※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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世界と人と
転移門を抜ければ一瞬でリゼリオからどこにでも行ける。転移門がないところでも、日数を減らして到着できる。
マリィア・バルデスはクリムゾンウェストに転移してから、世界を知りたくて軍を退役しハンターとなった。
世界を回り、住民や仲間との交流、歪虚との攻防を経験した。あわただしく年月は進む。
今回は村に手紙と小包を届ける。途中に危険な生物が出るという話はないため、単身で出かける。
転移門で移動後、そこからは魔導バイクで向かう。
「そういえば、あの町の近くなのね……寄ってみようかしら」
知り合いの女の子が住む地域が近かった。家にいるかどうかはわからないが、ついでに寄ってみたくなる。
バイクを走らせる。街道から外れ徐々に山道に入る。
単独で移動すると思考をめぐらす時間ができる。
(幸せになってほしいと願っても、それが叶わないこともあった……だから、今生きている子は守りたい)
この世界での出会いがすべて良いものでもない。歪虚となってしまった相手はどうあがいても救えない。滅ぼすしかない。
一方で今生きている少年少女であれば、助けたり叱ったりしながら生かせることができる。
(難しいわよね、生きるのは。それにしても……ん?)
「ぎゃ」
少年を轢きかけた。マリィアは慌てて止まり、助け起こそうと近寄った。
「ちょっと、大丈夫?」
マリィアがしゃがんで声をかける。
道に真っ青な顔でへたりこんでいるのはローティーンの少年。道に転がっているのは柄が折れた鋤だ。
「あ、え、ああと……なんだよ! 危ないじゃないか! 俺の、大切な道具が!」
少年は真っ青だったが、突然怒ったように言った。
「ごめんなさいね。人が通るとは思っていなくて」
マリィアは細心の注意は払って運転はしていた。
(……この折れ方……私じゃないわよね?)
バイクでは乗り上げた感覚はなかった。
「ああ、えと、足が痛いよ」
思い出したかの様に足を抑える。
(当たり屋よね……)
マリィアは怒りや悲しみや笑いがこみ上げる。
「どこが痛いのかしら? 医者に見せたほうがいいわよね?」
少年はびくっとなる。
「全く……いつからこういうことしているのかしら?」
マリィアの声の怒気に少年はしおれる。
「けがをしたらどうするの」
「そう、ならないようには気を付けてる……」
少年は小さく応えた。
「その鋤はいつから壊れているの? あなたの家は農家なのかしら?」
「そうだ……俺は、本当は街に行きたいんだ! でも、そんなお金ないから」
だから当たり屋をしようとしたらしい。
「でも、ここを通るのって……」
「だから、練習だから! ここ下りたところの街道あるだろ? そこでするための」
マリィアは頭を抱える。
街道は人通りもそれなりだったし、馬や馬車も走る。
「なんでそんなことするの! きちんと止まってくれなければ、馬に跳ね飛ばされて死んでしまうわよ!」
マリィアの雷が落ちる。
「何も、できなくて! 野菜作るしかできないし」
「立派に出来ているじゃない」
「それじゃ、町に行っても何もできないと同じだよ」
「同じじゃないわよ」
マリィアは少年と言い合い状態になっていたのを止める。一旦深呼吸をして、諭すほうがいいと感じた。
「野菜作ることは重要よ。食べ物は誰もが必要なものだから。それに、ただ、作るのじゃなくておいしくて立派な野菜を作れれば、それはすごい技能よ?」
少年は驚いた顔をする。
「あなただって動くために何をするの? 食べて寝るでしょ? 食べるには何がいるのかしら? それを作るのは誰かしら?」
マリィアは丁寧に説明する。少年は小さく「あっ」という。
「あんな危険なことはしないで。時間はかかるかもしれないけれど、野菜でも花でも何でも売る物を作ればいいの。そこに付加価値……人が知らない植物や新しい野菜、丁寧に作って立派な野菜とか……を作るの」
「……きょうだい、多くて……食べるだけで精一杯で」
「でも、当たり屋している時間があるなら、肥料の改良をするとか、何か売れそうな道具を作ってみるとかしてみればいいじゃない?」
マリィアに言われ、少年はうなずく。
「お金がないのは確かに辛いわね。少し、見方を変えれば、あなただって色々できる人なのよ。これからがあるの」
マリィアは殺されて歪虚になった少年を思い出す。彼女は神霊樹のライブラリで生きている姿を先に見ていた。そのため、歪虚としての彼を見たときは衝撃だった。
生きていれば、何かできるのだ。
目の前の少年は生きている。
「分かったよ……全く、うるさいなー」
「なっ!」
「で、なんで、ここを通ったんだよ。大体、うちの村しかないし」
元気を取り戻した少年は鋤を拾う。
「手紙を届けに行くのよ」
「そっか。まずは、この鋤を直さないとだな」
少年は溜息をもらす。
「そうそう、一つずつ進むのよ」
マリィアが笑うと少年も笑った。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
ka5848/マリィア・バルデス/女性/24/猟撃士(イェーガー)
????/どこかの村の子/男性/ローティーン/当たり屋あらため一般人
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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発注ありがとうございます。
『魔術師の弟子、ある日の昼』直前くらいですが、直近の夢シナリオであったセリフからこのようなことになりました。
いつもNPCズが怒られたり、心配されたりしていますので……温かさと厳しさはマリィアさんの優しだと思っています。
結果、まかされてこうなりました。
いかがでしたでしょうか?