※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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食客無頼
クリムゾンウェスト東方の小国、詩天。
ゾファル・G・初火は近頃、ここが主な拠点となっていた。
以前は辺境の開拓村タスカービレで、青龍紅刃流という武術の師範代……という名目でタダ飯をかっ喰らっていたのだが、どうやらその辺りは平和になってしまった。
『死地好き』を公言して憚らないゾファルが、訪れた平和を謳歌できるはずもなく。タスカービレを出て、ぶらぶらと気ままに放浪しているうちに詩天にたどり着いた。
そして夜中に魔導ママチャリでぶっ飛ばしていたら流れでこの国の軍師だという水野武徳なる武将を助けることになり、これ幸いと水野家の食客に収まることにしたのであった。
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「ふぁーあ……」
その日ゾファルが目覚めたのは、日も中天に昇ろうかという頃合いであった。
「今日もいい朝じゃーん」
昼である。
まあ彼女が目覚めるのはだいたいこのくらいの時分なので、ゾファル的には朝と言えるのかもしれない。
「さーて、今日のご飯は何かにゃーっと」
屋敷の離れに与えられている寝床から出て顔を洗い、台所へ向かう。
「朝飯をもらいにきたじゃん」
「……そちらに」
飯炊きの女中がジト目でゾファルを見やる。示された先には一人前の膳がちょこんと置かれてあった。
屋敷の使用人たちは皆忙しく働いている時間で、こんな時間に食事(まして朝飯)をいただこうなどというのはゾファルくらいのものである。
タスカービレにいたころも好きなときに寝て好きなときに食べる生活を繰り返していたが、それは水野家へ来てからも微塵も変わっていなかった。
食事中のゾファルの隣を時折、使用人が忙しなく通っていく。仕事中の者たちからすれば彼女は邪魔でしかなく、当然その視線は厳しい――のだが、ゾファルは全く気にしなかった。
「はー、ごっそさん」
朝ごはんをきれいに平らげると、女中を呼ぶ。
「お茶を一杯所望するじゃん」
ジト目の女中は無言のまま、熱いお茶を湯呑みに注いでゾファルの前においた。客人であることは事実だし、主の窮地を救ったという話もどうやら本当らしいということで、無碍に扱うことは出来ない。
ただ、屋敷の中では仕事らしい仕事を一切していないのも確かであった。女中の視線も厳しくなろうというものだ。ちなみにこの女中、ゾファルの前ではいつもこの目つきなので、ゾファルは生まれつきなのだと勝手に思っていたが誤りである。
「今日はどうするか……じゃん」
今日は屋敷に詰めていても、面白い出来事などは起こりそうもない。死地を求める彼女の嗅覚が感なし、と告げていた。
ならば、今日は市街を回ってみるか。
「ほんじゃ、ちょっくら見回りに行ってくるじゃん」
そんなことを言っても、どうせ遊びに行くだけだろう――使用人たちはそんな面持ちでゾファルを見送り、一様にため息をつくのだった。
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さて、水野家の使用人たちからそんな風に決めつけられてしまったゾファルであるが、その実――。
まあ想像どおりで、見回りと言いつつ適当にぶらぶら歩き回っているだけである。
「ようゾファルちゃん、どうだい、これから一杯」
町外れをしばらく行くと、早速声をかけられた。
「なになにおっちゃん、こんなお天道様の高いうちからいい御身分じゃーん。もちろん付き合うじゃんよ」
ボロ服の中年親父に着いていった先は、一見あばらやのような見栄えの安食堂。
中には昼だというのに数人の男たちがおり、すでに酒をあおっているものもいた。ゾファルは躊躇なくその中に混ざり込むと、まるで十年来の仲間とつるんでいるかのように楽しく騒ぎ始める。
「ゾファル、いたか」
しばらくして入ってきた別の男が、ゾファルに声をかけてきた。
「おっ、久しぶりじゃん」
ゾファルは男を見上げ、ニヤリと笑った。
「やるじゃん?」
「ああ、やる」
「よしいいか、見合って見合って!」
行司役を勝って出た中年親父を挟んで、ゾファルは男と向かい合う。
そして呼吸を合わせ――正面からぶつかりあった。
実は数日前にも、ゾファルはこの男と相撲で対決していた。そのときはゾファルが相手を一蹴している。
「おっ、なかなかやるじゃん!」
だがリベンジに来たらしい今日は、流石に力が入っている。がっぷり四つに組んで、しばらく動かない。
土俵はないから、相手を転がしたほうが勝利だ。
男が右から強引に圧力をかけ、ゾファルを投げようとする。力だけならかなりのものだが、彼女は全くひるまない。敢えて相手の力を受けて一歩下がると、合わせて踏み出してきた相手の足を鋭く払った。
男が大きく体制を崩す。あとはほんの少し力を入れるだけで、ゾファルの足下にごろりと転がった。
「へーん、俺様ちゃん大勝利じゃん!」
ギャラリーからのやんやの喝采応えて、ポーズ。
「おひねり大歓迎じゃーん」
などと言っていたら、いつの間にか通りの向こうが騒がしい。
「ひったくりだ!」
「刀を持ってたぞ!」
その声が聞こえる前に、ゾファルは駆け出していた。
*
「どけ! 邪魔するやつはたたっ斬るぞ!」
右手の刀を振り回し、往来の人を押しのけるように走ってくる男がいる。左脇には誰かから奪ったのであろう包みを抱えていた。
怪我人は出ていないようだが、女性が一人介抱されているようだった。ひったくりにあったのは彼女のようだ。
「ちょっと待つじゃーん」
ゾファルは通りの真ん中に立って、男を待ち受けた。
男は面食らったように立ち止まった。右手の刀を前に出してゾファルに見せつける。
「ど、どけ! 斬られてもいいのか!」
だが、ゾファルはまったくひるまない。それどころか、刀に向かってずいと顔を近づけた。
「あーあ、歯こぼれしてんじゃん……手入れくらいしてやらなきゃダメじゃーん」
「な、なんだと! このっ」
余裕の態度を見せられて、男はやけっぱちのようにゾファルに斬りかかった。だが互いに向き合った時点で、男は完全に気圧されていて、そんな状態の斬撃にゾファルが当たる通りはなかった。
全く気のない動きで、ゾファルは刃をひょいと避けた。勢いだけはついていたせいで、男はゾファルを通り過ぎてたたらを踏む。
慌てて向き直った男の目には、目映いマテリアルの光、そして拳。
ゾファルの放った鉄拳が男の顔面をまともに捉え、数メートル先へ吹き飛ばした。
「なんだ、張り合いないじゃん」
周囲が沸く一方で、ゾファルはちょっと不満そうに呟くのだった。
*
その後はまた安食堂へ戻って、気の合う仲間とどんちゃん騒ぎ。
向こうで喧嘩が起きれば大喜びで顔を突っ込み、問答無用で両成敗。そいつらもまとめてまたまたどんちゃん騒ぎ。
屋敷に戻るのは夜もとっぷり暮れた頃――。
それが、ここしばらくの彼女の日常なのだった。
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「ふあーあ」
翌日もゾファルが目覚めたのは、すっかり昼の時分だった。
「今日もいい天気じゃん」
昼だって。
「さて、今日は何するかにゃー」
死地を求めるゾファルの嗅覚が、この地にはまだ何かあると訴えている。
その臭いが消えるまでは、彼女はここに留まるのだろう。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4407/ゾファル・G・初火/女/16(外見年齢)/荒事上等!】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました。食客身分な彼女のある日の様子をお届けいたします。
FNBのご依頼はなにげに初めてでしたので緊張しましたが、さて出来のほどはいかがでしょうか。
なお水野家のお屋敷の様子はほぼライターの勝手な想像ですのでご了承くださいね。
少しでも、お楽しみいただければ幸いです。