを脱ぎ捨てた。
「せや、この前香油市で買うたアロマでも垂らそかいな……♪」
オレンジブロッサムの香りが湧き立つシャワーを浴びた後、うちはカウンターチェアに腰かけながら湯上がりの輸血パッk……なぁんかこの言い方どうもなぁ……。まぁ、ブラッディ・マリーもどきをちゅーちゅーしとるんよ(なげやり)
さぁて、これ飲んだら着替えんとな。約束に遅れてまう。
そういやドレスコードあるレストラン言うてたな。ま、そうでなくても折角のデートやし、気合い入れておめかしせんと。
うちはクローゼットからラピスラズリのナイトドレスを引き出し、白薔薇の蔓が絡むドレッサーからは鷲目石のブレスレットと蝶のチョーカーを摘まみ出した。
「ほんま、夜の女やんな……うち」
そんなことを呟いとると、リビングの電話がカタカタ鳴った。テレフォンスタンドで揺れるこの髑髏、実は電話なんよなぁ。髑髏ちゃんの頭に手のひらぁ置くと、受話んなって、髑髏が喋り出すって仕組みや。ふふん、おもろいやろ?
『白藤か? 俺だ』
あら、灯籠アパートの家主やないの。ランタンショップを経営しとって、うちの今夜のランデブー相手やね。
「どうしたん? 約束の時間まで我慢できひんなった?」
うちがからかうと、髑髏の向こう側で余裕を含む微笑みの吐息が聞こえてきた。……くそぅ。
『白藤、今、君の側に時計はあるか?』
「うん? そりゃあるけど、それがどうしたん――」
視線を壁の梟時計に移して、うちは今日二度目の絶句を――いや、さっきのとは比べもんならへんくらいに呼吸が殺られた。
じゅうくじさんじゅうごふん……!?
「えっ……ちょぉ、まって……や……」
約束の19時とうに過ぎとるやん!?
え、せやかてカボチャ……さっきのカボチャ、まだ時間あるよって……――はっ! まさか床に落ちた時に時間止まってもうてた……!?
軽くパニクっとるうちの心境を察した彼の微笑む声が痛いぃ……。
『気にしなくていい。レストランでのディナーは又の機会にしよう』
「ちょ、ちょう待ってぇや。うち、すぐ出られるさかい、今からでも――」
……あかん。予約時間厳守の店ぇ言うとった。あぁぁ……! うちがじたばたしとると、思いも寄らん提案が髑髏の口から飛んできた。
『ああ、だから、君さえよければ、これから部屋で何かご馳走になってもいいだろうか』
「……うちの?」
むぐぅ。不覚にも、胸が弾んでしもた。
まぁ、今夜は満月やないし、色気製造器の狼男を迎えて夜の時間を過ごすのもえぇやろ。挽回のチャンスやで、うち!
「よっしゃ、腕に縒りをかけて作ったる♪」
『君ならそう言ってくれるだろうと思い、食材を買って既にそちらへ向かっているんだ』
「あら、じゃあ楽しみに待っとるわ」
うちは髑髏から手を離すと、両頬にピシッと気合いを入れて、リビングを振り返った。
……。
………。
…………。
ファンシーなん忘れとったーーーーーっ!!!
(無情なインターホンの音)
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3768 / 白藤 / 女性 / 外見年齢:28歳 / 夜さりの吸血姫】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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平素よりお世話になっております。ライターの愁水です。
先ず始めにもの申させて下さい。楽しかった……!( 白藤姫様はこの後、狼男にさぞ揶揄されたことでしょう←
ハロウィンの時期と重なりましたので、不思議可笑しな内容にしたいなぁとあれこれ考え……今回のようなノベルとなりました。当方の趣味丸出しですが、如何でしたでしょうか?(ドキドキ)
当初、白藤姫様は魔女でした。が、どうもしっくりこず……白い肌にワインという血が似合いそうな吸血姫とさせて頂きました次第です。
白藤姫様の喋り方は当方なりに勉強させて頂いてはいるのですが、違和感等がある箇所は遠慮無くお申し付け下さい。
此度のご縁、誠にありがとうございました!