※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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あの人に会いに
視界を支配するのは一面の白。
吐く息は白く、冷たい空気が肌を刺す。
スノーシューをつけてはいるが、新雪は柔らかく足が埋まる。
自重だけでも埋まるのに、これだけ重い荷物を背負っていたら仕方ないか――。
ため息をつくヘルヴェル。
まだまだ続く山道を臨んで、空を仰ぐ。
「全く、何でこんなところに寝ようと思ったんだか……」
呟く彼女。
ヘルヴェルが目指しているのは海を臨む山の中腹。そこに、彼女の母が眠っている。
母が墓の場所として指定したこの山は、標高が高く夏は涼しくていい場所だ。だがその反面、冬はものすごく厳しい環境となる。
年に一度、命日に必ずそこを訪れるようにしているのだが――そう、彼女の母は真冬、一番雪が深い季節に亡くなった。
……よりにもよってハードモードになる真冬に死ななくてもいいんじゃないだろうか。
墓参りに来る方の身にもなって欲しい。何の嫌がらせだろうか。
――まあ、元々細かいことに拘らない人だった。
『面倒だったら夏にくりゃいいじゃねえか』くらいは言いそうな気がする。
「まあ、足腰鍛えられるしいいっちゃいいんだけど」
独りごちるヘルヴェル。
新雪を踏みしめて、一歩一歩急勾配の道を進んで行く。
雪の上を軽快に駆け抜けて行くリスに目を奪われた彼女は、ふと雪の中に穴があることに気付く。
「……ん? この足跡、猪か?」
規則的に並ぶそれを覗き込むヘルヴェル。
足跡の大きさからみるとまあまあの大きさ、というところだろうか。
「ふーん。道中会ったら狩って、地元民に売りつけるとするかな……」
ニヤリと笑うヘルヴェル。
普段から強敵と戦うハンターの彼女からしてみれば、猪の相手など朝飯前だ。
山に登る楽しみが一つ増えたぞ……なんて考えながら、更に進む彼女。
山の木々には雪の花が咲き、太陽の光を受けてキラキラと輝いている。
ここまで来ればあともう少しだ……。
歩みを早める彼女。
海に向かって伸びる崖の上、そこには、空に届きそうなほど大きな巨木が佇んでいた。
「……来たよ、母さん。ったく、何だってこんなとこに墓作りたがるかね」
そう言いながら、崖の下を見つめる彼女。
見えるは冬の穏やかな海。それを彩る白い雪。
――いつ見てもいい眺めで、母がここを指定したのも何となくわかるような気がする。
ヘルヴェルは重たいリュックを降ろすと、その中から瓶を出し、徐に巨木の根元にある小さな石に中の液体をかけた。
「はいよ。母さんの好きな酒。あたしもちょっと貰うよ」
言いつつ、リュックから肴を取り出す彼女。
瓶に直接口をつけて酒を煽ると、プハァ……とため息を漏らす。
――母は生前、酒が好きだった。
破天荒な人で、やることなすこと無茶苦茶で……。
その尻拭いに奔走したのは一度や二度ではない。
お姉ちゃんに絡んでいた酔っ払いを蹴散らし、ケンカになって酒場を破壊するとか。
カツアゲの現場に遭遇して犯人をボッコボコにし過ぎて自警団に『やりすぎ』って叱れるとか。
正義感が強く、基本は人助けの為に動くのだがとにかく加減を知らない人で、生前はあちらこちらに頭を下げまくり、お陰様で今では謝罪が大得意だよちきしょうめ。
綺麗に90度直角でお辞儀できるわ馬鹿野郎!
近所のおばちゃんに『ヘルヴェルちゃんも大変ね』って言われてたんだぞ知ってるか!?
墓石に向かって愚痴りまくるヘルヴェル。
――正直、父はあの母のどこが良かったのか分からない。
男勝りどころかその辺の男より男らしいし……確かにスタイルは抜群だったけれど。女性らしさは皆無だったのにな。
そう思ったが――よくよく考えれば父もまーーーーーったく常識に捕らわれない人だった!!
母の尻拭いも大変だったが父のフォローも大変だったのを思い出した!!
要するに似たモノ夫婦だったのだ!
あの両親に育てられた弟も大分アレだ。
そう弟……。
ふと彼の顔を思い出して、ヘルヴェルは頭を抱える。
「ねえ、母さん。あいつとんでもなくたらしまくってて、この間も可愛い子2人口説いてるんだけどさ。ちょっと母さんに似すぎじゃないですかね?!」
小さな石に向かって文句を言う彼女。
――それは違う。俺じゃない。父親似だ! 何ていう声が聞こえた気がして、ヘルヴェルはもう一度墓石にお酒をかける。
「いや、確かに父親にも似てるかもしれないけど……それはどっちかと言うとあたしの方じゃないかな」
そう。彼女は髪の色こそ母親譲りだが、持っている特徴は父の方を良く受け継いだ。
そして、親に似ず常識を備えて生まれて来た……つもりなのだが。
自分も自覚なくとんでもないことをしているのかもしれない。
「そのせいかなー。恋人いませんよ、あたしは。父さんくらい細かいことに拘らない人ならイケそうだけど……」
遠い目をする彼女。
――両親はとても滅茶苦茶だったけれど、同時にとても仲の良い夫婦だった。
あの2人を見て育った手前、結婚というものに憧れがない訳ではないけれど……。
――問題は相手だ。
細かいことに拘らないだけじゃダメ。
自分より腕っぷしが強くないと。
後は、あの弟の洗礼を受けても動じない人じゃないと無理だし……。
――その時点で大分色々無理がある気がする。
それにこう、自分が相手に尽くすとかいうのも、いまいちピンと来ない。
弟は、『ヘルねぇはまだ運命の人に出会ってないからだよ』なんて言うけれど――。
「ごめんよ、母さん。後継ぎは弟に期待してくれ」
あの弟ならもう少し成長すれば子供の1人や2人……いや10人くらい軽いかもしれない。
きっと軽く父親を超えてくる。そんな気がする。
「その代わりあたしは、剣技を鍛えるからさ。父さんと母さんを超えて見せるよ。見ててくれ」
もう一度墓石に酒をかけて、手を合わせるヘルヴェル。
――その時、視界の隅に動くものを捉えた。
さっきの足跡の主だろうか……。
息を殺すヘルヴェル。獲物に気付かれないように武器を手に取るとにんまりと笑う。
「……どうやら母さんの前で腕前を披露できそうだ。酒を飲んで遅れをとるようなあたしだと思うか? 見てろよ。必ず仕留めてやる!」
次の瞬間、駆け出した彼女。
猪とのガチバトルは、どうやらヘルヴェルの圧勝で終わりそうだった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka4784/ヘルヴェル/女/20/父親似の娘
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。
ヘルヴェルさんのお墓参りのお話、いかがでしたでしょうか。少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
弟さんの成長は色々と心配ですが、ヘルヴェルさん自身もお母さまに良く似ているんじゃないかなと思います。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。
ご依頼戴きありがとうございました。