※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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●風、あるいは、憧憬の光
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黄昏も過ぎた宵の口の事である。少女の柔らかな黒髪を、風が撫でていった。月光を返す様は絹糸にも似ている。
――だが、その様相は悪逆に染まっていた。
刀を握る手までアカイロに濡れ、凝固したそれらで指を開くことすらも適わない。華奢な身体を包む可愛らしい装いも、所々擦り切れ、切り裂かれ、あるいは、千切られている。
激戦の痕と、見間違える者は居ないだろう。
「……、……ぃ……」
彼女は小さく、何事かをつぶやいた。歯を食いしばりながら、何かに凍えるような、震えた声であった。
噎せ返る程の鉄錆の香りに包まれながら。脳髄を灼く強烈な甘さに撃ち抜かれながらも、なお、女の声には悔恨が滲んでいる。
至らなかった。
届かなかった。
――弱かった。
いつからかそんな想いを抱くようになった。
それまでは何も感じることはなかったのに。
ただ、刃と、その結果だけがあっただけ。そこに耽溺するだけで、よかったのに。
「……まだ、足りない……」
悲哀に満ちた表情。溢れた息には、甘い、熱。相反する感情が弾け、女の姿を鮮やかに彩っている。
刀を握る手が震える。
――勿論よ。ずっと、いつだって、見えない“光”を、貴方の背中を追い続けるわ。
あの時、彼女はそう応えた。彼女はそれから、あてもなく彷徨い続けることになった。
あまりにも儚い光。消えて初めて、追いかけるに至って初めて、その遠さに直面することになった。
《彼》の死という知らせ――噂を信じるつもりはなかったが、《彼》が消えたのは、事実として受け容れるしかない。
だから、追いかけるのだ。彼女なりのやり方で。在り方で、彼を追うしかない。
彼の問いにそう答えたのは、他ならぬ自分なのだから。
なのに、今は官能と苦痛に、叫びたいくらいに苦しい。《彼》はきっと、戦い続けているのだと想う。それは、ブラウの手がとどかない戦場で。だからこそ、その時が来た時のためにブラウは――強くならなくてはいけない。
いけないのに。
自らの裡に灯る“光”が強すぎて、震えが、嘆きが、止まらない。
“強さ”が、足りない。
「…………どこにいるのよ」
吐きこぼして、呼吸を整えた。何度めかも知れぬ煩悶だから、付き合い方も、分かってきた。
《彼》は、こうも言ったのだ。
――お前は確かに成長した。それでも、まだ足りないならもっと成長すればいい。
それは、今、彼女自身を衝き動かすに足る言葉で。
「…………見てなさい」
意味深な言葉を残して消えたあの男に、いつか、ちゃんと、見せてやらねばならない。
足を止めている場合ではないのだ。
だから、ブラウ(ka4809)は歩を進めた。次の戦場。次の機会を求めて。
いつか――“光”に、届くために。
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka4809 / ブラウ / 女性 / 11 /“光”を追いかけて 】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。ムジカ・トラスです。この度は発注いただきありがとうございました。
おまけノベルを納品させていただきました。
こちらは、ブラウさんのギャラリーと過去の依頼、そして、称号を踏まえてのノベルになります。随分と好き勝手書かせて頂いて恐縮しなくもないのですが、享楽的ではあるもののどこかで一線を引く理知も持ち合わせている彼女なので、このような形にさせていただきました。
今後の展開、ムジカ自身も楽しみにしていますね。また、機会がありましたら、よろしくお願いします。