※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
 物思ふ 童女なるらむ 紅き華 想いしがゆえ 心地よきかな

●【闘祭】回顧録 総論第11章『熱狂を生みしは』より抜粋

 『のじゃのじゃ』
 意味不明極まる挨拶で知られる『東方瓦版』。ハンターズソサエティ主導で運営された武闘大会【闘祭】期間中にリリースされていたものだ。
 おそらくはハンターのうちの何者か、それも東方関係者の何者かが書いていたと思われる記事は多くがハンター向けに編纂され、リリースされていた。出場者にとっても、祭りを祭りとして楽しむ者にとっても行き届いた記事は、多くの者たちに受け容れられ、その存在感を示していた。

 広く親しまれた記事ではあるが、その記者の存在は謎に包まれている。
 それ故に、一部でカルト的人気を博しているとも言われているのを、ご存知だろうか。
 記事から漂う圧倒的な面倒見の良さが練熟の母性を想起させ、熱狂を生んでいるであろうことは想像に難くない。
 さて。その正体について、少しばかり紙面を割きたい。
 その記事に添えられた名前は『白薔薇』。もちろん、当記事執筆時点において、そのようなハンターは登録されていない。
 東方出身の、白き薔薇。記事中の奇矯な口ぶりはどこかハンターズソサエティの総長を思わせるが、よもやあの総長が、あのような記事を書ける訳もあるまい。
 何者なのだろうか、一体。

 ――なお。
 白薔薇はトトカルチョにおいては大敗したと噂されているが、真実のほどは定かではない。



「……ふむむ」
 喫茶店で甘味を頬張った少女は、手にした書物を眺め、かわいらしい唸り声を上げた。
 西洋風の装い――それもドレスの類を着込んではいるが、その顔立ちには東方の血が濃い。絹糸のように細くとも鮮やかな艶黒の髪、僅かに朱が差し込んだ白い頬。しかし、小柄なことと紫色の瞳もあいまり、遠目には西洋人形と見間違えかねない美少女である。

 名を、紅薔薇(ka4766)という。

 その手元で、はたりと音を立てて書物が閉じられた。同時に、少女も軽く瞑目した。
 すぐに、口元に淡い笑みが咲いた。風貌の幼さゆえに、欲しかった玩具を与えられた子供のそれのようにも見える。事実、その胸中では様々な回想が巡り、思いが喚起されていた。
 それは、言葉にすればこのようになった。

「……楽しかったのう」

 あの、悔しくも清々しい、そして――惜しくも感じている、祭りの日々に。


●【闘祭】回顧録 各論『マスターリーグ編』より抜粋

 紅薔薇という少女は、非業なる民が研ぎ澄ました剣の一振りである。妖怪――東方で蹂躙の限りを尽くした【憤怒】に連なる歪虚の軍勢を屠るための、脆くも激しい刃である。
 紅薔薇の一族は、自らを研ぎ澄まし続けた。その技を磨き、意志を研ぎ、次代へと繋ぎ、刃を成した。
 その結果として生まれたのが、紅き刃、紅薔薇である。

 狂い猛る執着の果てに生まれ出た少女だ。その刃は、ヒトが振るうには些か、鋭すぎる。

 彼女の一族は、動乱の最中に世継ぎの騒動に暮れたという。
 それを見限り一族から離れたのだ。彼女は。まるで、一族が抱く悲憤が、少女に道を示したかのようになめらかな決断をしたのだ、幼い彼女は。

 ――ヒトならざるモノとして、鬼、という言葉を使うことがある。

 鬼は、鬼にしかなれぬ。
 鬼は、鬼しか育てられぬ。

 ならば、彼女はまごうこと無く、鬼にほかなるまい。
 少女の魂に一族の歴史が絡み合い――渾然一体として、彼女を成している。
 だから、彼女は守り手を自認することが出来るのだ。その小さな体で、畏れる事無く。



 ――強者揃いの戦場じゃった。
 言祝ぐように、思う。東方の地を離れて、世界の広さを知った。世界は、少女が唸り、苦悩する程に強かった。だからかもしれない。紅薔薇は刃から離れ、勝利を得るために戦うことができた。ときに銃を持つことをも、択ぶこともできた。僥倖、と呼ぶべきだろう。
 練熟の銃使い。堅牢なる巫女。金色の薔薇騎士。そして――挑戦者として挑んだ、蒼髪の死神。
 いずれも名うての強者たちだ。勝着のために、あれほどまでにヒトに力と意志を向ける機会は無かった。それだけに、思索と検討の果てに掴んだ勝利が、ただただ嬉しかった。
 だから。
「……悔しかったのう」
 それだけに、惜しいのだ。俊敏極まる戦斧を前に膝を負ったことが。

 紅薔薇は、戦いたかった。挑みたかった。絶好の機会だった。自らが、自らのままに――守護者でなく挑む者として刃を振るう、またとない機会だったから。

 特に、あの二人だ。
「…………」
 二人の名前が、微かな言葉となって、手元へと落ちていく。
 同じく決勝へと進んだ、二人。身に余る長大な槍を振るう反骨者と、東方の麒麟児、正真正銘の鬼。

 あの二人と、戦いたかった。

 決勝トーナメントを終えた今でも、時折、思うことがある。
 ――あの二人ならば、妾の名乗りに、どう応じただろうか。

 自問は、弾かれるように枝分かれしていく。
 無数、無限に広がる様は戦闘時の思考と変わりない充足を伴って迫る。

 紅薔薇は刃を振るうだろう。渾身の力を籠めて。そのために、あの場に至るために、ありとあらゆる策を練ったのだ。あの場で、闘うために。だから、その時だけは、ただ刃を振るう者として挑みたかった。
 思索は続く。斬撃は躱されるだろうか。それとも、受け止められるだろうか。その先は、どうなるだろう。
 ――妾の刃は、届くじゃろうか。
 決勝トーナメントで二人が見せた技の冴えは、紅薔薇の脳裏に焼き付いたままだ。あれが、少女の身体に放たれると思うと身震いがする。
 勝てないかもしれない。そう思えることが、少女にとっては甘露にも似ているのだ。

 それが何故か、少女は思い至っているだろうか?
 それが、彼女の生まれを思えば余りに遠い『戦い』だからだ。

 勝てなくてもよい、戦いだからだ。

 なにせ、あれは祭りであるからして、彼女の一族が、その魂が、非業を嘆くことはない。
 一族の鬼子ではなく、紅薔薇は紅薔薇として、あの場に在れるのだ。それゆえに勝ちたいという欲が――本音が、少女の心を甘くくすぐるのだろう。
 喪失した機会が輝きを放つ、ただ一つの理由。
「…………いつか、あの者らと戦いたいのじゃ」
 それを、そうと知らずに物思いに浸り微笑む少女の、なんと美しいことよ。
 紅茶を味わい、甘味を口元へと運ぶ少女の――なんと、儚げなことよ。

 それが、今の紅薔薇だ。
 ハンターになり、獄炎の首を斬って捨てた紅薔薇が紡ぐ、もう一つの顔。
 それは鮮烈なアカイロだけではない。

 色とりどりの花々が似合う、ひとりの少女の、今であった。




登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4766 / 紅薔薇 / 女性 / 14 / 島津の鬼子】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お世話になっております。ムジカ・トラスです。
 信頼か、はたまた「もうどうにでもなーれ」の精神かは分かりませんが(笑)、届いた発注文から、これはもう好きにしていいってことですよね! ということで、存分に好きにさせていただきました。
 【闘祭】の頃の、紅薔薇さんの――プレイヤーさんの発言がふと思い出され、それを元に色々と描き下ろしてみました。資料として色々読み漁る過程で、謎の人物白薔薇さんのことも書かなくちゃ、と思ったりもしたのですが、いやはや、一体、何者なのでしょうね……。

 タイトルは「物思いに浸る女の子なのだろうな。(頬を紅く染めて)紅い花のようだよ。そうやっている姿が心地よい」という雰囲気でなんとなく作ってみました。文法が間違っていたらごめんなさい(真顔)
 「想いし」は「重石」と掛けて、苦い胸中がなお、少女の美しさを彩るのだよ、というニュアンスを出すべくひねりだしたつもりです。
 あっ、ムジカは別にロリコンじゃないですよ。ないですから!

 それは、さておき。発注頂きありがとうございました。今後ともご縁がありましたらば、よろしくお願いします。
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
紅薔薇(ka4766)
副発注者(最大10名)
クリエイター:-
商品:シングルノベル

納品日:2016/11/14 11:20