※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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ヒーローの選択
ハロウィン、クリムゾンウェストでの呼び名は万霊節。
祭りの内容自体はリアルブルーとさして変わらず、違う点があるとしたら、クリムゾンウェストでは多少の地域差こそあれど、概ねポピュラーなお祭りとなっている事だろう。
「お菓子はもらえますかっ」
ミコが両手をぐっと握って尋ねると、商店街の人たちはあっはっはと笑いながら、勿論と答えてくれた。
やった、とはしゃぐミコと、それを微笑ましく見守る商店街の人たち。
「でもね、夜に出歩くならちゃんと仮装をするんだよ。
戻ってきた死者の霊達に、連れて行かれちゃうからね――」
…………。
あれ? 仮装? 仮装ってそういう意味だったの?
途端に動きを止めたミコをからかい甲斐があると思ったのか、商店街の人たちは雰囲気たっぷりに逸話を話してくれた。
曰く、万霊節は死者が戻ってくる日である。
曰く、この時期はこの世とかの世に門が開くと信じられている。
曰く、仮装は悪いものから身を隠すためにするもの。
概ね事実なのが悪いところで、幼馴染たちに確認してもそういう話で間違いないと言われてしまう。
「殴って倒せると思う……?」
「殴ってみたことないからわかんないなー」
もっともである。
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夢の中、暗い街を彷徨っていた。
建物はあるのに生活の気配はなく、まともな場所ではないと感覚に訴えて来る。
無人の街にしては風の流れが緩やかで、呼吸に自分以外の音が混じってるような錯覚があって、緊張感が抜けないまま、ミコは慎重に街をすり抜けていく。
いつからこうなってしまったのか、ミコの感覚は自分が違う場所に迷い込んでしまったのではなく、自分がいた場所が変わってしまったのだと感じていた。
昼が夜に変わるように、一変した世界。万霊節の『門が開く』とはこういう事なのだろうか。
人間ではないものの気配はひしひしと感じていて、見つかったら連れて行かれてしまう事もちゃんと理解していた。
怖い、それでもミコはこの場所から逃げ出そうとせずに、街を彷徨い続けている。
――幼馴染たちはどこ?
自分一人で逃げる訳には行かない、暗い世界で彷徨うミコが最初に考えたのは、逃げ出す事ではなく、助けを求める人のところへ向かう事だった。
逃げるなら、彼らを見つけてから。だって、それが『ヒーローのする事』だから。
不穏な気配を引き離すようにして走る、何かが来ているのはわかっていたけれど、振り向く勇気はなくて、ごめんなさいと心の中で謝りながら駆け抜けた。
おばけは、怖かった。戦えないし、殴れないし、よくわからない不思議パワーを向けられた日にはどうすればいいのかさえ解らない。
止める手段も抗う手段もない、一方的に襲われ、奪われるという事に原始的な恐怖を感じてしまう。
怪談では良くある話だ。
――不慮の死を遂げた人間が、無念の余り生者から欠けたものを奪いに来ると。
それは、ダメだ。
あなた達に渡す訳にはいかない、うちの、大切な――。
…………。
「――――!」
奪われたくないと強く思い、建物を駆け抜けて行く先で、気がつけば大切な幼馴染の男の子を見つけ出していた。
不安に比例して迫ってくる気配も強くなっている、幼馴染の様子も碌に確認する事が出来ず、手を掴んで再び走り出した。
足には自信がある、けど。
――本当に? 戦えないものを相手に、うちは彼を守りきれる?
不安が形になったように、不吉な気配が勢力を増した。
後ろから追って来ていた気配は、今や左右にまで回り込んでいた。突き進んだら鉢合わせしそうに思えて、ミコは思わず足を止める。
これは――どうすればいい?
触れられたらアウトだろうか、突破口はあるだろうか、
武器は――気がつけば手の中に握っていた、手に馴染んだ感触なのに、普段よりやや重く感じる、それを押し込みながら、ミコは油断なく気配を牽制する。
ざわめきのようなひそひそ声。
異物に向けられるその眼差しに、ミコは覚えがあった。
生者だ、生きてる、ヒーローだって、なんで、女のくせに、変なの、おかしい。
不快感で状況を見失う、いつもなら幼馴染が冷静にさせてくれただろうに、夢の中ではそれにすら思い至らなかった。
『おねえちゃん』
たとえ歪虚でも、死者に剣は向けにくい。
ミコは至極まっとうな倫理観の持ち主だったし、幾ら自衛のためとはいえ、死した相手に追い打ちをかけるような行為には忌避感もあった。
だから、それだけはして欲しくなかったのに。
『そのお友達、わたしにちょうだい』
伸ばされた手に途轍もない恐怖を覚えて、ミコは反射的に剣を振り抜いていた。
亡者とはいえ、年端もいかない女の子に剣を振り下ろしたのだという、衝撃と驚愕だけが後から来る。
途轍もない罪悪感と後悔が後を引いて――。
…………。
「――……!!!」
現実を取り戻し、ミコの意識は急速に引き戻された。
夢だ、ミコは誰も斬ってはいない。
世界は変わっていないし、ミコも幼馴染たちも、危機に直面する事もなく、またいつも通りの日常を迎えている。
動悸が残る体を抑え込みながら、ミコはふらふらと洗面所に出ていった。
「――……」
夢だ、だから彼はきっと無事で、何事もなくて、顔色の悪いミコを見て怪訝な顔をするのだろう。
夢である事に安堵した、女の子に剣を向けた事も、幼馴染に手を伸ばされた事も、その全てが夢になって良かったと思ってしまった。
衝動的にやった、他の方法が思いつかなかった。
――ヒーローって、どうするのが正しかったんだっけ?
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3953/ミコト=S=レグルス/女性/16/霊闘士(ベルセルク)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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さじ加減に悩みましたが、今回はとりあえずここまで。