※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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未来への想像
背中を向けていても、彼の存在をいつでも意識していた。
振り向くのが怖かった事は、何度あっただろう。
意識の逸れた気配はわかるから、その時にこっそりと盗み見て、一人安堵に浸っていた。
逃避の感触はぬるくて、でもゆるりと焦燥が募る。
逃げるけど、逃げられたくなかった、なんて我儘。
幾度か迫る選択で彼を選び続けた、怖くて仕方なかったけれど、私の知覚範囲から彼が離れるのが嫌だった。
怖いのも痛いのも全部飲み込んで、彼と進む事を選んで――。
……。
『――だから、そんな彼女を、ヒーローだって思ったのです』
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鐘の響く音と、空に放り投げられるブーケ。
わぁと歓声が上がって、ギャラリー達がブーケを追って流れていく。
視界の端に映り込んだそれを暫し目で追いかけて、見えなくなったあたりで、ミコは感嘆のため息をついた。
祝福の白いドレスが舞う、綺麗で素敵で、心躍るけど、羨望ではなく幸せに当てられた感じに近い。
憧れはあるけど、それは恋愛に対してではなく、幸せへ向けられる気持ちだ。
物語はハッピーエンドがいいに決まっている、……あの人みたいに。
…………。
ミコトが持っている恋愛に対しての知識はそう多くない。
大半は恋物語好きな友だちから聞いたもので、後は、夢で見た二人の物語だ。
友だちが口にするようなフィクションでの定番、二人が惹かれ合って、障害を乗り越えながら、ゴールへ突き進んで行くようなラブストーリーではなかった。
人当たりが良くて、でも人から逃げてたような彼女。
表面上の付き合いが心地よくて、踏み込まれたくないけど人恋しく、だから輪の外でうろうろしている。
最後にはちゃんと向き合ってたけれど、振る舞いの裏に隠されたのは、怯えだと思う。
全く無縁だった訳じゃない、時には人の奥深くまで触れる事もあって、覚悟を持ってそれに向き合い、痛みを結末としていた。
彼女の話は、多くの逃避と、悩みと、手放さないための決意で出来ていた。
ずっと背中を向けながら、気にかけ続けて、決意で手にした、恋で終わる物語だった。
いつか貰った大切な言葉、正しい事をするのは、勇気がいる事なのだと。
彼女を見て、もしかしたら勇気というのは思っていたよりいっぱい必要なのかもしれないと思った。
彼女から伝染したような、うっすらとした怯え。
理由はわかるようでわからなくて、人と向き合うのは勇気がいるのかなと、ぼんやり思っていた。
だからだろうか、恋をもって突き進む友だちがとてもまぶしく見える。
恋をしたいとはまだ思っていないけれど、強くなりたいから、恋を知りたいと思っていた。
自分はいつか彼女のように怯えるかもしれないけど、彼女のように強くなれるかどうか、わからなかった。
「出来るかなぁ……」
彼女に憧れた、迷って挫けても、大切なものを諦める事だけはしなかったから。
この先自分が怯えるものも、怯える理由にも想像はつかない。
そもそもうちの怖いものってなんだろうと、まずそこからだった。
すっごく強くて倒せない敵を想像してみる、怖いけど……ちょっと違う、怖いのは敵じゃない、脅威と怖いは違う気がする。
じゃあ自分が死ぬところを想像してみる、当たり前だけど死ぬのは嫌だ、死ぬ訳には行かない、そう思った、……何か足りない。
『大切な人がいなくなる』――ああ、それは、凄く体が竦む。
「……そんな」
そんな事は起こりえない、そう思いたかった。
幼馴染が自分を置いていく所なんて想像出来なかったし、どんな事があっても、どんな強い敵でも、彼らを先に死なせる事だけはないと、そう思っていた。
――だって、うちが守るから。
そのためなら、怪我だろうが瀕死だろうが恐れる事はないだろう。
戦いに不安はない、――人の気持ちはよくわからないけど。
強迫観念にも似た焦燥。
そうであって欲しいという思い込み。
――大丈夫……大丈夫だよね?
知らないものに対する心構えなんて出来るはずもない。
恋はおろか、複雑な心の事すら、まだわかってるとは言えなかった。
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――貴女が踏み出したのは、恋をしたから?
――結論だけ言うなら、そうかも?
――恋ってどんなもの?
――貴女がいずれ、見つけるかもしれないもの。
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【ka3953/ミコト=S=レグルス/女性/16/霊闘士(ベルセルク)】