※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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音色に寄せて
日差しの柔らかな午后。
四方に枝を茂らせた大樹の木陰に身を寄せたレナード=クーク(ka6613)は、抱えたリュートを爪弾いていた。
奏でるは、先日初めて耳にした北方の曲。
記憶の中の旋律を辿りながら、一音一音丁寧に。
白い指が軽やかに弦の上を舞えば、木漏れ日がリュートの面にちらちら踊る。
「何度弾いても不思議な曲やねぇ……」
己が親しんできた楽曲とはまるで異なる音の繋がりは、幾度奏でても新鮮さを損なわない。
けれどふと思う。
故郷を飛び出してきた時にも同じようなことを感じたことがあったな、と。
森深くにある閉鎖的な故郷で聞いていた音楽と、王国で好まれる音楽はまた違う。
知らない楽器、知らない音階、知らない歌――音楽に限ったことではないが、初めて見るもの、耳にするもの、その全てが眩く感じられたものだった。
だった、と過去形にするのは誤りかもしれない。
ハンターとして飛び回る世界は想像していたよりも余程広大で、日々新しい出会いや発見に満ちている。
故郷に籠ったままだったら、こんな毎日は送れなかったろう。
ふと樹上を仰ぐと、巣から飛び立とうとしている雛がいた。親鳥は少し先の枝で、励ますように、誘うように囀っている。
けれども雛は怯えた様子で巣の中をうろうろ。
それが過去の己に重なる。
雛が俺だとすれば、あの親鳥は――
そんなことを思いながら、レナードは心の中で頑張れと唱えながら見守った。それから思い立ち、旅立ちの曲を奏でてみる。溢れる希望と少しの恐れ、それらを全て肯定し包むような華やかな旋律。
――と。雛は高く一鳴きすると、未熟な羽根を羽ばたかせ飛び出した。
頼りない羽ばたきながらも、懸命に羽根を動かして、親鳥と同じ枝へ。見守っていた親鳥は寿ぐかのように一層可憐に囀った。
「あの人も……今の俺を見たら、喜んでくれるかな」
ぽつり、レナードの唇から呟きが漏れる。
己に外の世界を教えてくれた人。
檻から飛び立つ勇気をくれた人。
どこに居るかは、分からないけれど。
けれど、今もきっとこの空の下を駆けまわっているのだろう。
「いつか会えたら……色んな曲、聞かせてあげたいな」
外の世界で知った様々なことを、今度は自分が聞かせてあげたい。
目を閉じれば、昨日会ったばかりのように、くっきりと彼の姿が蘇る。
瞼の裏の彼に聞かせるように、語り掛けるように、レナードは再び弦を爪弾き始めた。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6613/レナード=クーク/男性/17/魔術師(マギステル)】