※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
明日は晴れるから

 外に出るなり、ふわ、と欠伸が漏れる。歪虚との実戦だけじゃなく地道な鍛錬もユキトラは好きだ。だって、続けていれば確実にそれは強さへ変わるのだから。しかしその反面で、大の苦手としていることがある。それは手続きだ。あらゆる種族を受け入れ、いつどの依頼を受けるのかを完全に委ねるなど、基本自由なソサエティが課す幾つかの制約。ユニオンへの所属、そして当事者であるハンター自ら仕事の顛末を報告書にまとめるという義務である。本部や支部に近い場所だと監察官がつく場合もあるが、遠方となるとそれもなかなか難しい。じゃあ、そういうのが得意なヤツに任せればいいじゃんか! ともいかないのがユキトラを疲れさせた原因である。不正を防止し、公正を維持するため全員に報告が求められるのだ。説明されれば納得するのだが、ヒトには得意不得意というものがある。苦手なものはどれだけやっても苦手だし正直やりたくない。
 鬱憤晴らしも兼ねて、村のはずれに行って刀を振るか。一度そう思い立つとやらずにはいられなくなり、ユキトラは既にすっきりとした表情で、鞘に収めたままの、己の契約精霊と同じ名を持つ愛刀を手にし、どこか開けた場所はないかと探し始めた。――と。
「ん?」
 自分に向けられる視線を感じ取り、その方向へ目を向ける。ユキトラとしては特に深く考えずに見ただけだったが、日本刀を持って歩くヒトというのはちょっと物騒だったかもしれない。視線の主である子供は目が合った瞬間にぴゃっと肩を竦ませたが、逃げる様子はなかったのでユキトラは刀を腰に戻してそちらへ歩み寄った。子供は動かないまま、その瞳は顔を通り越して少し上へ向けられる。ユキトラはお、と胸中で呟いた。
「角が生えてるヤツ見んのは初めてか?」
 言ってしゃがみ込み、額にある二本の角がよく見えるように顔を傾けてやる。子供――まだ十に満たないだろう男子の手がユキトラの角に触れた。角は鬼の象徴でもある大事なものだが、物怖じせず触りにくるこの豪胆さがユキトラは嫌いではない。顔をあげると、
「どうだ、かっけーだろ?」
 と訊いて歯を見せて笑う。子供はうっすらと頬を紅潮させ、こくんと頷いた。
「この白鬼、ユキトラ様のかっこよさが分かるたァ、見込みがあるぜ!」
 最後に力強く自分の胸を叩いてみせると、子供は小さい声ながらもかっこいい、と言って目を輝かせた。素直でいい子供だ。
「お兄ちゃん、何してるの?」
「ああ、ちょいと素振りでもしようと思って場所探してたんだよ。ボウズ、どっかいいトコ知ってるか?」
 ユキトラの言葉に頷いて、子供がとことこと歩き出す。どうやら道案内してくれるらしい。ユキトラは立ち上がり、振り返って手を振る子供のほうへ向かった。
 道すがらに何か話そうとして、真っ先に思い浮かぶのはやはり今回の依頼の話だった。この村を襲う魔獣をばったばったとなぎ倒す武勇伝なら、きっと喜ぶだろう。そんなユキトラの予想に反し、先程まで楽しそうだった子供の表情が徐々に曇っていく。彼が勢いを失くしたのに合わせてユキトラも立ち止まり、もう一度しゃがんでその小さな肩を軽く掴み、
「どうした?」
 と訊けば子供は俯いて少しの沈黙を挟み、ユキトラが痺れを切らして言葉を足すよりは早くに口を開く。
「――死んだの、僕のお父さん」
 言ったのはそれだけ。だが、察するに容易い。だってユキトラは当事者のハンターなのだから。仕事の際は軽傷者しか出さなかったものの、依頼の契機となった歪虚の襲撃によって男が一人命を落としている。子供の目から堰を切ったように涙が溢れ出した。ユキトラはその小さな体を引き寄せ、背中をトントンと叩いた。
「……今は好きなだけ泣け。泣きまくっていい。――けどな」
 心に訪れるのはらしくもない郷愁の念だ。ユキトラは静かに、でも確実にこの気持ちを届けられるように言葉を選んだ。
「いつまでも泣いてちゃあいけねえ。なあ、もし自分が死んで、家族や友達がずっと寂しい、帰ってきてほしいって泣いてたら嫌だろ? ……オイラだったら嫌だ。忘れられんのも嫌だけど、オイラの分までバカやって笑ってほしいって思う」
 大事だから悼まずに前を向いて己の生をひた走って、そして楽しかったことだけ思い出してほしい。そんな風に考えるのは間違いだろうか。死んだ時ヒトがどうなるのか分からないが、分からないことは考えても仕方ない。答えの出ない問題で悩むくらいだったら、少しでも早く強くなって歪虚を討つ。そして笑いたい。脳裏によぎるのは肌も髪も黒い姿だ。にししと悪戯小僧のような笑顔が思い浮かぶ。
「……すげー好きなんだよな」
 唇からは無意識に言葉が零れて、己の胸で泣きじゃくる子供にではなく、自分に言ったようにも思えた。ユキトラがここを発つとき、彼は笑ってくれるだろうか。後腐れのない別れがいい。笑って前を向いてほしいと心底そう願った。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5846/ユキトラ/男性/14/霊闘士(ベルセルク)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
家族を多く亡くしたつらい過去が想像出来ないような、
凄く前向きなところと無邪気さがとても印象的でした。
素直にかっこいいなあ、尊敬したいなあとも思います。
前向きに、と言うのは簡単ですが難しいことですよね。
終わりのほうはちょっとシリアスな向きが強いですが、
そういう性格が少しでも多く表現出来ていれば嬉しいです!
書いていてとても気持ちのいいキャラでした。
今回は本当にありがとうございました!
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
ユキトラ(ka5846)
副発注者(最大10名)
クリエイター:りや
商品:おまかせノベル

納品日:2018/11/16 10:18