※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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二人だけの温泉旅行、でも聞いてないですよぉ
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「はい、大当たり。ドーナツ一つおまけだよ」
瞬間、弓月・小太(ka4679)はしゅんとなった。見上げたくじ引きの景品表に、「特賞・紅葉の山の温泉宿ペア一泊ご招待」の文字。
(ドーナツ一つ買っただけで期待はしてませんでしたがぁ)
はふ、とため息。
期待はしていなかったが恋人との温泉旅を想像してしまったので少しときめいていたので仕方ない。
「はい、こちらが賞品です」
ドーナツを受け取り店を出る。
「そうですね、フラさんと一緒に食べましょうかぁ」
もともと一人で食べる予定だったがこの一言で機嫌が直る小太。フラの下宿へ急ぐのだが……。
「あ。そういえば夕方まで留守って言ってましたねぇ」
そもそも一人でおやつを食べることになったのはそのためで。
再びしょんぼりと足取りも重くなったところで、脇の路地が気になった。普段なら気にもしなかっただろう。
ちょっと入り込んでみると行き止まりで、小さな祠があった。
「これも何かの縁ですねぇ」
一つ余ることになるドーナツをお供えして、二礼二拍手一拝。
「あら、珍しい。……感心ですこと」
突然の背後からの声に気付く。いつの間にか妙齢の女性が立っていた。お参りに来たのかもと急いで場所を譲る。
狭い路地だがすれ違うときに不思議と窮屈に思わなかった。
「お礼にこれを」
振り返った女性、チケットを手渡してきた。とりあえず受け取り、辞す。
で、通りに戻って目を向けると。
「ええと、海辺温泉宿一泊二日ペア半額券……」
小太、お礼を言おうと路地を見るともう女性はいなかった。
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――がらっ!
「わあ、すっごい。見て見て、小太さん。海が広々見渡せるよ!」
温泉宿の二階二人部屋に案内されるやフラ・キャンディ(kz0121)が窓を開けて振り向いた。
「喜んでもらえて良かったですよぅ」
小太も荷物を下ろしつつニコニコ。
「それにしても海とはね~。山の宿を探したけど、もうなかったもん」
「前は山だったので今回は海の近くの山、みたいなぁ」
「あー、川下りだね。あの時、人がいないから不思議だな~、っておもったら……」
「川下りというか、急流下りでしたからねぇ」
「そうそう激流だったよね~」
思い出話に花を咲かせつつ出掛ける準備。
「それにしても、ほかにお客さんがいないようなぁ」
「夏が終わったばかりだもん。だから半額券もらえたんじゃないかなぁ?」
「そ、それじゃ僕がうまく釣られたみたいですよぅ」
しゅんとなる小太に、小さなリュックを背負っていたフラが振り返り、にこり。
「小太さんの善意のお礼だもん。シーズンオフで半値の価値だったとしても、ボクは二倍も三倍も嬉しいよ」
さ、行こうと促すフラ。小太も心が弾んだ。
二倍も、三倍も。
「小太さん、見て見て。ボクたちの足跡だけずうっと続いてる」
誰もいない秋の砂浜を歩き小さな山道へ入ろうとしたとき、フラが振り向いて指差した。
「ほ、本当ですね」
ここまで歩いた二人の足跡だけがきれいにずうっと続きくっきり残っていた。
「なんか、ボクたちだけで独り占め、って感じだね」
フラが笑顔を寄せてくる。とてもご機嫌だ。
「そう考えるとすごいですねぇ。こんなに広いのに」
この発想に小太、目をぱちくり。これを見たフラ、さらにご機嫌。
そして山に。
「フラさん。大丈夫ですか?」
「ありがと。うんしょ」
道は結構厳しく、岩を越えたり急斜面を登ったり。小太が先に行きフラの手を引くなど協力して進んでいく。二人とも背が低いので段差を越えるときは大変だ。フラはキュロット姿なので大股を広げて足を上げても大丈夫。それでも小太はドキドキしつつ目を微妙に逸らしたりするのは足を上げた太股の付け根あたりの白さにまぶしさを感じたから。
「道は酷いけど、荒れてはいないね」
「雑草や張り出した小枝が手入れされてますねぇ」
どうやら地域住民に大切にされているようで。
やがて視界が開けた。
「うわぁ……」
「広いですねぇ」
遠くの島まで一望できるパノラマに。二人並んで息を飲む。
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そして、夜。
「ウチは海と山が自慢ですから」
仲居がそう言って御膳を二人の前に置く。
のっているのは栗ご飯にサンマの塩焼き、キノコと野菜の炒め物に貝汁など。ほかにもサザエの壺焼きに刺身盛り、温かい茶碗蒸しも並んでいる。
「すっごい! いただきま~す」
「もぐ……お米は新米ですよぅ」
「栗がとってもほっくりしてる~」
「サンマも脂がのってて味わい深いですねぇ」
おいしい夕食に弾む会話。箸も進むし笑顔もこぼれる。
お腹いっぱい舌も満足。すこしまったりと食休みした後、温泉に。紺色の暖簾は、右が男で左に女の白抜き文字が。
「男女別だね」
「露天風呂でしたから他に人がいなかったら声を掛けますねぇ」
「ボク、だれかいても一回は声掛けるね」
くすくすいたずらっぽく話しながら分かれて脱衣所に入る。
で、服を脱ぐ途中で小太がふと止まる。
「……今日、ずっと一緒だったんですねぇ」
はじめて一人になった気がした。物足りなさが去来する。
「でも、部屋に戻ればまた一緒ですし……それより温泉、どんな感じでしょうかねぇ」
素っ裸になって特に隠しもせず浴場へ。脱衣所の様子からして一人きりだと分かる。
から、と引き戸を開く。
「お、おっきいですね」
あまりに広い湯船に圧倒される。もわん、と白い湯煙が巻く。
その時だった!
――がらっ。
「え?」
「あ、フラさん…ぇ…フラ…さん……?」
服を脱いで出てきたフラとばったり。
湯船が広い理由は、混浴だったから。
固まる二人。
絡まる視線。
慌てて逃がす視線は下に。湯気は濃い。
すぐに真っ赤になる二人。湯気は、濃い。
ただ、想像力はいろいろ働く様子。二人ともさらに赤く。
「はわっ!」
「やぁん」
我に返った小太が背を向けるとフラも慌てて回れ右。
「あのっ……」
「え、ええと…い、一緒に入りませんかぁ? せっかくですしいっ」
「ほ、ほかにお客さんは?」
「い、いませんようっ」
背を向けたままこたえると、ちょんと背中に感触が。
「うん。いいよ」
振り返ると、フラの笑顔。近寄って人差し指で背中をちょん、としたようで。
「背中、洗ってあげる」
そのまま背中に手を添えられ座らされた。
湯を流され、ごし…と控えめな感触が伝わる。
「もうちょっと強くすったほうがいい?」
「そ、そのくらいで大丈夫ですよう…」
「前は……後ろから手探りで……」
「フラさん?! くすぐったいですぅ!」
突然背後から胸元に手を回されびくりと腰を浮かしたものだから、改めてフラに後ろから抱きしめられるように戻された。むに、と柔らかい感触。
「やん、暴れちゃだめ」
「そ、そうはいってもぉ……」
小太、我慢。必死に我慢。
で、交代。
「わわ、柔らかいです……」
「ま、前はボクが自分で洗うからねっ!」
女の子の小さな背中に改めて「や、優しくですよぉ」と自らに言い聞かせながら手を動かす。フラは小さくなっていたがやがて落ち着いたようで、「いいよ」と言うように身をひねり腰骨の方を差し出したり。信頼してもらえたのが嬉しい。右に左にと身を代えてもらいくびれるサイドラインを優しく洗った。
湯に入る頃には日が落ちて。
「フラさん、お月様が綺麗ですよぉ。ちょうど今日が満月だったのですねぇ…」
「ほんとだ、きれい」
二人並んで肩まで湯に漬かり見上げる空に、ぽっかりと浮かぶ中秋の満月。広い海のさざ波を照らす光景を前に、どちらからともなく肩を寄せて。触れる肌の柔らかさが心地良い。
ゆっくり温まり、じっくりと月明かりの織り成す幻想的な二人の時間を過したす。
「わ!」
部屋に戻ると寝間の準備がしてあった。
「く、くっつけて敷いてありますねぇ」
「あ、でもボクたち小さいし半額だから一つという可能性もあったわけだし……」
赤くなる二人だが、せっかくだからとそのまま就寝することに。
「……ん」
明かりを消してしばらくすると、フラが手を出してきた。
「フラさん……」
実は先にこっそり手を出していた小太、そっと握る。
すべすべした感触と、きゅっと握り返してくる手ごたえ。
(不思議な感じです…)
幸福感に包まれ眠りに落ちる。
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翌日、宿を辞した。
帰る途中にすれ違った地域住民が目を丸くしていたので声を掛けてみると。
「この先の宿に泊まった? あそこは数年前に廃業したはずじゃが……」
金持ちの別荘で、破産後売られて温泉宿に使われていたが心ない人に買い取られたらしく流行らないと分かるとすぐに閉めたのだとか。
「でも、とっても良かったですよぅ」
「そうだよねぇ?」
あるいは、最初の持ち主に歓待されたのかもしれない。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka4679/弓月・小太/男/10/猟撃士
kz0121/フラ・キャンディ/女/11/疾影士
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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弓月・小太 様
いつもお世話様になっております。
秋の旅行、温泉版ですね。
身体が大きいと身体の小さな人から「わあっ、すごい」と言われることが多い山道ですが、小さいとちょっとした段差を越える様子が可愛いんですよね。そんな二人をご堪能してくださいませ。
発注文にある個所を魅力的に詳細に描写するか、それとも別のものを加えるかで相当悩んだのですが、後者を取り少し不思議な話にまとめてみました(もちろん、発注文部分も魅力的にまとめましたが)。一本のお話としてしっかりとした強度を持たせることで、再読時の満足感を高めているのだとご理解くださいませ。
くわえて、小太さんのひととなりを私なりに描写したかった、というのもあります。
作中の通り、フラちゃんも小太さんの善意をわがことのように喜んでます。
それでは、ご発注ありがとうございました♪