※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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広大な世界と彼の世界に流れる時間の出来事
水底から太陽を眺めているような感覚……これは、間違いなく夢……───
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ペルは魔術書を読むべく、いつもの場所へ歩いていく。
集落を歩いても、誰も声を掛けて来ない。
怖れるように係わらないように。
一瞥されて、それとなく離れていく。
理解出来ないが、取り立てて興味を覚えることでもない。
いつものこと、ありふれた日常。
大したことではない。
この広い世界、膨大に流れていく時間の中の些細過ぎる出来事のひとつに過ぎない。
この心は何も揺るがず、ただ真実を明らかにする言葉だけが口の端に乗る。
(分からないことが解らない)
ペルは『真実』を明らかにするが故、その『真実』に気づかない。
『知識』は、ただの『知識』では『価値』を持たない。
『経験』を通して、『知識』は『知恵』となりうること。
『真実』を適切に処理する術が、『知識』の中ではなく、『知恵』の中にあること。
人であるなら誰もが抱く暗部……それを『真実』として明らかにしても、必ずしも良い結果を齎す訳ではなく。
それ故に、『真実』として全てを口にするペルを排斥することこそが彼らが集落で上手くやっていく『知恵』であったということ。
余りにも早く『知識』を先行して得てしまった為に、ペルから『経験の機会』を奪ったことは不幸と言えるかも知れない。
「あの子の目を見ているとぞっとする。情というものを感じない」
「あいつ、バカにしてるような気がする……」
「母親の腹の中に心を置いてきちまったのかねぇ……おおいやだ」
ペルが興味を感じない彼らは、やがてひとつの『結論』を出す。
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その日は、普段から目も合わせようとしない両親も兄妹もやけにペルへ声を掛けてきた。
山まで家族で遊びに行こうと妹が強請り、母親はどんなお弁当がいいか聞いてくる。
父親が森で兎狩りを教えると笑えば、兄が楽しみだと笑う。
違和感しか感じないが、真実になっていない違和感を口に出来ない。
「何のつもり?」
はっきり尋ねても、両親が皆で楽しむこと以外に何があるとペルの頭を撫でた。
『違和感』は、ある。
『予想』は、している。
だが、『知識』はあっても『経験』はないペルが、彼らの『真実』を暴くことは出来なかった。
そして、時は訪れる。
山へ行き、ウサギを狩る罠を仕掛けるからと父親と兄達が消え。
帰ってこないのが心配だと母親が妹を連れて消え。
2度と戻ってくることはなかった。
暴けなかった『真実』は、『予想通り』。
必要な荷物は父親が持つと言った為、ペルは荷物を殆ど持っていない。
山歩きの『経験』に乏しい為、『知識』はあっても『身体がついていかない』。
家族の愛情を信じて死ぬまで待っている程、夢を見る性格でもない。
得た『知識』で、冷静に今後の方策を───
その時、茂みが割れて1人のエルフが現れた。
集落の者ではないエルフは独りの自分を不審に思ったらしく、何故ここにいるか尋ねてきた。
不審人物はそちらも同じと思ったが、事情を聞かれて簡潔に説明すると、そのエルフはついておいでと笑う。
曰く、自分のような者がいる場所を知っているらしい。
「何の見返りを求めているんですか?」
丁寧だが、淡々としたその声には、言葉と同じ丁寧さはない。
だが、エルフは軽く肩を竦めただけで答えない。
このエルフにとって、自分は子供でしかないのだと気づく。
大人のように振舞おうが、知識だけある子供でしかないという『真実』を突きつけたのだ。
だが、こうも思う。
捨てられた身、これ以上悪い事態にはならないだろう、と。
そして───
(山から下りるには、一番有効的な方策であるのは事実ですから)
死ぬ真実を真実としない目標に必要なら、選ばない理由がない。
人は愛や希望だけで生きている訳ではない、それが現実。
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(同一視されるのは不本意なんですケド)
ペルが連れて来られた場所は、一種のコミュニティのようなものだった。
学を教える場であり、行き場のない子達を保護する場であり。
だが、ペルと同じようにここへ連れて来られた彼らは、明らかに『どっかおかしい』。
蜘蛛が巣を作るのを微動だにせず見守っていたり、妙な実験を繰り返していたり。
そう言えば、1日1回は2つの山の頂上を往復しないと運動した気にならないとか言っている者もいた。
自分は、違う。
だが、彼らは言うのだ。
そうであるから、ここにいる、と。
周囲と違い過ぎた故に経験の機会を失ってしまった───それが、ここにいる者達の共通点。
誰かの手助けを必要なのに、自分の手が届かない位置にあるものは嫌い。
背伸びをすれば届くものなら背伸びをするのに、それすらも出来ないのは嫌い。
だが、誰の手助けも要らず、手を伸ばせば届く位置にあるものは……嫌いではない。
言うべきことは、誰であっても言う。
必要であるなら、何でも有効利用。
邪魔は、させない。
「ピーチの中身は、その可愛い顔程じゃない」
そう言われようと、自分が変わる必要はない。
偽りない『真実』なのだから。
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ペルは、目蓋の向こうに感じて目を覚ました。
水底から太陽を眺めていたような感覚は最早なく、自分は覚醒したと分かる。
過去の夢を随分リアルに見たと思いながら、ベッドを抜け出た。
歪虚を嫌い、マテリアルを穢す輩を殲滅する為に選んだ道を歩く今、過去は過去でしかない。
現実を、未来を生きる為に必要ならば利用する要素に過ぎない。
だが、学んだことはある。
「『知識』は適切に利用してこそ、意味がある」
口の中で反芻し、支度を整える。
嘘を口にすることはなくとも、『知識』を適切に利用する術はある。
捨てられた先にあった日々、自分を変えずとも学べたものはあった。
この広い世界、膨大に流れていく時間の中の些細過ぎる出来事のひとつに過ぎないだろう。
けれど、自分にとっては───必要な『知識』がそこにあった。
歩む道で、必要な『知識』は、『経験』を得て『知恵』となるかどうか。
それは、ペル次第。
けれど、その変化も。
広い世界、膨大に流れていく時間の中の些細過ぎる出来事のひとつに過ぎなくとも。
ペルの世界、彼に流れていく時間の中では些細な出来事とはならないだろう。
その『真実』は、明らかにされるのを待っている。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ペル・ツェ(ka4435) 外見年齢15歳・男性 エルフ/魔術師(マギステル)
以下ゲストNPC
家族/エルフ(NPC)
集落の人々/エルフ(NPC)
現れたエルフ/エルフ(NPC)
集められた『どっかおかしい』彼ら/種族様々(NPC)
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度は、発注いただきありがとうございます。
マイページの設定より、両親と兄、妹がいると判断させていただいています。
『知識』がある為に『偽り』を口にせず、『真実』を口にする、理解出来ない者が理解出来ない興味がない、訂正は考えない……そうした要素が孤立を招いたのではと思うと同時に今後、格好いい男になりたい彼の世界が革命されればいいな、と思って執筆しました。
お気に召していただければ、幸いです。