※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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家族というもの
「マリ。コーヒーもあるけど、お茶の方がいいよね?」
「ええ。お茶の方が嬉しいですわ」
にこやかな笑みを返す金髪の乙女に、笑みを返すキヅカ・リク(ka0038)。
――金鹿(ka5959)と恋仲になってまだ日は浅い。
それでも、自分しか知らない呼び名で彼女を呼ぶし、彼女の好みもこうして覚え始めて……今日だって、こうして自分の部屋に遊びに来てくれている。
少しづつ、関係が育って行っているのを感じて、くすぐったいような、嬉しいような気持ちを覚える。
リクは金鹿の前にお茶を置くと、彼女の前に座って……コーヒーを啜りながら、チラリと伺い見ると、彼女の表情が何だか硬いことに気が付いた。
「……マリ、何かあった?」
「リクさん」
「はい?」
小鹿の真剣な声色に、思わず姿勢を正すリク。
金鹿は少し逡巡したあと、徐に口を開く。
「……あのですね。そろそろ、家族にリクさんを紹介したいと、思っているのですわ」
その、恋人として……と、消え入りそうに呟いた彼女に、リクは息を吐き出して天井を仰ぐ。
ああ、ついに。ついにこの日が来たか……!
付き合い始めたばかりなのに……と思われるかもしれないが、リクはそもそも女性面に関してはあまり器用な方ではない。
金鹿とのことは真剣に考えていたし、今までもこれからも大切にしたいから。
彼女と、恋人としてお付き合いさせて戴いています――と。
きちんと彼女の家族に宣言すべきだし、そういうケジメはきっちりつけたいと思っていた。
……そういう意味では、彼女を自分の親にも紹介できれば理想的だったのだが、残念。リクの故郷はリアルブルー。
そしてリアルブルーは邪神ファナティックブラッドのせいで絶賛凍結中だ!!
別に故郷に帰りたい訳じゃないが、親に挨拶くらいしたい。
それすらままならないなんて本当邪神も余計なことをしてくれる。馬鹿野郎ふざけんな!
彼女と自分の栄えある輝かしい未来の為にも、邪神はとっととやっつけないと……!
なーんて、リクの脳内に目まぐるしく思考が巡っている間も、金鹿の声は続いている。
「……私、可愛い妹がいまして、その子にも会って戴きたいのですわ」
「……あれ? マリって兄弟、お兄さんだけだったよね?」
「ええ。あの子とは血が繋がっている訳ではございませんの。でも私達、特別に仲良しさんなんですのよ?」
『特別に』という言葉に力を込めて、何やら誇らしげに笑う彼女。
血の繋がっていない妹、でピンときた。
そういえば金鹿は、東方の一国の当主である少女を、とても可愛がっていたっけ……。
「強くて優しい、とても良い子なんです。きっとリクさんとも気が合いますわ」
「そうだといいけど……。『大事なお姉ちゃんを渡しません!』なんて言われたりしないかな」
ハハハと力なく笑うリクに、キョトンとする金鹿。
何だろう。そのキョトンとした顔も可愛いとかちょっと反則じゃないかな?
あー。いやいや。そうじゃなくて。
……先程も言ったが、金鹿はその少女を、とても可愛がっている。
否。その表現はとてもマイルドだな――。
それはもう、可愛がる、という段階を軽く凌駕しているように思う。
――その少女は早くに父を亡くし、さらにはそれに端を発したお家騒動で、敬愛していた従兄を喪ったと聞いている。
だからだろうか。金鹿は少女を本当の妹のように愛した。
何か理由をつけては甘やかし、ありとあらゆるものから守り、男性は害虫と称して排除する。
『金鹿さんのお姉ちゃんガードは完璧なのです!』と、リクと金鹿の共通の友人から何故か嬉しそうに説明を受けたこともあった。
ともあれ、彼女がそれだけ可愛がっている存在だ。
勿論仲良くしたいと思っているが、ヤキモチの一つくらい焼かれるかもしれないと思ったのも事実で。
「大丈夫ですわ。本当にいい子ですもの。きっと私達のことを祝福した上で、リクさんのことも『お兄さん』と呼んでくださいますわよ」
「マリがそういうなら大丈夫かな」
「ええ! それにリクさんを紹介したいのは妹だけじゃなくて、実家もですし……その。そちらの方が問題かもしれませんわね」
笑顔でコーヒーを啜るリク。言い淀んで目を伏せた金鹿に、リクはあー……とうめき声をあげる。
金鹿の実家にいる兄は、それはそれは彼女を大事にしていた、と。
彼女の口から、そのように説明を受けている。
自分を甘やかす兄を見て、大袈裟だと、どこか冷ややかな目線で見ていた部分があったとも。
そして、金鹿はこう付け加えたのだ。
――お兄様には申し訳ない事をしましたわ。
だって、知らなかったんですもの。
妹という存在が、こんなに可愛いものだったなんて……!
なるほど。兄に対する認識を改める妹。とてもいい話だ。
……しかし。それが事実であるとするならば、だ。
金鹿の兄という人は、金鹿に非常に似ている……ということになりはしないだろうか。
どこが似ているか?
顔でも性格でもない。
『己の妹』という大切な存在に対し、鉄壁のガードを誇るという点で、だ。
それはもう今から嫌な予感しかしないし、リクにとって、かなりの難関になるのではなかろうか。
金鹿もそう思うからこそ、言い淀んだのだろう。
二人は顔を見合わせると乾いた笑いを漏らす。
「妹さんは大丈夫だとしても、お兄さんには『どこの馬の骨とも知れん奴に可愛い妹はやらん!』って言われそうだよねえ」
「そうですわね……。まあ、でも、大丈夫ですわよ」
「えっ。その根拠は?」
「言いましたでしょう? 兄は私に甘いんですの」
「うん。それは聞いたけど。だから反対されるんじゃないの? っていう話なんだけど……」
「だからですわよ。『リクさんとの仲を認めて下さらないお兄様なんて大嫌い!』と私が言えば一発で陥落しますわ」
涼しい顔で言う金鹿に、リクがブオッとコーヒーを噴き出す。
うわあ……! 流石僕の彼女! 知略に富んでるゥ!!
ちょっと勝てる気がしない上に、お兄さんに同情したくなってきたぞ!!
僕だって彼女に『大嫌い』なんて言われた日には立ち直れる気がしないもんな!!
「でもそれ、確かにお兄さんに大ダメージだろうけど、逆に僕へのヘイトが上がらないかな?」
「あー。その可能性はありますわね。それじゃ、その時は私がお兄様と決闘致しますわね。大丈夫ですわ。リクさんの為ですもの、絶対勝ってみせます」
「待って待って。そこは僕が認めてもらうべくお兄さんと戦うべきなんじゃないのかな!?」
「あら……?」
慌てるリクに小首を傾げる金鹿。
そこで彼氏であるリクではなく、自ら兄をぶちのめそうとするあたりちょっとぶっ飛んでいるというかですね!
彼女はどうしてこう無駄に漢らしいのか!
いや、そういうとこも好きだけど!!!
やっぱり大分お兄さんが可哀想になってきた!!!
「……とにかく、マリ。お兄さんとご両親には、きちんと僕がお話するから。決闘は最終手段にしよう。ね?」
「リクさんがそう仰るなら……。ごめんなさい。面倒な兄で……」
「ううん。話せばきっと分かってくれる気がするし……お兄さんとは、多分気が合うと思うんだよね」
はにかんだ笑みを浮かべるリクに、赤い双眸を向ける金鹿。
……確かに、心配のし過ぎだったのかもしれない。
リクはとても素敵な人だ。困難な道も切り開き、可能性を掴む為に足掻き続けてきた。
そんな人だから、兄との関係性にも本気で向き合ってくれるだろうし……兄は最初こそ拗ねるかもしれないが、いつかはこの人に絆されるだろう。
「そうと決まれば……ご実家、いつ行こうか? ご都合聞かないとだよね」
「ええ。実家に連絡を入れてみますわね。皆が揃っていないと二度手間になりますし……」
「僕は別に何度お伺いしてもいいけどね。じゃあ、申し訳ないけどお願い出来るかな」
「お任せくださいな」
「それにしても、マリの育った家か。今から楽しみだな」
「何の変哲もない普通の家ですわよ?」
「それでも、マリが家族と過ごした家でしょ。興味あるよ、やっぱり」
「それでしたら、私だってリクさんのご実家に行ってみたいですわ!」
「ああ、うん。そうだよね。無事にリアルブルーを解放出来たら、連れて行くよ」
「はい! 約束ですわよ?」
「うん。約束」
にっこり笑い合う金鹿とリク。小指に、新しい約束を乗せる。
誰かと誰かが出逢い、1人から2人になって、家族というものは出来て行く。
そこには血の繋がりはなくても……血の繋がりがないからこそ、大切にしなくてはならないものが沢山あるはずだ。
新たな関係を築く為に、2人は少しづつ、時を重ねて行く。
━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お世話になっております。猫又です。
お届けまでお時間頂戴してしまい、申し訳ありませんでした。
金鹿ちゃんとリクくんのノベル、いかがでしたでしょうか。
おまかせノベルの時期は過ぎたはずなのによもやおまかせ指定が飛んでくると思いませんでしたよね!!
ええもう好き勝手書かせて戴きました!!!! 少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。
ご依頼戴きありがとうございました。
副発注者(最大10名)
- 鬼塚 陸(ka0038)