※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
交流

「うまい飯をくれ」
 所領の城下町、その繁華街の片隅にある飯屋の席へ腰を下ろすなり、メンカル(ka533)は告げた。
 あまりにぞんざいな注文を受けた店員は苦笑し、それでも適当に応えて厨房へ渡す。うまい飯ひとつ!
 もちろん店員も周囲の客も、メンカルが誰かを知っている。それでも普通にしているのは、書類仕事に疲れた彼が居城を抜け出し街に現われるのがいつものことだからだ。
 料理を待つ間、彼は精霊力で冷やしたエールの杯を手に周りの者たちへ問う。
「ついでにだ、なにか困り事があるなら言ってくれ。やれることはやるし、やれんことはごまかすか無視する」
 彼にしては崩した言葉で促せば、人々が入れ替わり立ち替わりで彼に話しかけてきた。店の中にいた客だけでなく、駆けつけてきた者たちもが加わってだ。
 メンカルの到来は不定期ながら、書類仕事が詰まる時期はおおよそ決まっている。だから、それを見計らって張り込んでいる領民がいるし、いざ来たとなればすぐに知らせが駆け巡る。
「それについては担当の文官を向かわせるが、もうひとつは無視だ。そもそも妻のいない俺が夫婦喧嘩の仲裁なんぞできるか。あと、そちらの件は持ち帰って検討する。告知板に注目しておくように」
 そんな調子でさくさく捌いていく間に料理が届き、メンカルはふむ、細めた目を淡く輝かせた。
 米と野菜と鶏をスープで煮込んだ素朴な雑炊。
 しかし、素朴なのは見た目だけの話だ。素材のすべてが深い滋味を染み出させていて、それらが織り成す強い旨みは目を見張るだけの太さがあった。
「この雑炊はどれほどの量を作れる? 次の朔日飯にしたい」
 朔日(さくじつ)とは月の第一日であり、メンカルは同じような食事になりがちな城勤めの者たちへ特別な料理を用意する日と決めていた。
 そしてこれを頼まれるのは城下町の飲食店にとって栄誉であると同時、その月の儲けを拡大する好機でもあった。
 おかわり込みでいくらでも! 勢い込んで応える店主へうなずきを返し、メンカルは綺麗に雑炊を平らげて。
「最近は城に若い者が増えた。奴らはとにかく肉を食いたがるが、これなら野菜も自然に摂れるだろう」
 そんなお父さんみたいなことまで考えるのか……人々の生暖かい視線を引きちぎり、いそがしい領主は払いを済ませて颯爽と城へ戻りゆく。


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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
メンカル(ka5338)
副発注者(最大10名)
クリエイター:電気石八生
商品:おまけノベル

納品日:2020/07/30 10:10