※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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疾影士・桜吹雪
「ど、泥簿~っ!」
人の途切れぬ往来で、甲高い悲鳴がこだました。
(泥棒?)
多くの人が振り向く中で、帯金 マリ(ka5551)も振り向いた。
いや、すぐに視線を別の場所に向けた。視界の端に、振り向いた人たちとは逆方向にするっと抜けるように立ち去る人影を捉えたのだ。
「あ。お客さん、おつり……」
「いいわ。とっておいて!」
ちょうど屋台で買い物をして紙袋を受け取っていたマリ。代金をカウンターに置くと急いで人波に消えた不審者を追うべく走っていた。
「財布を盗まれました、誰か取り戻してください」
「私に任せて!」
マリに気付き犯人の逃げた方を指差す被害者。ひとつ頷いて安心させてから加速する。
ただの加速ではない。
疾影士として、本気の加速。
風に桜の着物がなびく。人波を右に左にステップしかわすが誰も危ないなど思わない。いや、マリが過ぎ去ってからびっくりするくらいだ。大きく腕を振って向かう先の空間を確保するさまは、たなびく袂と合わせ泳ぐよう。春の旋風もかくやの速度で……。
――ざ。
人のいない、林道の中で立ち止まった。
「いるんでしょう? 出てくるといいわ!」
マリが声を張ると木々の陰から財布が飛んで来た。どさっと足元に落ちる。音からして中身は軽いわけではない。
「……中身、抜いてないの?」
「手を付けないとはさすが」
拾うそぶりすら見せないマリを見て、木々の奥から皮ベストの男が出て来た。手には長いナイフを持ち低く抜け目なく構えている。
「え? 手を付けるとどうなるの?」
「……狡猾なのかバカなのかよくわからん女だな。手を付けたら犯人扱いするに決まってるだろ」
「あ、そっか」
素直に感心するマリだが、次の瞬間には分厚い刃のナイフを抜いて前に突っ込んでいた。
――ガキン……。
「へえ」
皮ベストの盗賊、感心した。
言葉が終わらないうちに不意打ちで繰り出していた長ナイフの斬撃を、ひるむことなく突撃して来たマリが厚いナイフで攻撃を合わせて受けたのだ。
「よくわからんがいい度胸をしている」
盗賊が勝ち誇ったのは、刃を合わせた双方の受けの姿勢の陰でしっかりと二の太刀を撃ち込んでいたから。マリの腰骨に短いナイフの刃が突き立っていた。
「くっ」
「ふん、鎖帷子みたいなのを着込んでいるな?」
ばっ、と離れる二人。
いや。
すぐにマリが突っ込んでいる。腰のダメージはないようだ。
疾いッ!
――ガキッ、ザザッ!
「手の内の確認か?」
一瞬の立ち合いの後にバックステップしたマリを、盗賊がせせら笑う。二撃目のスピードを確認されたという自覚はあるようだ。
「残念、違うよ!」
元気よく答えたマリ、またも突っ込んだ!
「手の内は確認させてもらったァ!」
盗賊、勝利を確信して左右の長短ナイフを持ち替えた。先ほどより素早い一撃が来る!
が、しかしッ!
マリの姿が春の嵐のように桜吹雪にかすんだ。
いや、思い切りの良さはそのままに、突っ込む速度を緩めて小刻みなステップを踏んでいたのだ。
なぜ、敵はそれに気付かない?
(この履物のおかげだよねっ!)
足元のネグロノーチェシューズの使い心地に満足しつつ右手に流れるマリ。敵はこの薄暗いシューズの動きには目が行かず、袂が派手に舞う桜吹雪の着物に注意の多くを取られていたのだ。
結果、桜吹雪とともにマリが目の前から消えたような錯覚に陥ることになる。
「忍法・桜吹雪!」
「しゃらくせえ!」
敵の左手から斬り付けたマリ。身を泳がせた敵のレザーベストを斬る。
代わりに、敵の斬撃が来た。
マリは攻撃した姿勢から回復しきっていない。
「もらった!」
「まだまだ!」
敵の渾身の一撃の一瞬前に、マリの手にした肉厚のナイフが煌いた。
――かしゃん、かしゃん……ガキッ!
何と、三つの刃に分かれたナイフは瞬く間に変形し、長いナイフと短いナイフに分かれた。その短い方を逆手持ちして敵の必殺の剣を防いだ!
「こいつ……」
「まだいくよっ!」
元気よく二本のナイフで攻撃を繰り出すマリ。敵もさるもの。これをさばく。
さばいてさばいて……カチ上げた!
マリ、両手を開き大の字になっている。
まったくの無防備だ!
「今度こそもらった……なにぃ!」
どかっ、と盗賊は跳ね飛ばされていた。がら空きのところに突っ込んだのに。
「……くそっ。あばよ」
「あ……ま、いっか。財布は取り返したし」
逃げる盗賊を追わなかったのは、財布を持ち主に手渡したかったから。
なお、最後は足を高々と上げて敵を蹴り飛ばしたのだが……。
「見えたかもだけど、ビキニアーマーだから別にいいよね!」
ぽふぽふと身だしなみを整え財布を拾うマリ。
腰への攻撃もこれが防いでいたようで。
とりあえず、屋台で購入していた焼きいもを取り出す。割ると、ほっくりした金色の身が姿を現し甘い香りがさらに強くなった。
はむっ、とかじりつき幸せそうな笑顔を見せる。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka5551/帯金 マリ/女/21/疾影士
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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帯金 マリ 様
初めまして。ご発注ありがとうございます。
設定など拝見しましたところ、まだ特には詰めていらっしゃらないようで、これは「面白い設定ならそのまま使うよ」なパターンかな、とお見受けしました。
とはいえ、なかなか好き放題はできないものでして、今ある設定から黒髪日本人肌の元気な疾影士のお姉さんで、着物着て隠密用のシューズはいてビキニアーマー着こんでる! なところから総合的に判断いたしました。
え?
緑の瞳?
迷彩ジャケット?
はてさて、まあそれはそれですね~(
ユナドラソードは採りましたが。ロマンですよねっ。
それはそれとして。
忍法っていわせちゃったけどちょっとこれはどうだろう、それでも隠密か?
とか思わなくもなかったのですが様式美ということで。隠密設定とかは明記してないし~。元気いっぱいにしゃべってどちらかといえば守備より攻撃なマリさんだもの、このくらいはね~、とか。
オチにビキニアーマーですが、それはそれで可哀想かもしれない(そういうキャラでない場合)からと、焼きいもで。
というか、実は焼きいもの話を書くと決めてました。秋ですしね~。女の子だし。
そんなこんなで、マリさんのちょっとした冒険譚をお楽しみくださいませ♪