※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
トクベツの在処

 キラキラ輝く。海みたいに全てを包み込む懐の広さを、あるいは全てを飲み込む凶暴さを秘めた、深い青色。波のように揺らめくのがまた美しくて――何も考えず手を伸ばした。

 この街を訪れたのは初めてだった。もっとも、一端のハンターとして依頼をこなした後だ、治安の悪い側面――スラム街が存在していることは作戦を遂行する経緯で知った。それでも迷わずそこへ足を踏み入れたのはただ単純にヨルムガンドが短気だから、に他ならない。それに、人の目を見れないうえにハキハキ喋るのも苦手なせいで、柄の悪い連中に絡まれることも多かったけれど、それも昔の話だ。くぐらないと扉を通れないほどの長身に、ハンター業で生計を立てる過程で鍛えられた肉体。少しでもまともな神経があるなら、まず喧嘩を売らない相手だ。そもそも、一方的にやられたことなんて一度たりともない。――のだが。
(あっ、こうなるのか……)
 ヨルムガンドは胸中でそう零し、現実では足先で石が跳ねた。と、その音が狙い澄ましたように静寂の中に響き、思いのほか大きいそれを聞き取った一人が振り返る。
 昼間だというのに陽の光もろくに通らない路地裏で、一ヶ所に固まっている数人の男。彼らが何かを囲う格好になっていることからも一目瞭然だ、金か暴力か目的は不明だが、誰か襲われている。中肉中背の連中が邪魔で見えない辺り、被害者は女子供だろう。まるで絵に描いたようなシチュエーション。ヨルムガンドは特別情に篤いタイプではないが、知った上で見捨てるほど薄情でもない。
 もしかしたら、何もしなくても逃げていくんじゃないか。
 そう予想をしたものの、現実は思い通りにはならず。ヨルムガンドが近付いてくるのを彼らは揃って待ち構えていた。小馬鹿にしたような笑い声に眉を顰めるが、連中は気付かなかったらしく男の一人が悠然と足を踏み出すのが分かる。ヨルムガンドは素早く視線を送った。
 余裕の窺える態度や周りの様子を見れば、間違いなくこの男がリーダー格だ。しかし、それが本当に実力から来るものなのか――察するのは容易い。
「あのさ。こういうの、やめたほうがいいと思うよ?」
 まずは穏便に、と口にすれば男達は大笑いしだした。
「やめたほうがいいと思うよ? ……だってよー?」
 リーダー格の嘲笑を皮切りに、その後ろで男達が騒ぎ出す。
「ガキはとっとと帰っておねんねしな。痛い目見る前によぉ」
「なんせ兄貴はここらじゃ名の知れた覚醒者だぜ?」
 と、まるで自分のことのように誇らしげな様子を見て、ヨルムガンドは理解した。そして頭より先に体が反応する。
「なっ……!?」
 その声は随分遅れて聞こえた。無防備に近寄ってきた一人を腕力に物を言わせて引き倒し、別の男の腕を懐から取り出したダガーで斬り付けて。お山の大将に愛銃の銃口を押し当てる。ヨルムガンドの一連の行動に誰一人反応しなかった。いや、出来なかったのだ。
「こんな糞みたいな体たらくで、何が覚醒者だ! あぁ?」
 しかめっ面でそう悪態をつき、自称覚醒者の眉間に力を入れて銃を押し込む。男の声は驚愕から悲鳴へと変わっていた。押されるままに背後の壁の方へ下がっていく男を、その仲間は未だ声も出せず見つめている。無理もないことだ。殺されるかもしれない状況で覚醒状態にならない覚醒者などいない。それに力の差は歴然だ。連中がヤケクソにすらならない程。そして、ヨルムガンドが八つ当たりする気にもならない程に。
「てめぇらこそ、とっとと家に帰るんだな」
 銃で遠くを指して低く言い放つと、チンピラは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
 人の目を見て話すのは未だ得意ではない。ああいう手合いの目は見たいとも思わない。しかし、だからそれ以外の部分――体つきやその一挙手一投足に自然と目が向く。覚醒者云々を抜きに、単に弱いと判った。そんな奴に煽られれば誰だってキレるだろう。
「あ、あの……」
 飴を取り出し、口に運んだところで声をかけられそちらを向く。そこには壁を背に座り込んだ女がいた。鞄を抱え込んでいる辺り、連中は強盗だったらしい。近付きながら派手な音を立てて噛み砕くと、女は肩を竦めて。しかし、先程の男より余程肝の座った様子で頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとうございました」
 そう言って立ち上がった女が、じっとヨルムガンドを見つめる。その視線を正面から受け止めて返した。キラキラした、海を思わせる青い瞳が目の前にある。
(……あぁ)
 伸ばした手で、子供にするように女の頭を柔く撫でた。そうだ、違う。これは確かに美しいけれど自分が欲しいのはこれじゃない。この人じゃない。
「もうこんな場所は通らないようにね」
 女がこくこく頷く。それを見るとヨルムガンドは視線を外し歩き出した。向かう先は宿だ。本当に帰る場所はその延長線上にある。
 瞬きをすると暗闇に浮かぶのは青色。たった一つのトクベツだ。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5168/ヨルムガンド・D・L/男性/22/猟撃士(イェーガー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
初めてのおまかせノベルということで、キャラ情報や参考資料を元に、
ぱっと直感で思い浮かんだ話をそのまま小説に落とし込んでみました。
相反する性格と異常性を2000字の中に詰め込んだつもりです。
好き嫌いや趣味、得意なこと等に言及できなかったのが心残りでした。
複雑なキャラなので難しいですが、書いていてとても楽しかったです。
今回は本当にありがとうございました!
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
ヨルムガンド(ka5168)
副発注者(最大10名)
クリエイター:りや
商品:おまかせノベル

納品日:2018/10/22 11:17