※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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歪んだ愛の優しい思い出
――その夢はいつも、突然見る。
どんなに時が過ぎようと、いくつもの季節を越しても、夢の中のフェリル・L・サルバ(ka4516)は十五歳の少年のままだった――。
「あうぅ……」
声変わりが終わったばかりなのに、その声はひどく幼く不安定だ。
十五歳のフェリルは深夜、地面にうつぶせになって倒れている男の背に、両手を乗せて軽く揺さぶる。
しかし男の体からは生暖かい血が流れ出て地面に広がり、呼吸と心臓の鼓動はとっくに止まっていた。今はただ、フェリルに揺さぶられるだけの肉人形と化している。
「うー……。かえろ」
目的を果たしたことを知り、フェリルは立ち上がった。
だがその時、男の血に染まった自分の両手を見て、体に『何か』が重くのしかかる。振り払おうとしても、『何か』は離れない。
「マンマ……」
フェリルは何とかしてもらおうと、彼女が待つ家へ向かう。
「マンマ、ただいま」
家のドアを開けて声をかけると、美しい女性が駆け寄ってきてフェリルを抱き締める。
「フェリル、おかえりなさい。外は寒かったでしょう。温かいスープを作ったわよ」
フェリルが『母』と呼んだ女性はにっこり微笑み、優しい手つきでフェリルの乱れた髪の毛を整えながら、冷たい頬にキスをした。
女性は夜でも目立つ金色の長い髪に真っ白な肌、緑色の優しい眼をしており、白いエプロンを身に着けて慈愛の表情を浮かべている姿は、一見は良き母のように見える。
しかしフェリルの耳元で、声を潜めながら恐ろしいことを問い掛けた。
「……ちゃんとあの男を殺してくれたかしら?」
「うん。もう、うごかない」
「そう。良い子ね、フェリル。愛しているわ」
女性に改めてギュッと抱きしめられると、フェリルの表情が柔らかくなった。
先程まで体にのしかかっていた『何か』はいつも、女性にこうされると感じなくなるのだ。
「まずは着替えて、汚れた手を洗ってらっしゃい。せっかくのスープが冷める前に、ね?」
「うん」
言われた通りに自分の部屋で着替えを済ませて、血塗れた両手を洗ってダイニングルームに行くと、テーブルの上には湯気がのぼるスープとパンが置いてある。
「いただき……ます」
「はい、召し上がれ」
フェリルが椅子に座って食べ始めると、女性はテーブル越しの向かいの椅子に座って、フェリルが食事をする姿をニコニコしながら見つめ続けた。
そしてフェリルは食べ終えると、自分の部屋のベッドの中に潜り込む。
そこで部屋の扉がノックされて、廊下からティーカップを持った女性が部屋の中に入って来た。
「夜に出掛けて気が高ぶっているから、なかなか寝付きにくいでしょう? ブランデー入りのホットミルクを作ってきたわ」
「あぅ……。ありがとう、マンマ」
上半身を起こしたフェリルはティーカップを両手で持ち、息をかけて冷ましながらゆっくりとホットミルクを飲む。
その間、女性は微笑みながら、フェリルの様子を見つめていた。
フェリルは飲み終えたティーカップを女性に渡すと、再びベッドの中に入る。
女性はフェリルの頭を、優しく何度も撫でた。ウトウトしながら夢の中に入りそうになるフェリルの耳元に、女性は口を近付けて囁く。
「ねぇ、フェリル。またママをイジメる悪い人が現れたの」
その一言で、フェリルの意識は一気に現実へ引き戻された。
眼を見開きながら自分を見るフェリルに、女性はあくまでも笑みを浮かべ続ける。
「ママにしつこく言い寄ってきたあの男は、今日せっかくフェリルに殺してもらったのにね。今度はママに辛い思いをさせる人が現れちゃったのよ。ママ思いのフェリルは、ママが悲しむ顔は見たくないでしょう?」
「あっうぅ……。……うん」
間近で悲しげな顔をされては、こう答えるしかない。
「優しいフェリル、お願いよ。ママをイジメる悪い人を、殺してちょうだい」
「……わかったよ、マンマ」
その声と口調は、年相応のものだった。
女性が部屋を出て行くと、一気に部屋の温度が下がった気がする。
「はあ……」
ホットミルクを飲んだおかげで、フェリルの吐息は熱い。しかし頭の中は冷静な思考ができている。
「……もう何回目だろう?」
フェリルは今まで女性に頼まれて、何度も人殺しをしてきた。
最初の出来事は、よく覚えている。
見ているだけで胸が締め付けられるような、悲しい表情を女性が浮かべていた。そしてすがるように、フェリルに人殺しを頼んできたのだ。
はじめは一人だけで済むと思っていた。しかし一度成功すると、女性は凄く喜びながらも次の殺人を頼んできたのだ。
断ろうとすると辛そうな顔をして、フェリルに余所余所しくなる。彼女の愛が離れてしまうことを恐れたフェリルは、言われるままに人を殺すしかない。
それからはもう、同じことを何度も繰り返すだけ。
尽きない女性の頼みは、きっと本当の意味で最後はないのだろう。
「……終わらない」
重く呟くと同時に、またあの『何か』が体にのしかかってくる。
振り払おうと体を横向きにすると、部屋の隅に先程の男が血塗れで立っている姿を見てしまった。
「ひぃっ……! なっ何だよ。そんな眼で見るなよぉ」
おびえた声を出しながら、フェリルは毛布を頭にかける。眼を強く閉じて、耳を両手でふさぐ。ホットミルクであたたかくなったはずの体は、徐々に冷えていく。
先程殺した男が、こちらを恨みがましい眼で見ている気がした。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4516/フェリル・L・サルバ/男性/20歳/疾影士(ストライダー)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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このたびはご指名していただき、ありがとうございます(ぺこり)。
こちらは過去編、PCおまけノベルは現代編としてお読みください。
満足していただければ幸いです。