※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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Albireo ~アーク・フォーサイス~
露台の手摺にもたれ、アークは龍園の上に煌めく満天の星を見上げていた。
乾いて澄んだ空気のお陰で、小さな星明かりまでもくっきりと見て取れる。夜空を横切る星の河は地平線まで続いていて、まるで無数の星々が氷原の果てへ流れ落ちるよう。
(これは確かに……普段見ている夜空とは全然違うな)
アークはシャンカラの必死なプレゼンを思い出す。
どうしてもアークと一緒に星を眺めたかったらしい彼は、北方の星空がどんなに素晴らしいか熱心に語った。
そんなに説得してくれなくても、子供じゃあるまいし夜の外出くらい何でもないのに……と思ったアークだったが、観測場所に彼の自宅の露台を提案され合点がいった。夜更けにふたりきりなのはともかく、場所が初めて訪ねる彼の家となると流石に考えものだ。
けれど結局、懇願する彼に押し切られ今に至るのだった。
(気を遣ってくれては、いるんだろうな……この露台にも、家に入らず直接庭から上げてもらったし……それに、俺が嫌がる事はしないはず)
そこまで考え、ふと気付く。
(あれ? そう言えば『もう我慢しません』って言われたっけ……)
(だい、じょうぶ……だよね?)
(まさか、ね……)
ややあって、シャンカラが銀盆と毛布を手に室内から戻ってきた。
「お待たせしました」
銀盆の上ではカップがふたつ湯気を立てている。
(あれがお酒だったら……申し訳ないけれど、早めに切り上げよう)
シャンカラの事は、好きだけど。
先に進みたい気持ちも、ないわけではないけれど。
好きだからこそ大事にしたいし、してもらいたいと思う。
碧い花弁のピアスをきゅっと握って待ち受ける。
「どうぞ」
彼が差し出したカップに入っていたのは――鶏と野菜の具沢山スープだった。
ホッとすると同時に、気を揉んでいた自分が何だか可笑しくなって、懸命に笑いを噛み殺す。
「何です?」
「ううん、ありがとう。いただくね」
長椅子に並んで腰掛け、温かなスープで人心地つく。彼は持ってきた毛布でアークの身体を包んでくれた。
「きみは?」
「僕は充分着込んでますから」
「でも、」
「大丈夫です。あ、足りなければまだ毛布ありますよ?」
返事を待たず立ち上がろうとする彼の腕を、アークは思わず掴んだ。自らの咄嗟の行動に驚きつつ、
「えっと……大丈夫。でもきみが風邪引かないか、心配だから」
包まっていた毛布を半分解き、彼の肩へ掛けた。毛布の下で肩と腕とが触れ、気恥ずかしさに目を伏せる。
彼は嬉しそうに微笑み、更に閃いたように目を輝かせた。
「でも肩に掛けるだけじゃ寒いでしょう?」
言って、ぽんぽんと自分の膝を叩く。
「?」
「膝に座ってもらえたら一緒に包まれるかなと」
おいでおいで~とニコニコ膝を叩く彼から断固譲らぬ気配を察し、アークはおずおずと膝の上へお邪魔した。
体格差があるため、膝の上にいるのに顔の位置が近い。髪にかかる彼の吐息を否応なしに意識してしまう。跳ね上がる鼓動が伝わらないか気が気でない。その上、毛布を回し掛けてくれた腕でそのまま抱きすくめられ、意識が遠くなりかける。
が、
「色々と我儘を言ってすみません。どうしても一緒に見たい星があって」
彼のはにかんだ声音で引き戻された。星? と尋ねると、彼は頭上を指した。
「見えますか? 明るい星が十字に光っているのが」
「え……あれは鳥の星座だよね? 夏の星座だと思ったけど」
「ここは極北ですから、北天の星座を一年中見る事ができるんです。一緒に見たかったのは……お見せしたかったのはあの星です」
そう言って天駆ける鳥の南端、嘴の先を示す。一見ひとつの星のようだが、黄金に瞬く星と瑠璃色の星が重なり合う美しい二重星だ。
「元々好きな星でしたが、アークさんとお付き合いするようになってから一層好きになって」
「どうして?」
振り向き尋ねると、彼の碧い目と間近で視線が交わる。彼はアークの瞳に見入りながら続けた。
「僕、アークさんの瞳がとても好きで。こんなに暗い中でも、凛と金色に煌めいて……で、僕の目は青いでしょう? だから同じ色の星が寄り添っているのを見ていると、何だか幸せな気持ちになれるんです。アークさんに逢いたい時、あの星を見て慰められたり……」
可笑しいですか? と尋ねる彼に、アークは首を横に振った。
「そんな事……結構ロマンチストなんだなとは思ったけれど」
「うっ」
「でも……逢えない時も、俺の事を思い出してくれてるっていうのは……嬉しい」
恥ずかしさを堪えて精一杯答えると、照れ隠しなのか彼が肩へ額を擦りつけてきた。
「くすぐったいよ」
「僕はいつだって、あの鳥みたいに南へ飛んでいきたいと思ってますからっ」
「ふふ、そしたら隊の皆が困ってしまうよ?」
「……はぁ。早くアークさんをお嫁に貰ってしまいたい」
「!?」
慌てふためくアークをよそに、星々は滞りなく巡り続ける。南をさして翔ぶ北天の鳥星が、まだ初々しさの抜けないふたりを静かに見下ろしていた。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6568/アーク・フォーサイス/男性/17歳/決意は刃と共に】
ゲストNPC
【kz0226/シャンカラ/男性/25歳/龍騎士隊隊長】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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アークさんが龍園で過ごす冬の夜のお話、お届けします。
お届けまでにお時間頂き、大変申し訳ございませんでした。
おまかせの機会を頂けましたので、今回はシャンカラの我儘にお付き合い頂いてしまいました。
土地柄、北天の星なら年中見られるでしょうから、毎日見上げて溜息ついてると思います……はい。
イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。
この度はご用命下さりありがとうございました。