※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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月に影、咲く
●初めまして
月影 葵は妹分のアナことHonor=Unschuldとともに、依頼にを受け、その待ち合わせ場所に向かう。
転移門を抜け、町を出て現地まで歩く。
アナは軽やかに、初めての土地で珍しい物に身が動く。葵は彼女を見失わないように注視する。
「アナ、こっちです」
分かれ道で葵は声をかけたが、アナは「うん」と言いながら道を進む。
「おっ! すごい森」
葵とアナの前にはうっそうと森らしい森がある。木々が一律あるというより、中に高低差も見て取れる。
聞いた話によると、森自体は近くの村の生活で使われているというため、よほど奥に行かない限り危険ではないという。
「ここで依頼人と待ち合わせなんだよね?」
アナは周囲をきょろきょろ見て「あ、いたいた」と駆けていく。
葵はその方向を見て一瞬眉をしかめた。
今回一緒に行動するハンターが葵と年齢が近そうな男性だった。男性が嫌いというわけではないが、男性と年上の女性には厳しい目を向けてしまう。
「初めまして」
アナは物おじせず、挨拶をする。
「ああ、初めまして……。今回は一緒する咲月 春夜で、機導師だ」
春夜は立ち上がると淡々と自己紹介をした。
「あれ、お姉ちゃんと同じ? 『月』が名前あるんだね」
アナは良いことに気づいたと笑う。
「そうなのか?」
春夜が問いかけるように葵を見た。
「ボクはHonor=Unschuld、疾影士だよ。アナと呼んでよ」
「ああ」
「私は月影 葵です。舞刀士です、よろしくお願いします」
葵は丁寧に名乗る。名乗ると春夜が「なるほど」とつぶやいた。
春夜の陰に依頼人であるルゥルがおり、フェレットを二頭小脇に抱え、おどおどしている。
「先日はご迷惑をおかけしました。今回は【スリープクラウド】実習にご協力いただき幸いです」
ルゥルから非常に硬い挨拶が来た。おどおどの理由は前回の事件のようだ。
「ううん、別に問題ないよ!」
「そうです。古い家の中にいただけですね」
アナと葵に言われ、ルゥルはほっと息を吐いた。
「それより、この動物」
アナの目が輝く。
「こっちは私のフレオです。こっちは、春夜さんの春風さんです」
ルゥルの手から逃げようとにょろにょろしているフェレットをアナは触る。
「抱っこしてもいい?」
ルゥルと春夜を交互に見るアナ。
「かまわない」
春夜の返答にアナは白くモコモコのフェレット春風を抱き上げた。
「可愛い、あったかい」
アナはフェレットを慣れた手つきで抱き、頬ずりをした。春風はおとなしくしている。
「そろそろ行きましょう? 遅くなると、実習が夜になってしまいます」
葵はアナが嬉しそうなのは良いことだと思っていたが、仕事をこなすために来たことは忘れてはいけないと促す。
「そうだな……おまえが気に入ったなら、しばらく面倒を見てくれてもいいぞ?」
アナは春夜と春風を見比べた後、「後で触らせてね」と言い、返した。
「さあ、出発!」
アナは先頭を切って歩きだした。
●森の中
アナはルゥルを伴い、前の方を歩く。
緊張していたルゥルが、元気なアナにつられ足取りが軽くなっている。
葵はその様子を見てほっとする一方、二人が好奇心に任せて動き始めると怖い気もした。声をあげて注意するほどのこともないが、用心は必要だ。
春夜が二人の周囲に目を配っているのが葵にもわかる。
そうなると葵は自然と、自分たちの後方や脇を見る。木々により光は遮られているが暗くはないが、木によって隠れる所はたくさんある状態だ。油断はできない。
幸い、気になる音もなく、気配もない。
静かに、歩む。
警戒しつつ、幼き者たちをうかがう。
春夜も語らない。
葵も語らない。
話す必要も感じないから。
歩き始めて一時間ほどたった時、アナとルゥルが走り出した。
春夜が素早く動き二人を追った。周囲の警戒がおろそかになると感じ、葵は武器を抜けるようにし、より一層警戒する。
敵がいたら走ることもないため、好奇心が刺激されたものがあったに違いない。
「待て、ここまでは村の人たちは問題ないといっていたが、この先は用心が必要だ」
春夜が告げるととアナがハッとした顔で止まる。
「あ、本当だね。森の雰囲気が変わってる……」
アナは失敗したという顔になり、ルゥルの手をしっかりと握る。
葵は警戒を少し緩め、三人の近くまで遅れて到着した。
「あっちの植物が気になっちゃったから」
アナが指さす方に低木がある。
「なるほど……。注意は必要だが、気になるなら寄ってもいい」
春夜が微笑む。
アナとルゥルの表情がぱあと明るくなった。
「うん、ちょっとだけ。ねえ、お姉ちゃん、あの木は何かわかる?」
不意に振られ葵は答えられず「分からないです」と告げる。
「行くなら、用心して近づこう」
春夜が少し身をかがめ、視線を合わせたようだ。
「そうだね。甘いにおいがするということは、ボクたちだけでなく、動物やそれを狙う大きな動物も来るかもしれないもん」
「ああ、そうだ」
アナは笑う。
「お姉ちゃん、いいよね?」
アナの楽しそうだが必死な表情に、思わず葵の頬が緩んだ。
「依頼人に聞くべきです」
「あ、そうだね。でも、ルゥルも行く気満々だったもん」
「みぎゃ」
ルゥルが照れてうつむいた。
「では行こう。用心は忘れず」
春夜が促すと、二人は元気よく返事をした。
「ボクが前、ルゥルが真ん中……お姉ちゃんの横が一番かな?」
「アナがいいというならそれがいいと思う。月影のことをよく知っているなら」
「シュンヤ、そうだよ。お姉ちゃんの横にいれば、安心なんだから」
春夜は葵と力説するアナを交互に見てうなずいた。
「では、俺は中間を行こう」
「よろしくね!」
「ああ」
葵は口を挟む暇もなかった。内容自体問題がない。
葵の横にルゥルが来て、緊張しているが楽しそうな顔で見上げてきているのに気づいた。
「護衛も兼ねているのです、任せてください。それと、ルゥルさんは魔法を使うタイミングを逃してはいけませんよ?」
「はいです! みぎゃぎゃ、お姉さん、こうするとハンターぽいです」
少しかがんだ葵にルゥルは嬉しそうに言った。
用心して低木に向かう。
低木の周囲、近くの高木の上、不審な物はないことをそれぞれ確認した。手分けは自然となされる。アナとルゥルが灌木の周りを見れば、そこから離れた前と左を春夜が、そこから離れた後ろと右を葵が見るのだった。
灌木には紫色の粒がたくさんなっている。
「ベリーだね」
アナはつまむと口に放り込む。
「酸っぱい、けど、甘い。はい、お姉ちゃんも」
アナは採ると葵の手の平に載せた。
口に頬張るとアナが言うように甘酸っぱい。咀嚼すると味と香りが広がる。
「少し休憩だ」
「シュンヤは嫌いなの? せっかくなら食べようよ?」
アナは離れたところに行こうとしている春夜に声をかけた。
春夜は立ち止まり考えた。春夜を三組の目が見つめている状態になっている。
「……せっかくだ、な」
「はい、どうぞ!」
アナが摘み取ったものを手渡した。
春夜はそれを食べ「おいしいぞ」と告げ、少し離れたところに立ち、アナとルゥルを見守っている。
葵は「先を越された」と思いもしたが、春夜とは別のところに立ち、アナたちを見守る。やるべきことは決まっているのだから、同じことを思いついて当たり前。
(なんだか、不思議な気がします)
アナがなついているが、初対面の、それも男性であれば警戒するが――徐々に気持ちは溶けてきている。
ルゥルの修業を忘却しそうなほど、のどかな風景だった。
そして、二人が紫の口になったあたりで、出発した。
●敵に遭遇
遊んでしまって半泣きのルゥルに少しアナが焦る。
「ボクのせいだね」
「違うですよ。ルゥルもおいしかったからいいのです」
焦ると判断が鈍くなる。直感で動く傾向があるアナの場合は顕著になる。
葵は声をかけるタイミングを計る。あまり厳しく言えば、彼女が余計に焦ったり意固地になったりする。
「ルゥル、美味しかったのは良かったな」
「みぎゃ」
「それに、休憩は必要だ」
春夜がしゃがんで声をかける。ルゥルの頭をぽふっと撫でている。
「それに、今日一日でやれといわれていないんだ」
「あ」
春夜の言葉にアナとルゥルが顔を見合わせる。
「俺たちが問題なければ、時間がかかってもいいんだ」
「そういうのありなの?」
アナは葵とルゥルにおっかなびっくり問う。
春夜が何を言い出すのかと身構えていた葵はキョトンとしてしまった。春夜が言うように「今日一日でやれ」とは依頼にはなかった。
葵は小さく笑う。
「お姉ちゃん!」
「あ、ごめんなさい。詭弁かもしれない、でも、いい考えだと思いました」
葵は自分自身も焦っていたと気づいた。アナが失敗した場合、妹のような彼女の存在により目が曇っていたのだ。
冷静であるつもりでも、なかなか一人だと難しいこともある。
そこを春夜は第三者という視点で補ってくれた。
「い、いいのかな?」
アナは不安になるが、春夜と葵は「いい」と言い切った。その声は重なっていた。
一番問題になるルゥルは笑っている。
「いいの?」
アナが一番驚いている状態だ。
「良くないかもしれませんが、良いかもしれません。ここに害がある何かがいるかってわからないですよ? 私の魔法が使えるか否かもありますです」
「なるほど。ずるい気もするけど」
ルゥルの解説にようやくアナはほっと息を吐き、笑顔に戻った。
「じゃ、日が陰るまで頑張ろうね」
「ですー」
アナとルゥルが気合を入れた。気を取り直して何かいるか探りながら歩く。
「ありがとうございます」
葵は春夜に素直に告げた。
「別に……礼を言われるまでもない。寄り道を許したのは俺でもあるし」
「それはそうですね。私も、『後にしなさい』とは言いませんでした」
春夜が歩きだすとき、葵と視線が合った。保護者の余裕として、互いに笑った。
しばらく行くと春夜はペットたちの様子を気にしていた。
「どうかしたのですか」
葵は春夜の横に並んだ。横に並ぶと彼の懐にいる春風がおびえているのがわかる。
「動物は敏感だ」
「そうですね」
何かしら敵がいるのだろうという推測。
「お姉ちゃん、狼がいた」
先行していたアナとルゥルは茂みに身を隠して、反対側を指している。
言われてみると狼のようではある。
「届かないです」
ルゥルが出て行こうとする。
「じゃ、ひきつければいいよね!」
「アナ」
「大丈夫! 狼だよ? ルゥル、頑張ってね!」
アナは飛び出した。
ルゥルは魔法を使うべくマテリアルを練っていく。
葵と春夜は違和感が何か気付こうとする。
それは狼であるはずなのだ。
それ以外に何かいるのか、茂みが風とは異なる揺れ方をしている。
ふと葵は、狼であるわけはない、と否定をした。
「アナッ、下がりなさい!」
「それは雑魔だ!」
ほぼ同時に葵と春夜が鋭く言った。
「それに、奥にまだ別のがいます」
葵は柄を握るとアナの横に走り寄った。
春夜が機導術を展開する。
アナは注意を促す声を聞いたときにはそれに一刀浴びせかけ、反射的に後方に下がる。
ルゥルの魔法【スリープクラウド】が目の前で生じ、春夜の機導術が敵を貫く。
葵はアナの横に立った。
「お姉ちゃん」
「行きますよ」
「うん」
アナは武器を構えると体勢を整えた。すでに敵も増えている。ゴブリンだ。
葵はちらりと後方を見る。
春夜がルゥルを守っており、何か指示を出している。
「援護は任せろ」
「お願いします」
葵は春夜に力強く応えた。
連携するハンターたち――そして、無事、実習も終了した。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka6275/月影 葵/女性/19/舞刀士(ソードダンサー)/人間(リアルブルー)
ka6274/Honor=Unschuld(アナ)/女性/12/疾影士(ストライダー)/人間(クリムゾンウェスト)
ka6377/咲月 春夜/男性/19/機導師(アルケミスト)/人間(リアルブルー)
kz0210/ルゥル/女性/10/魔術師(マギステル)/エルフ
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご指名いただきましてありがとうございました。
葵さんの心情を中心に、アナさんの愛らしさ、春夜さんのクールさが出ていれば良いのですが、いかがでしょうか。