※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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若峰見回組、結成
東方――エトファリカ連邦国で突如持ち上がった、共和制導入の噂。
朝廷と幕府を廃し、新たに共和制を導入する。
最高権力とされる組織が複数存在する東方において、この噂が実現されれば国家の支持命令系統は一気に簡略化する。トップダウンでの指示が実現されれば、民の生活も大きく改善されるだろう。
だが、これが実現される事は国家の根幹を揺るがす事を意味している。
「失礼します」
銀 真白(ka4128)が水野 武徳(kz0196)の屋敷に呼ばれるのは、初めての事であった。
襖を開き、部屋に体を入れた後、そっと襖を閉める。
部屋には屋敷の主である武徳が一人、胡座をかいている。
「良く来たな。近う寄れ」
武徳の招きに応じて、真白は武徳の居る場所の近くへ移動する。
既にこの詩天に関わる依頼も幾つかは遂行している。その活躍が武徳の耳に入ったのかもしれないが、真白には武徳の意図がさっぱり分からなかった。歪虚退治であるならば、ハンターズソサエティに打診すれば済む。
しかし、武徳はそうしなかった。
「水野殿、ご用件を」
「うむ。おぬし、既にあの噂は聞き及んでおるか?」
「あの噂……なんでございましょう?」
真白は、噂の内容が共和制の話であろう事は察しがついていた。
だが、敢えて知らぬフリをしてみせた。
武徳の意図が読めぬ以上、下手に食いつけば何を頼まれるか分かった物ではないからだ。
「聞いておらぬか。この国の体制が変わるかもしれぬという話じゃ」
「共和制、でしょうか」
「なんじゃ、知っておった。左様、その話じゃ。
おぬし、この話を如何様に考えておる?」
共和制の話を聞いた時点で、真白はこの国に大きな変革が始まると感じ取った。
しかし、同時に言い知れぬ不安もあった。変革が常に良き事をもたらすとは限らない。その事を真白は経験上知っていた。
「容易ではない事業。そう考えておりまする」
「そうじゃ。共和制は詩天にとっては吉報じゃ。この国の乏しい資源で西方諸国と貿易も考えておるが、距離的な問題もある上、莫大な利益を上げれば幕府が口を出すに決まっている。
じゃが、共和制であれば小国である詩天も一定の発言権は約束される。武力だけではない力を持つ事ができる事実は大きい」
武徳の言う通り、詩天は資源に乏しい国だ。
国力が低ければ、それだけ武力も弱くなる。有能な符術士を多く揃えても幕府の前では抵抗も難しい。そしてそれは詩天が幕府の都合の良い国として扱われる危惧があった。
しかし、共和制を敷けば詩天にも抗う術が生まれる。
「わしはこの共和制には賛成じゃ。じゃが……」
「東方そのものを揺るがす一大事となりましょう。朝廷と幕府を廃するとは、過去の伝統を捨てて新しき物を取り入れる事。それを実現すれば、抵抗も強まりましょう」
真白は、はっきりと指摘した。
共和制を敷けば、必ずそれを不利益と考える者が現れる。領地を持つ君主やそれに近しい者はその権力を失う事になる。さらに幕府の代わりに政府や議会が設置されれば、資金も人材もすべて君主から巻き上げられる。それは既得権益を保持してきた者にとって悪夢でしかない。
「その通りよ。既に共和制に反発する者が現れたわ。わしも命を狙われておる」
武徳は大きく頷いた。
武徳が狙われた事件については真白も報告書で知っている。屋敷への帰り道に覆面姿の浪士集団に襲われたらしい。その場に居合わせたハンターによって撃退されたが、襲撃理由は共和制の賛成を明確にしていた為と言われている。
「では、依頼は水野殿の護衛でしょうか?」
「いや……護衛するのはこの若峰よ。新たなる守護集団を組織する事となった。おぬしにはその集団に参加してもらいたい」
武徳は真白に若峰を守護する部隊に参加要請してきた。
だが、真白はそこへ待ったを掛ける。
「お待ちを。若峰には即疾隊がございます。何故、新たに組織を立ち上げるのでしょう?」
「うむ。確かに若峰は即疾隊が守護しておる。しかし、即疾隊を預かる老中は共和制に反対なのじゃ。老中に良からぬ考えがあれば即疾隊は……」
「人斬り集団と化す可能性がある、という事でしょうか。ならば、我らの役目は即疾隊を牽制しつつ、時間を稼ぐ事」
真白の言葉に武徳は膝を打った。
「そうじゃ。話が早い。老中はわしが何とかする。その間、即疾隊に目を光らせながら不貞浪士を取り締まって欲しい。その為の権限を与えるつもりじゃ」
厄介な話に巻き込まれた。
それが真白にとって率直な意見だ。詩天の派閥争いの果てに部隊を組織しなければならないからだ。だが、詩天がどちらに転ぶかによって東方の将来に影響を及ぼす。
東方を思うならば、依頼を受ける他ない。
「畏まりました。この銀、謹んでお受け致す」
「そうか。良く言ってくれた。おぬしにはわしが準備した若峰見回組を託す。大変なお役目じゃが、よろしく頼むぞ」
●
「誠でござるか!?」
後日、真白は若峰の飯屋へ呼び出した黒戌(ka4131)に事の経緯を説明した。
真白にしてみれば、このような大役を一人で担うには荷が勝ちすぎる。できれば知見の相手に助けて貰った方が良い。
それで思い付いたのが黒戌の存在だ。
黒戌は忍としての腕は一級。仮に即疾隊と同じ事件でかち合うような事があっても、黒戌がいれば避ける事ができるかもしれない。
「左様。今更、嘘偽りなどない」
「そうかもしれぬでござるが、俄には信じられぬでござる」
無理もない。
そもそも突飛も無い話なのだ。政治的な事情で生まれた若峰見回組に参加する事になる事も異常だが、そこへハンターを巻き込もうとするのはもっと異常だ。
「……すまぬが、この一件を調べてくれぬか? どうも水野殿には裏があるような気がするのだ」
「何か証拠でも?」
「いや、勘だ。ただ、あの御仁の事だ。必要であればどんな事でもやりかねない。そのような雰囲気を持っていた」
真白の直感。
だが、その勘には説得力がある。相手は幕府や朝廷相手でも口八丁手八丁で翻弄しようとする武徳だ。今回の一件も、即疾隊を使わない理由が気になる。
「確か、共和制に反対の老中がいるとの事でござったな」
「うむ。政治的対立でわざわざ即疾隊と利益相反する隊を立ち上げる必要があるのか……」
「そうでござるな。調べるとすれば、即疾隊でござるか」
椅子から立ち上がろうとする黒戌。
しかし、そこで真白が待ったをかける。
「待つでござる。聞けば、即疾隊も監察がある。向こうも諜報の熟練者。決して油断めさるな」
「承知でござる。ご忠告感謝するでござるよ」
そう言った黒戌は、早々に即疾隊に関する情報収集を開始した。
だが、事態は思わぬ方向へ転がり始める。
●
「曲者だ!」
即疾隊の屯所に響く声。
夜の帳も落ち、周囲は蝋燭の灯りだけとなっている頃、即疾隊の屯所は慌ただしく動き始めた。
「しまったでござる」
不覚には黒戌は発見されてしまったようだ。
大半は普通の人間と考えて潜入したが、即疾隊の中には覚醒者も存在する。
覚醒者がいるとは気付かず、油断した為に発見されたようだ。
「されど、ここで捕まる訳にはいかぬでござるよ」
庭に向かって走る黒戌。
その後を追うように草履の足音を響かせながら隊士達が走り寄ってくる。
(三人……否、四人でござるか)
草履の音から迫る人数を数える。
時間的に考えても取り囲むには早すぎる。発見して出てきただけでれば、目の前の隊士を振り切ればこの場を逃れる事は可能だ。
「逃げられぬぞ!」
塀を背にして立ち止まる黒戌。
口を布で覆っている事から顔は見られていない。黒戌は左右に瞳を動かしながら、ゆっくりと近寄る隊士達に気を配る。
「一つ聞こう。そなたは何者だ?」
「何者と聞かれて答える間抜けはおらぬ。だが、それ以上に間抜けは……追い詰めたと思って逃げられるそなたらだ」
「何!?」
隊士達が声を上げると同時に黒戌は、懐から火の付いた焙烙玉を地面に転がした。
火花は派手に散り、この数秒後に起こるであろう爆発を予感させる。
「焙烙玉だ!」
誰かが叫ぶと同時に他の隊士も戦く。
次の瞬間、焙烙玉から大量の煙が吹き出した。
(残念。焙烙玉に似せた煙幕玉でござるよ)
塀の上に乗った黒戌は、煙に乗じて追ってから逃れた。
黒戌の姿は闇夜へと消えていく――。
●
「して。即疾隊の屯所に潜り込んで発見された挙げ句、騒ぎを起こして逃げてきたと申すか」
後日、真白から告げられたのはそのような言葉であった。
事実、この事件を受けて即疾隊は警備を強化。共和制の噂と相まって厳戒態勢と言っても差し支えなかった。
「申し訳ないでござる」
「おかげで即疾隊も若峰見回組の存在に気付いたようだ。
私も水野殿に何かしたのかと疑われたのだぞ」
「申し訳ござらん。だが、怪しい情報を耳にした」
黒戌の口にした言葉に真白は前のめりで食いついた。
「ほう。聞かせてもらおうか」
「言葉の一端であり、何者が口にしたかは分からぬ。だが、拙者が床下に忍んだ折、確かに聞いたでござる。
『即疾隊は近いうちに二分する』、と」
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4128/銀 真白/女性/16/闘狩人】
【ka4131/黒戌/男性/28/疾影士】
【kz0196/水野 武徳/男性/52/舞刀士】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊でございます。
この度はおまかせノベルの発注をありがとうございます。
東方関連ノベルを書かせていただきました。即疾隊とは別に三条家のお家事情で生まれた若峰見回組。依頼により参加する事になりましたが、武徳の事。他に何か意図があった事が見えてきました。このままでは若峰見回組と即疾隊との衝突もあるかも……。
彼らがどうなっていくのか。また機会がございましたら描かせていただければと思います。