※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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眠り姫は籠の腕の中で愛でられる
●姫抱
カルヴァドスは、決して度が弱い酒ではない。
すやすやと眠る雲雀に起きる気配がないまま、もうすぐグラディートの部屋に着きそうだ。
「雲雀ちゃん?」
まず起きないだろうとは思うけれど、念のため。耳元で囁くように名を呼んでみる。
「んぅ……」
くすぐったそうに身をよじりはするけれど、それだけ。むしろ更に身体を摺り寄せられて、くすくすと笑い声を抑えられない。
(いけない、いけない)
浅く呼吸を整えて、改めて雲雀の顔を覗き込む。
「ふふ、誘われてるのかな?」
決して不埒な意味ではない。
グラディートは小柄な雲雀の身体を器用に片手で抱き上げ直し、雲雀の頬をつつく。この為に態々片手を空けたのだ。
滑らかで、柔らかくて。いつまでも触っていたいなあなんて思えば、つい悪戯心も湧き上がる。
「ほら、雲雀ちゃん。早く起きないと……好きにしちゃうよ?」
すれ違い……いや勘違いの産物とはいえ。カルヴァドスを一息で飲んだ雲雀である。しかも普段から酒に慣れて居るわけではないことはこの様子を見ればすぐにわかるというもので。
にんまりと、どこか黒さを感じる笑顔を浮かべる。別に謀ったわけではないのだけれど、ついつい、罠にかかった哀れな小鳥を連想させて。
「僕はお酒に強いんだよ、って……先に言えばよかったかな?」
でも、それじゃあこんなに無防備な様子は見れなかったよね。だったらやっぱり、今が正解なんじゃないかな?
「ぜ~んぶ、今更なんだけどね♪」
迷うような表情も、後悔するような懺悔も、結局はただのフリで。通りすがりの誰かから見れば、グラディートは妹分を心配する優しい少年に見えただろう。
声は辛うじて雲雀が聞き取れるくらいに抑えている。でも肝心の小鳥姫は眠っているから。
「お持ち帰りだって、言ったからね?」
そろそろ、部屋が近い。
ふわふわ、空を飛んでいるような。
地に足がつかない感覚は、本来ならとても不安で、心細くなるはずのものなのに。
(ふしぎ……ですねー……?)
手が届くほど近い温もりが、伸ばさなくても包んでくれて。
柔らかくはないのにやさしくて、太くないのにがっしりと。
安心感でよいのだろうか。足りないものを満たしてくれる、そんな感覚が雲雀の警戒心を取り払っていた。
(そういえばー……今、私は何を……?)
上手く回らない頭で、今の状態を思い出そうと試みる。しっかりしなきゃと思うのに、先ほどからずっと傍に感じとれる存在が居るために、どうしても思考が蕩けて、考えるべきことを己の手から滑り落としている。
(あったかい……です)
誰かの温もりが心地よくて、より触れていたいと思うからこそ身体をよじる。
(?……誰か……?)
自分ではない存在のこと、の筈で。
(お出かけ……そう、食べ歩きを……)
誰とだったかな?
(ディと、で……)
おすすめの食べ物を渡されて、一緒に分け合ったりしながら歩いて。飲んでいるカップの中身が何か気になって、試しに飲ん……で……
(お酒! あれはお酒でしたのです!)
意識ははっきりしてきたはずで。起きなくてはと思うのに、体がうまく動かない。
(どうしてなのですー!?)
上手く力が入らない己の身体を叱咤したくても、むにゅむにゅと唇が動くばかり。もどかしさが募って、混乱し始めていた。
●交想
(おや、起きた……のかな?)
念のためにと声には出さず。グラディートはことさら慎重に雲雀を運んでいる。
今はまたお姫様抱っこに戻しているので、多少動かれても落としたりなんて、そんなことにはならないと自負があるけれど。
(落ち着いて話せるように、移動し終わっている方が良いよね♪)
揺らさないように支える腕の位置を確認して、足運びを速めていく。
けれど扉を開くような時は、自分以外が雲雀に触れないように、慎重に。
(そうだね。一日ずっとお姫様扱い、ってことにしようかな)
芋祭での様子を思い出す。隣を歩く時のそわそわと、落ち着か投げな様子とか。隠そうとしているけど見えている真っ赤な頬っぺたとか。ちいさな唇でお菓子を必死に食べるところとか。お酒を勢いよく飲み干すところは……まだ幼い外見ながら、やっぱり女の子なのだなあと感じとって。
お姫様は、全てを餌付けだと思ったみたいだけれど。
(食べさせたいと思うからやっているんだけどなあ)
懐かせたいとか、気に入られたいとか、そんな目論み以前に、ただその様子が可愛いと思うから。
眺めて、愛でて……そうして過ごすのが楽しいと思うから。
(いや、でも間違っていないのかな)
手ずから食べさせるのは、求愛行動のひとつだと聞いたことがある。
確かにグラディートは雲雀の事もそう言う目……一緒に歩いていきたい人、として見ている。
(でも、雲雀ちゃんはどうかな?)
もう一度、今日の外出を思い返す。可愛らしい反応ばかりだったが……
(餌付け、って言葉は愛玩対象にむけたものになるのかな)
ちょっと卑屈じゃないだろうか。前に仕えていた主人の幼馴染というのは雲雀にとってどういう立ち位置なのだろう。
(別に僕が主人だったわけでもないんだから、幼馴染と同じようなものだよね?)
少なくともグラディートは幼馴染と同じように接して居たつもりだ。
(ああ、でも)
同時に。意識してもらえているようにも感じとれている。今日だって、デートみたいな……むしろデートだったと思うのだけれど。
「うん、決めた♪」
目的の部屋に辿り着いたこともあり、声を控えるのもやめにする。
「雲雀ちゃん、ちゃぁんと、自覚もってもらうから……覚悟してね?」
そっと、耳元に囁いた。
声を聴くと、胸が締め付けられる。
近くに居ると、胸の中が温かくなる。
うまく聞き取れなかったけれど、今の声は、間違いなく、私の胸の内の一角を占めている人。
(そうです……起きなきゃ……)
一度は目を覚まそうとしていた雲雀だったが、初めての強い酒に、慣れない身体は中々いう事を聞かなかった。
なぜ自分が身体をうまく動かせないのか。倒れ込む直前までの全てを思い出したところで、雲雀の、状況への不安はすっかりとなくなっていた。
(ディが一緒なのです、心配することはないのです)
そう考えた途端に心地よい温もりと、それを後押しする揺れが雲雀を眠りへと誘っていたのだ。緊迫した状況から一気にあふれ出る安心感はそれだけ効果が大きかった。
「ん……」
身じろぐと同時に、小さくとも声を出せた事実に気付いて、口元が笑みを形作る。
「起きたのかな? 丁度よかった」
ぽすん
声と同時に温もりが離れて、柔らかい場所へと降ろされる。身体はまだ眠いと感じているのか、瞼がすぐに上がらない。温もりが恋しくて、再び傍にいてほしいと手を伸ばす。声が聞こえたのはこっちだろうか。
「大丈夫だよ、お姫様」
もう一度、安心させるような響きのグラディートの声。
「姫じゃ……ないのです……」
それは元主人とか、今の主人とか。そう言った存在の事を言うのだと思うから、すぐに否定する。
自分の言葉の筈なのに、少し擦れたような声に少し驚くが、お酒のせいだろうと見当をつけて。ドアの音はしないから、同じ室内にいるはずだと、言葉を続けようとする。
「私……は……」
「無理に声出さないの。雲雀ちゃん、お水持ってきたけど自分で飲める?」
声が近くなってくる。
「起き上がって……難しそうかな。少し待ってて?」
カップを置いた音に続いて、ギシリと雲雀の居場所が揺れる。
(そういえば、ここって何処でしょう)
話すと心配されるので、手を滑らせる。さらりとした……多分、シーツだ。自分が横になれる広さで、けど普段の生活で触れる、主人や自分の寝床のものとは違う手触り。
「ッ!?」
それが意味する事実に驚いて、意識がはっきりと覚醒する。目も、開いた。
「雲雀ちゃん?」
そんな様子も気にかけずに、上半身を支えて抱き起してくれるグラディート。顔を覗き込んでくるけれど、必死に視線を周囲へと巡らせる。
(やっぱり……ディの部屋、です……!?)
頬が熱いのに、まだ身体は怠くて隠せそうにない。そもそも問題の相手に支えられているわけで。ずっとこの腕に抱えられていたのだろうとか、温かかったとか、色々思い出してしまって、熱が収まる気配はない。
「カップ、持てる?」
唇に触れる硬質な感触に意識を戻すも、近過ぎる相手の存在が気になって水を飲むどころじゃない。
(近過ぎます……!)
はくはくと唇は開くけれど、それだけだ。
「……難しいか。……だったら、仕方ないよね」
にっこりと、すぐ傍で微笑み、水をあおるグラディートに見とれる雲雀。
コトリ
カップをサイドテーブルに置いた音が、妙なくらい大きく響く。
雲雀の身体を支えるために回されていたグラディートの腕が、気付けば雲雀の頭の後ろに回って……
「……んく……っ……っ!?」
●共寝
「……あれ?」
看病のつもりだったんだけどな、と思いながら、気絶してしまった雲雀の髪を解く。
(このままじゃちゃんと休めないもんね)
窮屈そうな服も緩めさせ、間に合わせにと用意した自分のシャツを着せる。
「部屋も暖めたし……僕も、もう眠いや……」
食べ歩いたのは昼頃だったけれど、2人で随分たくさん食べたから、夕食は要らないだろう。そもそも雲雀が起きそうにない。
「……身繕いは明日、起きてからでいいもんね」
自身も寝る時の軽装に変えて、雲雀の服と一緒に畳んで避けておく。
(明日は、どんな顔を見せてくれるかな?)
ベッドに入り込んで、雲雀を抱き込む。抱えて居た時にも思ったけれど、柔らかくて暖かい。すぐに、グラディートの瞼も降りていく。
「……おやすみ、僕のお姫様……」
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6433/グラディート/男/15歳/影格闘士/血は争えない】
【ka6084/雲雀/女/10歳/霊闘士/隠せぬ鼓動】