※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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似たもの同士の……姉妹喧嘩?
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――静かな空間。それがどこなのかは、そこに居る二人にも判らない。
ただ薄暗く、そして冷たい風の舞うところ。
そして少女のうちのひとり――玉兎 小夜は、目の前に立っている少女を苦々しく思っていた。
風に翻る長い銀髪、紅い光を宿した双眸。見た目は何処か似ている二人の少女――だが、その目に宿る光は一線を画している。
小夜の視線は憎しみを込めた光であり、その一方でもう一人の少女――橋場 アイリスはどちらかというと落ち着き払っているようにも見える。
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小夜は、脳裏に様々な感情が渦巻いていた。
玉兎小夜、と言う存在自体が、彼女の中では歪つきわまりなく思えてくる。
「かつて戦場で恋仲を失い、人間全てに嫌気がさした――だから」
彼女は人間の、いつかの滅びをのぞむ。
それに対してアイリスは、
「ひとを恨むことを知りつつも、かつて義父や義妹に誓った正義の味方になりたいと思った」
ゆえ、彼女の望みは人類の救済。
まるで正反対な主張をもつ二人。
それでも、二人は似ている。いや、正反対だからこそ似ている。
鏡写しの存在と言えるのかも知れない。
滅びをのぞむ少女と、救済をのぞむ少女。
二人は、しかし、その性質が真逆であることから、決して相容れようとはしない。
とくに、小夜はアイリスに怒りを抱いている。彼女にとってのアイリスとは、この世界に堕とした、文字通り憎むべき存在である。しかし同時に、彼女の存在がなければ、今の自分はそもそも存在し得ることは無かった。だから、小夜としては非常にフクザツな気分なのは間違いないの、だが。
それでも、普通で会うことすら適わない相手に出逢ってしまえば、胸の底に溜っていたものがもやもやと形になってしまう気がする。いや、そのもやもやはむしろ出てきて当然とさえ思えてしまう。
だって――そう、目の前にいるのは見間違いようのない怨敵――自分自身――なのだから。
小夜は怒りに身を任せ、得物である巨大な漆黒の太刀を構えてアイリスに向かって近づいていく。
しかしアイリスもそうなることは予見していたのだろう。
「……可愛そうな子。私がかつて持っていた憎しみを引き継いで、それにいまだに振り回されている、悲しい子」
その優しい眼差しの奥底に眠るは、「赦し」。小夜を見つめる眼差しには、確かに母のような姉のような、母性と呼ばれるそれが存在している。
「……玉兎。知っているでしょう? 貴方が憎んできたものは、確かに私の憎しみ……けれど、それに縋るのはもうやめなさい」
身体ほどもあろうかという白銀の大剣を振りかざしながら、しかしまるで流れるように小夜の攻撃を受け流していく。
「……ッ、うるさい、うるさいうるさいうるさいっ!」
そう叫びながら放つ小夜の初手は、しかしながらアイリスに全てさらりと受け流され、むしろ切り返される。実力も技量もアイリスのほうが小夜より遙かに上、しかしそれでも小夜はぎりりと歯噛みしてまた立ち向かう。
やがて、彼女の力が通じたのだろうか、少しずつアイリスの肌や服が、切り刻まれていく。
当たり前だ、アイリスは既に撃退士を辞している。力の消耗も、かつてに比べれば圧倒的に激しい。
しかし小夜はそれを知ってか知らずか、攻撃に全力を尽くす。
それはもしかしたら、彼女の心の中にあるアイリスという存在と決別したいという強い気持ちがそうさせているのかも知れない。
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そんな小夜を、困った妹――と言うように眺めながら、アイリスは言う。
「……玉兎、私は既に消えゆく身ですよ? それでもなお、私を滅しようとしますか」
アイリスの問いかけに、玉兎は間髪入れず、
「当たり前だ!」
そう叫んで続けざまに居合いの斬撃を放つ。
「それよりお前こそ、真面目に相手をしろ! お前はその程度なんかじゃ無いはずだ!」
――だって、アイリスは自分の基となった存在なのだから。
その言葉はあえてくちにしないが、逆に言えばそれくらい憎しみが勝っている、のかも知れない。
――それより。
「そんな軽い手応え、私は許さない!」
小夜の怒りは、自分と真面目に相対してくれないアイリスにどんどん溜っていく。アイリスとしては、別に手加減をしているつもりは毛頭無いのだが、小夜からするとそう見えてしまうらしい。
「……いやまったく、誰に似たんだか……」
アイリスがぼそりと呟けば、
「お前、以外にいるか!!」
激しい語調で、少女は叫ぶ。アイリスははあとため息をついて、そうして小さく笑って見せた。
「……いいでしょう。私の、今の全力を受けなさい――小夜」
アイリスはそう静かに言い放つと、自分の持てる力を解放しきった。
無論既に光纏はしている。しかし今、彼女の背中には大きな翼が生え、そして口からはなにかの言葉を詠唱していた。
鬼神一閃。
いや、それはアイリスの手によって様々な改良が施され、その一言で済まされない苛烈さをもつ、文字通り魂の一撃と化すものになっている。
名をば、『Regina a moartea』、死の国の女王を意味する言葉。
大剣の刀身が鮮血色に覆われていく。空からの攻撃という特異性に、小夜も思わず呆然と彼女を見つめ、しかしすぐにはっと我に返ると、その獰猛性を露わにして笑う。
紅い包帯で包まれた右腕を構え、
「暴君の鉤爪よ――!!」
朱い光で貫かんと、手を伸ばす。
アイリスもまた、黒い奔流を少女にぶつけるため、かの名を呼ぶ。
「死国の女王――!!」
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それは一瞬のことにも、永遠のことのようにも感じられた。
ふたつの斬撃はその大きな威力を伴って放たれ、そしてそれぞれに直撃する。
しかし、実力ではアイリスの方が上。
彼女は小夜の胸に、剣を突き立て、そしてそっと微笑む。
――もとより彼女の目的は小夜を滅することではない。彼女に、己を託すつもりで居たのだ。
最早戦いと縁遠い自身、その彼女に楔をつけていたのは小夜の半ば一方的な対抗心。いや、アイリスのほうになんの感情も無かったと言えば嘘になるのだろうが――。
そして小夜も判っていた。
彼女が自分に託そうとするものの正体を。自分を信じているからこそ、彼女は小夜に己自身の全てを託送としているのだと。
(……馬鹿みたい。それでも私は……お前がそう言うのなら、仕方がないから預かってやる)
そう胸の中では思っているのだ。
アイリスは、その一撃を放つと、満足したかのようにほろほろと崩れ落ちていく。まるで、時が来たとでも言いたいかのように。
「待て……勝ち逃げ、なんて」
小夜がうめき声を上げる。刃を突き立てられた場所から血が流れることはない。
「判っているのでしょう? それなら、もういいんです」
アイリスはそう微笑んで見せた。
「……それに。貴女は私の妹なんですよ、実の。誰が、妹の幸せを願わないと思うのです?」
アイリスはそう、軽やかに言って笑う。小夜は一瞬だけぽかんとしたが、すぐにいつもの調子をとりもどして、
「誰が、妹だああああああ!!」
そう叫んだ。
(それだけ叫べるのなら充分。どうか……頑張って)
その言葉は、耳に届いただろうか。心に響いたのだろうか。
小夜は瞬きしながら、目の前の銀髪の少女が消え去るのを、呆然と眺めていた。
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……音が蘇る。
世界が鮮やかになる。
そこはいつも見慣れていた風景と何ら変わりなく。
小夜は大きく息をつくと、左手をぎゅっと握る。
――大丈夫。
かの思いは受け継いだ。
少女はそう思いながら、また一歩を歩み出す。
これからの明日に向かって。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6009/玉兎 小夜/女性/17歳/舞刀士】
【ja1078/橋場 アイリス/女性/17歳/阿修羅】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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このたびはご発注ありがとうございました。
エリュシオンとファナティックブラッドのキャラクターの対峙……
というとても珍しいシチュエーションを書かせていただき、こちらとしてもなんだか感無量です。
僅かでも携わったものに、今も思い入れがあるのはある意味当然なのかも知れませんが、とても大切なシーンと思って頑張らせて貰いました。
満足して頂ければ嬉しいのですが。
では、改めてありがとうございました。