※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
幾重
 相対する細長い男が、両手を包む革の籠手を持ち上げ、構えた。
 犯罪者組織の制圧依頼を受け、仲間と共に臨んだ骸香だったが、ここまで彼女にひとりで挑んできた者はない。しかもそろって雑魚ばかりで、これでは働いた気になれないところだった。
「いいよ。相手したげる」
 声音を投げる間に、無言の相手を探る。籠手に撃ち込まれた多数の鋼鋲、筋肉のつきかた、立ち姿のバランス、前に置いた左足と後ろに下げた右足のつま先が共に前を向いている点……すべてがこの男の有り様を現わしていた。
 この人、ガチの格闘士だ。
 骸香は格闘士ならぬ疾影士。しかし、その脚甲での蹴技で、多くの敵を地へ沈めてきた。
 ねぇ、どっちかが壊れるまで踊ろうよ――そう言いかけて、彼女は迫り上がる破壊衝動と共に飲み下す。
 今の彼女には大切な人がいる。今日はその人と約束してきたのだ。壊れない、壊さない。でも。
 任務は遂行しなくちゃいけないし、半壊しだったら大丈夫だよね?
「しぃっ!」
 噛み締めた歯の隙間から鋭い呼気を噴き、男が左拳を突き出した。振りかぶらずにまっすぐ飛んでくる拳は、見て反応するよりも早く標的へ届く。
 後ろに置いた右足へ重心を移し、下がった骸香の頬を、鋲が薄く穿っていった。
 痛っ。これならモノクルじゃなくて冑でもかぶってくるんだったな。
 男の追撃を押さえるため、前に残しておいた左脚を蹴り上げて牽制。
 が、男はその脚を上から叩いてずらし、強く踏み込んできた。
 強いのが来る!
 骸香は男を見ず、背を地へ投げ出した。仰向いた彼女の鼻先をかすめていく、男の右拳。これをもらっていたら、一発で意識を体の向こうへ吹き飛ばされていたところだ。
 男は体の動きを鈍らせたくないがため、軽装だ。だとすれば……簡単に積み上げられる。
 すぐさまヘッドスプリングで起き上がった骸香は、男の右腹へ左のつま先を突き立てた。ゆるやかに、軽く。反射的によけられない速度で。
「っ」
 息を吹いた男は一歩下がり、再び左拳で骸香を追い立てた。
 見ていては当たる。フェイントに引っかかっても当たる。だから、見ない。円を描いて下がりながら、男の出足を狙ってはその右腹をつま先で突き、また下がる。
 そして。
「ふぅっ」
 男が荒い息をつき、眉根を跳ね上げた。
 横腹がやけに痛む。それ以上に、息が苦しい。吸い込もうと焦るほど腹が引き攣れる。
 男は知らなかったのだ。
 正しく突き抜かれた打撃は、その強弱に関わらずダメージを積み上げ続けることを。
 腹――肝臓は、痛みを感じにくい臓器であり、そこに痛みを感じたときにはもう遅いのだということを。
 強く殴ればいいって思ってたんだよね? だからこんな当たり前のことも知らないんだよ。
 酸素欠乏を起こして肌を紫色に染めた男の肝臓へ、骸香は脚甲「バーブレス」をねじり込んだ。
「――!」
 意識を失うどころか声すらもあげられずに崩れ落ちた男の後頭部へ、骸香が冷たい声音を投げた。
「しばらくそこでのたうちまわってて。……もし逃げたら追っかけるよ。追いついたら、後悔だけじゃすまさないから」
 男はその後、組織の構成員どもと共に逮捕され、骸香は大切な人との約束を果たしたのだった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【骸香(ka6223) / 女性 / 21歳 / 簪美女】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 一撃ばかりが一撃ならず。千を重ねた後の千一もまた、命運を定める一撃となり得るものなれば。
  
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
骸香(ka6223)
副発注者(最大10名)
クリエイター:電気石八生
商品:おまけノベル

納品日:2017/08/16 16:57