※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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緋翼と風の加護
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かつてクリムゾンウェストにおいて、最も紅き大地ーー即ち、辺境で、このようなことが起こった。
とある森の深くで、一人の男が命を救われたのだ。
傷だらけで地に伏す男は、それでも、あらゆる意味で幸運であったといえよう。
ひとつには、彼の地に於いては未だ森の恵みと暮らしは不可分であること。これが他の地域であれば人目に触れる前に彼の生命が果てていたであろう。
さらには、蒼世界には在らざる脅威、歪虚もある。その暴威に晒されないままに、彼は人の手によって救われた。
心やさしき一族に拾われたことが、その最たるものだ。一族は持てるものを尽くして治療に望んだ。身なりから、少なくとも辺境のものではないと知れた。ともすれば、この世界の住民ですらないかも知れぬ。それでも彼らは男の生命を救った。
目を覚ました男に、一族の者は言葉を投げた。
『名はなんという』
男は、応えることができなかった。
自失したままーー疼く頭を押さえることしか、できなかったのだ。
男がどれだけ自問しようとしても、記憶の蓋は固く閉ざされたまま、開くことはない。
恐怖と苦痛に呻く彼の背に、柔らかく手が添えられた。ゆるやかに摩られる中、老成した声が、男の耳朶に触れる。
『よい。今は休め』
その背に身体ごと預けるように、眠りに落ちた。目を背けてもよいのだと、赦しを得たようにも思えたのだ。
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元より住処と違う土地とはいえ、この地で生きねばならぬ以上、名がなくては不便極まる。
男は一族の長より風の翼、と名づけられた。
『くぃーろ……』
反駁する男は、茫洋とした瞳の色のまま、一族の長を見やった。その意味するところを知らされた彼は暫しの後、
『クィー、ロ……』
言葉を、舌で転がした。
その瞬間のことだった。胸の裡に風が吹き込んだ心地がした。漠然とした不安を祓うように、クィーロ・ヴェリルの名が染みこんでいく。
再び、《クィーロ》は一族の長を見つめた。苦労の滲む皺だらけの顔に、さらに皺が刻まれる。それが笑みだ、と気づいて、クィーロは目を見開いた。
『風のように、何物にも囚われず自由に生きろ』
ーーこの世界で。
そう、言われているのだ、と気づいた時、クィーロは澎湃と涙を流した。
クィーロ・ヴェリル。自分は、そうして生きていくのだ、と。はっきりと理解したのだった。
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こうして、クィーロ・ヴェリルがこの地に生まれた。
その過去に蓋をしたままーー優しき風の恩恵と、加護を受けながら。
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4122 / クィーロ・ヴェリル / 男性 / 25 / 緋鳥の翼、その風の加護よ】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。ムジカ・トラスです。この度は発注いただきありがとうございました。
おまけノベルの納品をさせていただきます。
クィーロさんの、過去のものがたりを(おおよそ勝手に)書かせて頂きました!
クィーロさん自身のストーリーの中で、『今』を彩るエピソードは『過去』にこそあるように感じました。決して秘められたものが明らかになることはないですが、それゆえに、彼の今に繋がる、重要なものです。
クィーロさんの、今後のものがたりへの期待もこめつつ……今回は筆を置かせていただきます。
今後共機会がありましたら、よろしくお願い致しますね。