※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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あるはずのない邂逅の先に
どうしてこの人は、こんな風にボクを助けてくれるのだろう。
出会いは、ブレナー ローゼンベック (ka4184)がクリムゾンウェストへと転移した直後のことだった。
「なんだこれ……っ」
突然転移したと思ったら歪虚に襲われ、訳も分からないままにブレナーは森の中を駆け抜ける。
尤も覚醒者ではなかった転移直後の彼では、自分を本気で襲いにかかる雑魔から逃れることなど出来るわけもなく――あっという間に追い詰められた。
「大丈夫か?」
――その雑魔を大剣でバッサリと斬り捨てながら尋ねてきた男の存在がなければ、ブレナーの命は危なかったに違いない。
助けてくれた男は元傭兵なのだという。
なるほど、とブレナーはすんなり納得した。
雑魔(という名称も当時は知らなかったけれど)をあっさりと斬り捨てた腕前も理由の一つだけれども、それ以前に風貌が明らかに『戦い慣れ』している感じがする。
きっと今は大分色が抜けている赤髪も、昔はもっと鮮烈な色をしていたのだろう、とも何となく想像できた。
納得した理由はもう一つあるのだけれども――その時は彼自身の中でもぼんやりしていたそれをはっきりと認識出来るようになるのは、もう少し後の話だ。
急に飛ばされたことで、ブレナーにはどこにも頼るアテなどなく。
一人になってしまった寂しさと、助けてくれた元傭兵の姿を見ての憧れの気持ちもあり、彼は元傭兵の旅についていくことにした。
元傭兵は若干ぶっきらぼうなところもあった。けれどもいきなり増えた同行者を邪険に扱うようなこともせず、自立して生きていく為の様々な術を、ブレナーに授けていく。
尤も、戦闘に関してだけは例外だった。
誰かを傷つけることを極端に嫌うブレナーは、雑魔との戦いになると専ら逃げたり隠れたりするだけである。
一方、元傭兵はといえば――自分に牙を向けるモノに対しては、決して躊躇も容赦もしなかった。
ブレナーの元傭兵に対する普段の印象は『気のいい叔父さん』だけれど、この時ばかりは畏怖の感情すら覚えたものだった。
長い旅路の途中、ましてお互い何も知らないところから始まった関係では、どこかしらでお互いの身の上を語らう場面も生じる。
二人の場合、それはある夜の出来事だった。
焚火を囲んで、夜空を見上げる。
その星空は澄んでいたけれども――
「……全然違いますね」
「ん?」
「ボクがずっと知っていた空と、です」
「……そりゃまぁ、そうだろうな」
ブレナーの言葉に、元傭兵もそう返すしかなかったろう。
厳密に星座の位置などを把握しているわけではなかったけれども、それでも、決定的に何かが違っていることだけは分かる。
そう考えてしまうと、どうしても元の世界と家族のことを思い出してしまった。
ホームシックな気分になり、涙腺に少しこみ上げるものがあったが――ふと、ブレナーはそこであることにも思い至る。
「あぁ、そうか……」
「今度はどうした」
木を焼べていた元傭兵が顔を上げてブレナーの顔を見る。
ブレナーも彼を見返した。
「貴方が元々傭兵だったって聞いた時に自分ですぐ納得出来たのに、その理由のところでずっと引っ掛かっていたものがあったんです。
でも、いま父や母のことを思い出してわかりました。
ボクの両親も、昔は戦っていたっていうんです。そういう聞いていた姿に、貴方を重ねたんだと思います」
「……ほう?」
元傭兵の片眉が上がる。
「聞かせてくれよ、お前の両親の話」
特別断る理由もない。ブレナーは一つ肯いた後で、こうも言った。
「その代わり、貴方の話も聞かせてください」
それから先も相変わらず、旅路は続いた。
ブレナーが元傭兵から色々なことを学ぶことにも変わりはなかったけれど、互いの身の上話をしたからだろうか、ブレナーの側からも少しは口を出せるようになった。
たとえば、
「煙草は健康に悪いですよ」
とか。元傭兵の喫煙量は結構なものだったので、ブレナーからすればそう言わざるを得なかったのである。
意外といえば意外なことに、元傭兵は渋々ながらもこのブレナーの助言を受け入れ、喫煙を止めた。
元傭兵曰く、
「そうでもしないと、返すべきもんを返せる時にそう出来なくなっちまう……ということも、あるかもしれないしな」
とのことだ。
その言葉に隠された真意を、ブレナーが知ることはなかったけれども。
やがて――元の世界に帰る方法を探す為には、ブレナー自身もハンターになるべきだ、という話になった。
そうなると、いつまでも元傭兵の旅に付き添うことは出来ない。
ハンターズソサエティの支部があるとある街で、二人は別れることになった。
「何か、欲しいものはあるか?」
街の門で、元傭兵は言う。
これから元傭兵は街の外へ、ブレナーは覚醒者、そしてハンターになるために街中へと向かう、運命の分かれ道。
「……一緒に過ごした事を忘れない為の物が、欲しいです」
ブレナーが俯き加減にそう告げると、元傭兵は少し思案した後――それまでの間ずっと羽織ってきた赤いジャケットを脱ぎ、それをブレナーの目の前に差し出した。
「こんだけ目立つものなら、忘れようにも忘れられないだろ?」
「……そうですね」
半分泣き笑いのような顔になったけれども、それでもブレナーは、笑った。
それを見て元傭兵も、ニッと口端を歪めて笑う。
「じゃあな。元の世界に帰れるよう、頑張れよ」
踵を返して歩き去っていく元傭兵の後ろ姿に、ブレナーはそっと頭を下げ。
(――変な偶然ってのも、あるもんだな)
元傭兵は友人たちの姿と、その面影の見えるブレナーの姿を脳裏に思い描いて、そっと苦笑を浮かべるのだった。
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