※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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【1018年6月×日】~龍騎士リブの手記より~
詰所の入口から、来客を告げる声があがりました。お出迎えに出ると、アーク・フォーサイス(ka6568)さんとレム・フィバート(ka6552)さんが、何だかやたら大きな鞄を引いていらっしゃいました。
「リブちゃんだーやっほー☆」
両手を掲げてくれたキャスケット姐さ……レムさんとハイタッチ。新米の私達にも気さくに声をかけてくださる、まあるい帽子がお似合いの素敵なお姉さんです。
片や、アークさんは落ち着かない様子で詰所内を見回してらして。
「隊長ですか? お話は伺ってます、執務室へご案内しますね」
何の気なく口にすると、何故かアークさんはぴくっと肩を跳ねさせて、ちょっぴり目許を赤くして。
「宜しく、ね」
……私、何かヘンな事言っちゃったでしょうか?
おふたりをご案内し、執務室の扉を開けると、
「おふたりともようこそ」
直前まで石板の山と格闘していたはずの隊長は、疲れを微塵も見せずに……というより本当に疲れが吹き飛んでしまったみたいに、笑顔でおふたりを迎えました。
「お久しぶりですなっ☆」
「レムさん、もみの木調達の時は本当にお世話になりまして」
「いあいあーっ」
レムさんは謙遜されましたが、とっても頼もしかったのは本当です。
アークさんは隊長と目が合うと一瞬逸らし、また視線を合わせてから、
「今日は時間を作ってくれてありがとう」
「いえ、僕もお会いできて嬉しいです」
お互い照れたように微笑んで。
……って、おふたりの間に漂うこのほんわか甘い空気は一体!?
ふとレムさんを見ると、にやにやしておふたりを眺めてらっしゃいました。私の視線に気付くと、『何かありそうですなっ』と言いたげに深く深くこくり。私も力一杯頷き返しました。
一旦退出し、淹れたお茶を持って戻ると、3人はソファで談笑中でした。
「西方では今梅雨といって、雨が多くてじめじめした日が続いているんだよ」
「北方はカラッとしてて涼しーし、納涼イベントとかしたら喜ばれるかもっ?」
「梅雨ですか……イベント良さそうですね」
そう話す隊長のお顔にびっくり。隊長はいつもににこにこしているんですが、それとは違うと言うか。『隊長』として私達の前にいる時には見せない類の笑みで。
長居してもいけませんから、お茶を出して退出しようとしたのですが。
「ええと、あとはジューンブライド……とか」
「?」
隊長が「リブは知ってる?」と話を振ってきたので、思わず足を止めました。レムさんがピッと人差し指を立てて説明してくれます。
「6月に結婚した夫婦は幸せになれるーっていう謂れがあってですなっ。6月には街のあちこちで挙式があって、花綺麗だし大盛り上がりでワイワイしてて、華やか月間なのですっ」
「その感じだと、龍園にはジューンブライドの文化ってないのかな?」
アークさんが隊長に尋ねます。が、恋愛に疎い隊長に聞いてもダメですアークさん。案の定隊長が助けを求める視線を投げてきました。ので、
「聞いたことないですねぇ」
代わりにお答えすると、レムさんが目を輝かせて例の大きな鞄を叩きました。
「そーゆーこともあろーかとーっ! 折角6月なので、何着か借りてきましたぞっ☆」
「何をです?」
首を捻る隊長。アークさんは立ち上がり、鞄の鍵を外します。
「龍園の結婚衣装は、きっと伝統的なのがあるんじゃないかと思うんだけど……西方では、花婿はこういうのがスタンダードで」
取り出したのは、白や黒の見るからに上等なタキシードでした。アークさんは取り出したそれで半分顔を隠し、隊長を見上げます。
「シャンカラってタキシードとか、そういった格好も似合うんだろうなって……着て見せてくれたりする? なんて……」
「っ!」
隊長、何も言わずに両手で顔を覆うと、こくこく頷きました。……分かります隊長。上目遣いにそんなお願いされたら断れませんよね。ね?
更に鞄から出てきたのは、夢みたいに綺麗なドレスやヴェール! 龍園の婚礼衣装とは違うけれど、どれもひと目で憧れてしまうくらい素敵なものばかり。何でも、タキシードをレンタルした際、ペアでドレスも貸し付けられたんだとか。
アークさんは隊長に似合いそうな一着を吟味しつつ、ドレスを見て言いました。
「………ドレスはレムが着るといいんじゃないかな」
「へあっ!?」
レムさんは一気に耳まで真っ赤にして固まりました。なんてお可愛らしい……私も思わず猛プッシュ。
「これ、ひとりで着るの大変ですよね? お手伝いします!」
「リブちゃあぁん!?」
「レムに似合うと思うよ? ちゃんとして、黙っていれば可愛いんだし」
レムさんいよいよ首まで真っ赤っ赤。
「えっ、あっ、そ、そーかなぁっ!? レムさん似合っちゃうかな~まいったなぁー! ……ってちょっと待って? 『黙っていれば』って言った今? 『ちゃんとして』ってどゆこと!?」
「え?」
アークさんは目をぱちくり。……悪気も他意もなかったようです。アークさん、案外天然さんなのでしょうか。すかさず隊長が助け舟を出しました。
「僕もレムさんのドレス姿、見てみたいです」
「私もー!」
「は、はわ、わわわっ」
隊長と一緒になってゴリ押しし続けると、レムさんはアークさんの腕をがしっと掴みました。
「そ、それならアーくんも着よっ!? レムさんひとりじゃ転びませんぞっ!」
「転ぶって。俺は……別に着なくてもいいかなって。見てる方が楽しいし」
「言い出しっぺの法則って言うでしょーっ!?」
レムさんがタキシードを押し付けた時です。隊長は不思議そうにドレスの一着を手に取りました。
「アークさんはこちらでは?」
「え?」
きょとんとするレムさんと私。隊長もまたきょとんとアークさんを見て……
「だってアークさん、僕の所へ"お嫁に来て"くれるんですよね?」
さらりと発せられた爆弾発言。
突然の告白に硬直する私に対し、レムさんは形容しがたい声を上げました。
「アーくんがお婿に……いあ、お嫁に行く!?」
真っ赤にした顔を覆ったアークさんへ、動揺しきりで詰め寄るレムさん。隊長が慌ててフォローに入ります。
「あくまで『お互いに傷痕などが残って、お嫁さんの来手がなかったら』の話なんですけどね」
「そ、そう。確定事項ではない、というか……」
アークさんも口籠りながら言い添えました。俯きがちなアークさんに、レムさんはハッとして手を振り回します。
「い、いあいあ! 良いことですよっ! ちょーっと時々ボヤっとするとことかレムさん的には心配ですがっ~!?」
「ボヤっとなんてそんなにしてないし。……多分。むしろシャンカラの方が、詐欺とかに引っかからないか心配だよ」
「どっちもどっちという気がしますがーっ。ともかく! そこに愛があれば良いのではないでしょーかって、おかーさんも言ってた! うんうん、レムさんはアーくんを応援するのです! うんっ! 幼馴染と一緒にウェディングドレスっていうのもオツじゃーないでしょーかっ」
そんな強引な流れで、アークさんもドレスを着ることに。お召し替えのため、私はもうウキウキでレムさんを空き部屋に案内しました。扉の前で振り返ると――レムさんは、心なしか淋しげな顔をされていて。私の視線に気付くと、
「ではではー、お手伝いお願いしますぞっ☆」
いつものように元気に笑って言いました。……気のせいだったんでしょうか。
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そうして数十分後。お支度を終えたレムさんと再び執務室の前へ。ノックをして確かめてから、
「レムさん入場でーす!」
勢いよく扉を開けました。パンプスに慣れていないのか、初々しい足取りでレムさんが部屋に入ると、男性陣から歓声が上がりました。着付けと髪のセットをさせてもらった私も、ちょっと得意になって後に続きます。
部屋の中はもう――目の保養パラダイスでした。
「レム、素敵だよ」
「何てお可愛らしい」
おふたりが手放しで褒めるレムさんは、ふんわりとボリューミーな裾の純白ドレス。編み込みに纏めた頭には、レムさんの瞳の色と同じ青玉を散りばめたティアラを。肘まで下がったヴェールが動く度揺れて、可愛らしくも優雅な花嫁さんといった雰囲気で。
「流石のレムさんですからなっ。……へ、ヘンじゃないかなっ? かなっ?」
おふたりには胸を張って見せ、振り返ってこっそり私に確認してくるところなんて、もういじらしくて可愛らしくて。
「アーくんこそっ、レムさんより似合ってるんじゃないでしょーかっ。ね、シャンカラさん!?」
レムさんに言われて自分の姿を思い出し、真っ赤になったアークさんは、華奢な身体のラインが引き立つ細身仕立てのドレス。胸元と髪には真珠をあしらった清楚な花飾りが。けれど左手には、金色の鍔が眩しい太刀「菊理媛」がしっかりと。愛刀を携え、言い知れぬ覚悟を秘めて嫁いで来られたお嫁様という風情で……私女性ですけど、勝てる気が微塵もしません。
アークさんはレムさんに歩み寄ろうとしましたが、長い裾に足を取られ上手く歩けないようでした。そこへ隊長がすっと手を差し出します。そんな隊長は、アークさんが選んだタキシード。光の加減で淡いブルーグレーの陰影が浮かび、総髪にセットした髪と相まってとても大人びた印象です。
そんなふたりが手に手を取って歩く様は、眼福以外の何ものでもなく……!
と、レムさんがほんの一瞬、口を引き結んだように見えました。……ずっと一緒に過ごしてきた幼馴染が嫁ぐというのは寂しいものなのでしょうか。けれどやっぱり気のせいだったのか、レムさんはアークさんが手の届く所まで来ると、手を取ってぶんぶん振りました。
「キレー! アーくんと一緒にウエディングドレスを着る日が来るなんて、思ってもみませんでしたぞっ☆」
「それは俺もだよ……」
それから隊長の側に回って、タキシードの背をばしばし。
「シャンカラさんもカッコイイですぞっ☆ レムさんの大事な幼馴染を泣かせたら、まっすぐいってーどっかーん! しますからなっ?」
「肝に命じま……ん? いえ、今すぐ結婚する訳では」
こうして見ると、可愛らしい花嫁さん然としたレムさんと隊長もまた、年の差カップルな感じで素敵です。
そこでふと、アークさんを見ますと。何だか複雑そうにふたりを見てらして。
……アークさんもレムさんがお嫁に行くことを想像して、寂しくなっちゃったのでしょうか。それとも、仮にも結婚の約束をした隊長が、レムさんを褒めそやしていることにモヤモヤしたのでしょうか。あるいは……?
「……――」
物思いに耽っていると、隊長が話の合間合間にじっとおふたりを眺めているのに気が付きました。見惚れているのもあるのでしょうが、その碧い目は静かに凪いでいて。
魔導スマホで写真を撮ったり、西方の挙式の事などで一頻り盛り上がったあと、隊長はおもむろにアークさんへ手を伸べました。
「そろそろお色直しに行きましょうか」
「え?」
「アーくんお召し替えですかなっ? あっちの薄紫のドレスも似合いそうですぞっ」
別のドレスを薦めるレムさんに悪戯っぽく笑って見せた隊長は、驚くアークさんをエスコートして部屋を出ていきました。
しばらくして戻ってきたアークさんは――綺麗な花嫁さんから、凛々しい花婿さんになっていました。
「アーくんっ、その服ー!?」
私にとっては馴染みのある、龍騎士隊の男性用礼服です。
「その、シャンカラが……」
恥ずかしそうに口籠るアークさん。隊長はセットした髪をくしゃりと解きながら、片目を瞑って言いました。
「婚礼衣装ではないですが、隊の礼服で挙式に臨む龍騎士もいますので……さあ、」
そうしてアークさんをレムさんの隣へ押しやりました。さながら、西方の花嫁と北方の花婿。西北それぞれの衣装を纏って並び立つおふたりは、違和感がないどころかとてもとても綺麗で。肩を並べ、お互いにもじもじされる愛らしいお二人を見て、隊長は満足そうに笑いました。
「おふたり、本当によくお似合いです」
そうしてまた沢山写真を撮って。夢のような時間は瞬く間に過ぎて行きました。
衣装を元通り鞄に収めた頃には、夕方になっていました。隊長と一緒に詰所の入口までお見送りに出ます。
まだちょっぴり赤い顔をして、どこかほわほわした足取りのおふたりは、来た時と同じように並んで帰って行きました。
おふたりを見送る隊長は、私達が知る『隊長』の笑顔に戻っていて。少し淋しげに見えましたが、気付かぬふりをしました。
冷たくなってきた風に首を縮めて、詰所の中へ戻ったのでした。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6568/アーク・フォーサイス/男性/17歳/誰が為に花は咲く】
【ka6552/レム・フィバート/女性/17歳/キャスケット姐さん】
ゲストNPC
【kz0226/シャンカラ/男性/25歳/龍騎士隊隊長】
【リブ/女性/少女龍騎士】】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お届けまでにお時間いただいてしまい申し訳ありません。
アークさんとレムさん、幼馴染のおふたりのジューンブライドノベルをお届けします。
ほのぼの甘々かと思いきやもだもだな三角関係……なのでしょうか!?
アークさん、レムさん、そしてシャンカラと、三者三様の思いを書かせていただくに当たり、
第三者目線の方が良いのかなと思い、急遽リブを語り部に据えさせていただきました。
イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。
この度はご用命下さりありがとうございました!
副発注者(最大10名)
- レム・フィバート(ka6552)