※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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■符術師と収穫祭と、困ったロバ~幕間
●ロバと下見と、拗ねた相棒
「違うヨ~。パリオにはロロじゃないと出れないから、仕方ないんダヨー!」
拗ねたのか、ぷいとそっぽを向いた幻獣にパトリシアが弁解する。
祭の誘惑やモロモロに押し切られ、ロバのレース『パリオ』への飛び入り参加が決まってしまった日の夕方。
パリオを知らないパトリシアのために、少女は二人でコースを回ろうと提案した。
もちろんロバに慣れるのも兼ねて、パトリシアは黒毛のロバに、少女は灰色のロバに乗っての下見だ。
歩いたり走ったりの慣らしを繰り返し、ロバ達の疲労が溜まらない程度で切り上げたのだが。
馬屋での留守番を喰らった幻獣には、一羽残されたのが気に入らなかったらしい。
帰ってみると、すっかりヘソを曲げていた。
「置いてけぼりで、寂しかったんだよネ。お祭りでも一緒に回れないケド、美味しいお菓子があったら、お土産に持ってくるカラ!」
もっふりした羽に顔を埋めるようにして、パトリシアが抱きつき。
しばらく幻獣を見上げていた黒毛のロバは飽きたのか、自ら馬屋へ戻っていく。
やり取りにくすくす笑いながら、灰色のロバから降りた少女は簡素な鞍を外した。
「明日は頑張ってね。コース取りはロロが覚えてるから、平気だと思う」
「それナラ、パティでも安心だネ。けど、なんで今年はロロに乗らないカナ?」
「あの子……ルフほど気が強くなくて、他の子と競り負けちゃうんだ」
少し寂しそうに呟いた少女は、顔を上げて笑顔を返した。
「パティさん、お腹すいたでしょ、晩御飯にしよ」
○
祭りの当日、夜明け前からパトリシアを起こしたのは、甘く香ばしい匂い。
客用のベッドから出て台所を覗くと、ドライフルーツのクッキーやケーキ、瓶詰ジャムや果物の砂糖漬けなど、祭り用のお菓子がテーブルを占拠していた。
「うわぁ……おかーさん、パティも手伝うヨ!」
「おや。ゆっくり寝てていいんだよ」
「ううん、ご飯とベッドのお礼ネ」
そしてセミロングの金髪をまとめ、いそいそと菓子作りを手伝い始める。
やがて日が昇るとロバの世話をする父親と姉、最後に弟の順番で起き出し、賑やかな朝食となった。