※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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恋の花咲く夜の唄
天然の宝石をふんだんに使った甘酸っぱい綺麗なタルト、ほろ苦いビターなクッキー、降り積もった雪のようなカップケーキ。
紅茶葉のスコーンに紅芋のスイートポテト、アクセントには宝石のような琥珀糖。
三人を出迎えたのは、未悠が腕によりをかけて用意したたくさんのスイーツ、そして満面の笑顔の未悠自身であった。
シンプルなパフスリーブとショートパンツという出で立ちだが、要所要所に編み込まれたレースなどが可愛さを演出している。
「どれも低カロリーでとっても美味しいのよ。見た目も可愛いでしょう?」
未悠が自信満々に披露したものはスイーツショップのバイキングもかくやという品揃え、その光景に思わず言葉を奪われた。
少しの間のあと最初に戻ってきたのはルナだった。
「すっっっっっ……ごいよ未悠ちゃん! プロのパティシエさんみたい!」
心をくすぐる魅惑の花園に、深いアメジストの瞳がきらり。
着ているシンプルなワンピースの裾にあしらわれた音符たちが今にも踊りだしそうである。
「ミユは流石だね! どれも綺麗で目移りしちゃいそうだよっ」
どれを捉えればいいものかと青い瞳が迷うように揺れている。
その姿を覆うのは鮮やかな太陽の金髪とは異なる夜の華。
「未悠さん今日はお誘いありがとうございます」
淡い水色のワンピースがふわりと揺れる、青と緑のオッドアイ、瞳が楽しそうに微笑んでいる。
「私も、来てくれて嬉しいわ。今日はいっぱいお話しましょうね」
まだ話を始める前から上がるテンションに、今日はとびきり楽しい夜になる、そう予感せずにはいられない。
「あ、そうだ未悠ちゃん、これお土産」
「わぁ、ありがとう!」
「未悠さん、台所借りてよろしいですか? ハーブティーを持ってきたんです」
女四人よればかくも、である。
かくて彼女たちの小さな夜のパーティは幕を開ける。
――さぁ何を話しましょう?
「それでそれで? アルカはどこまでいったの?」
未悠のやや食い気味なぐらいの質問攻めに、アルカもちょっと苦笑しつつ顔を赤らめては視線を泳がせる。
照れと恥ずかしさが入り混じったその表情は、それだけで進展があったのだろうと察して余りある。
「未悠さんはアルカさんのことすごく気になってるんですね」
「そりゃあ、フォーチュンショップでの告白に居合わせちゃったし、気にもなるっていうか……エステルも見たでしょう?」
「はい……すごく、羨ましかったです」
「い、居合わせちゃったんですか!?」
ルナの驚きの声うんうんと頷いて返す未悠、思い返す二人のやり取りは――
「すっごい……情熱的だったわ」
うっとりと語られるそれが恥ずかしくなって、アルカはタルトを一切れ手にとってぱくり。
唇についた果汁をぺろりと舐めて、フルーツタルトに舌鼓。
「キスぐらいは……うん。髭がくすぐったくて、ちょっと笑っちゃったりするんだけど」
きゃぁ、と上がる黄色い声。
恋する乙女を一歩先ゆくアルカ、そんな彼女を見て微笑みながら、あの時の祈りは通じたのかもしれないなとエステルは思う。
あとの3/4もお願いします、なんて。
「ねぇ、くすぐったい以外にはどんな感じ?」
クッションに顔を埋めつつ、ドキドキした様子のルビーの瞳が見つめてくる。
そんな瞳を向けられる立場になって、あの副師団長という男の度量を思い知った気がした。
「う~ん、そうだなぁ……キスのときは、そっと抱きしめてくれるんだけど、それがすごく安心するんだよね。満たされるというか、落ち着くというか」
思い出しているのだろう、手近にあるぬいぐるみを無意識にか抱き寄せる腕に確かな力が篭もる。
強すぎず、弱すぎず、確かめるようなそんな仕草。
それは見る者にイメージを促すのに十分なものだった。
自然、エステルもルナも、ぬいぐるみやクッションを手に想い人の姿を思う。
それはとても幸せな想像だ。
叶うのならどんなに素敵だろうか。
そんな二人の隣で、
「ああっ、ダメよ恥ずかしくて嬉しくて死んじゃうから!」
ヒートアップしてクッションに顔をぼふりとやる未悠の姿があった。
「未悠さん耳までまっか……」
そんなエステルの声も今の未悠には聞こえていない様子で、一体どこまで想像したのやら……。
でもそれも仕方ない、人を好きになるというのはそういうものだ。
「そう言えばアルカさん、御式の準備はどう?」
「アルカちゃんプロポーズはもう済んだんだよね? どんなだったの? 場所はどこだったの?」
オーバーヒートから帰ってこない未悠を尻目に、質問攻めは更に続く。
「プロポーズは、すっごい古式っていうか……彼らしいなぁ、って感じだった。白百合の花と一緒にね、『妻問い申し上げる』って」
「あー、言ってたね」
「うん。『お受け致します』って返したんでしょう?」
「ちょっとまって、彼その話してたの!?」
まさか自分のプロポーズ事情がすでに話されていたとは思わず今度はアルカが赤くなる番である。
話は二転三転し、少しした頃には未悠も戻ってきた。
「アルカの話は色々聞いたけど、ルナはどうなの? 相手、エステルのお兄さんなんでしょう?」
ルナからのおみやげである濃厚チョコを一つひょいと口に放り込む。
とろりとした舌触りに広がる濃密な甘露に思わず顔が綻んだ。
「え、えっ!? ……う、うん」
驚きは一転、赤くなってうつむくルナに、未悠の予想が正しいものだと証明された。
「……いつから、気づいてたの?」
「ふふっ、ルナはわかりやすいもの」
そんな返しに三人して、貴方も十分に分かりやすいよ、とは言わずにおいた。
ほんの少しの沈黙、交錯するルナとエステル、二人の視線をアルカと未悠はそっと見守るよう。
先に口を開いたのはエステルの方だった。
「……ずっと、聞けずにいたんです」
実の兄が絡むこととなれば、事の成り行きは二人の関係にも関わってくるかもしれない、そんな僅かな不安が、おそらく口に出させずに居たのだろう。
そしてきっと、それはお互い様なのだ。
「えっと……その……ごめん」
「ううん、嫌とかじゃないです」
ちょっとさみしいですけど、と口にして、少しの沈黙。
それはなんと言うべきかを探すためのもので――
「私は何があってもルナさんが大好きだから」
少しだけ照れくさそうに、紡いだ言葉。
「わ、私だってエステルちゃんのこと大好きだもん!」
思わずぎゅーっと抱きしめて、そうしてようやくお互いの不安が気にしすぎだったのだと確信できて、二人して笑う。
そんな二人のやり取りを見て、アルカと未悠もまた笑うのだった。
「それにしても……うちのヘタレた兄で大丈夫ですか?」
「気づいてもらうのに……まだまだかかりそう、かな」
あはは、と笑うルナに苦笑するエステル。
「ところで、ルナはええと、彼のどこが好きなの? いつから意識してたの?」
話題を振る未悠に、少し首を傾げて考えるそぶりをみせるルナ。
「う、う~ん……いつから意識してたのかは。ただ、いつもすごく自然で、優しくて……そんなところに気づいたら惹かれてた、っていうか」
「気づいたら恋に落ちていた、ってパターンね!」
「そうなのかな? そうなのかも……」
言われて、ああそうか、もう落ちちゃってるんだと思う。
だとしたら、無自覚に私を恋に落とした彼は、なんて素敵で無責任なのだろう。
これは絶対に気づいてもらわなければならない。
「頑張らないと、だね!」
「応援してます。お手伝い出来ることがあったら言ってくださいね、協力しますから」
「ありがとうエステルちゃん!」
仲睦まじく盛り上がる二人に、少し手持ち無沙汰になった。
そんな頃合いにアルカが未悠へと問いかける。
「さっきから色々聞いてばっかりだけど、ミユはどうなの?」
「わ、私も……気になります」
アルカの言葉にルナとエステルの反応は速く、質問攻めをする側から一転される側へと切り替わった未悠は複雑な表情でティーカップにそっと口付ける。
「私の気持ちを知ってるくせに翻弄してくるのよね。そんな意地悪な所も好きなんだけど……」
そんなところまで好きと言ってしまえるあたり、思いの強さや深さが見え隠れする。
いっそ全てが愛しい、と言わんばかりの様子である。
あの時だってそう、近づく彼の顔、あのまま首筋に歯を立てられていたら……想像するだけでも胸の奥が疼いてしまうというのに、彼ときたら……。
「あれは意地悪を通り越してたきもするけどなぁ……」
「え、なになに? アルカちゃん知ってるの?」
「一体何があったんでしょう?」
その場に同席していたアルカは、未悠の言っていることを察して同じように思い返したのだろう、それにふたりに話そうとして慌てた未悠が止めに入る。
わいのわいのと話は転がり次の矛先は……
「エステルちゃんは想い人とはその後どうなの?」
という、ルナの言葉によって決定した。
見守るような様子のアルカに、興味津々の未悠、そして親友のことだからと気になっているルナ、三者三様の視線を向けられてかばんの中に忍ばせているお護りのことを思う。
「今のところ、特に進展はない、です」
少し恥ずかしそうに、告げる自分の言葉はどこか寂しそうだと、その時気づいた。
「今でも十分満足してる、って……思ってたんだけど」
本当にそうなら、お護りを頼んだりなんかしないわけで、あるいは抑えられなくなっただけかもしれないけれど――淡い色の憧れは、確かな色を持ち始めているのかもしれない。
「皆さんを見てたら、やっぱり私も……って、思っちゃいました」
「うんうんっ! 秘めたままなんてもったいないもん、私応援するよ!」
思いを新たにしたエステルの、最初の相談事。
それは髪型をどうするかというもので、それぞれの提案に従って着せ替え人形のように髪いじりが始まった。
夜はとっぷり暮れており、月が空の支配者となって久しい頃合いである。
「これは、普段とは全く違う雰囲気で印象的だね」
アルカの提案に従って東方風のおだんご髪を試してみた、普段の穏やかな雰囲気とは打って変わって元気さ三割増しという感じである。
「うん、元気さマシマシって感じで凄くいいと思うよ」
未悠提案はポニーテールやサイドアップ、緩やかないつもの編み込みとは違った印象がありながらも、それでいてらしさが残る。
「うん、とっても可愛いわ。貴女の好きな人に見せたいくらいよ」
「どれも迷っちゃいますね……かわいい」
鏡に映る自分の姿の変わりよう、自分ではまず選ばないだろうその姿は魔法使いのドレスアップもかくやというものである。
髪型については答えが出ないまま話題はなおも移ろって、気づけば鳥のさえずりが聞こえ始めていた。
それにつられてか、みんな揃ってあくびを一つ。
「ふぁ……もう外が明るくなってきてるよ」
「あ~……ついつい話し込んじゃったね、夜更かしさんだ」
カーテンの隙間から溢れる陽の光に、ルナとアルカが口にする、そのろれつは若干回りきっておらず、思い出したような眠気を感じさせる。
「こんな時間まで起きてたの、ひさしぶり……」
「さすがに、眠いわね……」
お互いに視線を一つ送り合い、寝床へもぞもぞと潜り込む。
一緒に眠る友達の、ほのかな暖かさを感じつつ、誘われるままに幸せなまどろみへと溶けてゆく。
「アルカ、エステル、ルナ、大好きよ。これからも仲良くしてね」
「わたしも……みんなだいすきです」
「もちろんだよ、ずっと友達だもん」
「うんうん、これからも一緒だよ」
確かなぬくもりを感じつつ、想い人の夢を見る。
暖かく賑やかで、幸せな夜はこうして過ぎてゆく。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3199/高瀬 未悠/女性/17/七重の花蓮】
【ka1565/ルナ・レンフィールド/女性/16/あなたを想う淡光】
【ka0790/アルカ・ブラックウェル/女性/17/陽光の愛し子】
【ka3783/エステル・クレティエ/女性/17/ミュゲの娘】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご依頼ありがとうございます。
まさか女子会を書く機会が来ようとは……素敵なご縁をありがとうございます。
すでに結婚手前から、色づき淡い恋の花まで、ギャラリー見ては悶えつつ出来る限りじっくり書かせていただきました、お気に召していただければ幸いです。
皆様の恋が、素敵な実を結ぶ日をそっとお祈りさせていただきます。
もし「イメージと違う!」などありましたらリテイクなどお気軽にお申し付けください。
この度はご依頼ありがとうございました。
――紫月紫織