※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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蝶よ、花よ、撫でし子よ
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「……むむ?」
自室に届けられたそれを見たレム・フィバート(ka6552)は、まず初めに小首をかしげた。茶色い紙袋に包まれたそれは、ひどく、軽い。宛名はレム自身になっていたため、怪訝そうな表情のまま、レムは紙袋を丁寧に開き、中に手を差し入れた。
「……?」
触れたのは、柔らかな布地の感触。
「これ、けっこー良いもの、ですけど……っ?!」
その質の良さは、極彩色の街「ヴァリオス」出身の、生粋の同盟人であるレムにはすぐにわかる。けれど、理解が追い付けば追い付くだけ、疑問は深まるばかり。
「な、なにかなー?」
ないまぜになった期待と不安に押されるように、とぅ、と勢いよく取り出した。このあたりの割り切りの良さは、実に彼女らしくはあるが……兎角。
目に入ったのは、鮮やかな生地の色と――その、細やかな造りの見事さ。勢いに流されて、はらりはらりと、広がっていく。
「お、おお……?」
“それ”の全容が明らかになったとき、レムの表情がすさまじい勢いで巡っていく。驚愕、混乱、喜色――そして、赤面。
「ええーーーーっ!?」
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「ふぁー……」
ドレス。それは大人の証……かも、しれない。少なくとも、レムにとっては。
明朗快活を絵にかいたような生き様の少女であるからして、服装の嗜好は活動的、軽装、どこか引き締めつつも、可愛らしさは忘れない――と、そんなところだ。
「そんな! レムさんに! ……ドレスときた!」
ぐああ、と、乙女らしからぬ呻きとともに、レムはベッドの上でのた打ち回る。
もちろん、嬉しい。『まめまめしきはわろし』と老師匠も口を酸っぱくして言っていた。
実用品じゃなくても、むしろ、特別なものだかこそ、嬉しさが……いや、待って。そうじゃない。
がばっと跳ね起きたレムは、扉に掛けたそのドレスを、まじまじと眺める。
「……かわいい」
そう。かわいい。
その――とても、女の子、らしい。
「ぐっは……」
それを着ている自分を想像して、ぐさりと、レムの胸に何かが突き刺さった。
ドレスそのものは――些か照れくさいが――そんなに、問題ではない。
そう、問題なのは、その送り主だ。
「一体! なにを考えて! こんな……っ」
何せ、レムが熊を一撃死させることを目標として修業していたことを覚えている幼馴染である。
そんな彼の贈り物の意図を、探ってしまうのだ。
乙女で、あるからして。
「ぁぁー……」
唸った。真意のほどは、解らないままだ。解るはずもないのだが、気になる。考えれば考えるほどに、どんどん気になってくる。
いつもの“レム”なら、こんなこと、気にも留めなかっただろう。ささっと彼の部屋に行き、ずばっと聞きたいことを言って、ご飯でもたべたり、ボードゲームで遊んだり――そんな感じで、何気なく過ごすことができたはずだ。
でも、そうはいかなかった。
今は、独りだった。当然、あの幼馴染は手の届くところには、いなくて。
「……むぅ」
だから――少女は一人で悶絶するしか、ないのだった。
けれど。
レムは、気づいていただろうか。
独りを、寂しいと忌避するレムが――この時ばかりは、孤独を感じていなかったことを。
細やかな優しさに、確かな、温かみを、感じていたことを。
幸せな、夜が巡る。
すぐにでも、顔を合わすことになる。
いつか、彼の前に着ていけたらいいな、と。
そんなことを想いながら、なかなか、眠りは訪れなかった。
そんな夜も、この少女には、たしかに訪れ得るのだった。
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka6552 / レム・フィバート / 女性 / 17 / 乙女なるかな 】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。ムジカ・トラスです。
こちらはおまけノベルになります。初めてお預けするというのになんと剛毅な!!
と思いながら、もろもろ調べたりするうちに、これを書くしかないな、と思わざるを得ないネタにブチあたってしまい、つい、触れてしまいました。
推測特盛ですが、ご満足いただけたら、と願うばかりです……。
お二人の道行きに幸あらんことを、とお祈りしつつ、納品させていただきますね。
このたびはご発注ありがとうございました!