※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
-
127759d ~レナード=クーク~
「ダルマさぁ~ん……」
「どしたァ?」
レナードの情けない声に振り返る。
木箱に座るレナードの手には飛龍用の大きな爪やすり。傍らに飛龍。レナードだけじゃなく飛龍までもが困り顔で俺を見ていた。
『飛龍のお手入れの仕方、教えてもらえんやろか?』
そう言ってレナードはふらりと訪ねて来た。
そこで一緒に龍舎で飛龍の世話してたものの、レナードはもう何度も飛龍と触れ合ってるし、身体の拭き方も心得てるモンだから安心しきっていたんだが。初めての爪研ぎが難関だったらしい。
「手本見せたろォ?」
「思うようにやすりを動かせんくてー」
レナードは俺がやっていたのを真似てやすりを動かす。だが重さに振られてまともに削れない。
飛龍は手前の爪がボロボロにされる事よか、レナードが怪我しちまわないかと気を揉んでいるらしかった。『早くこの子を止めてやって』とばかりに俺の方をチラチラ見てくる。
「楽器はあんなに器用に弾くのに、案外不器用なトコもあんだなァ?」
「ううっ。この爪やすり結構重いんやもん」
気恥ずかしそうに唇を尖らせた顔は、まるでガキんちょみてぇで。思わず吹き出してから、身体に腕を回しひょいっと持ち上げた。
「わわっ、急に何やの!?」
「一緒にやった方が分かりやすいかと思ってよォ」
レナードが座っていた木箱に腰を下ろし、代わりにレナードを膝の上へ座らせる。タッパがある割にやたら軽い。
飛龍に指示して前脚を膝へ置かせ、やすりを持つ手を上から握り込むようにして研ぎにかかる。爪の付け根から先へ、曲線に沿うように滑らせていく。
「肩の力抜け、無理に削ろうとしねェでいい」
「なるほどー……やすりの重さに任せて当てる感じでええんやね?」
様々な楽器を弾きこなすだけあって、勘の良い指はすぐにコツを掴み始める。手を添えなくても研げるようになると、あっという間に両前脚の手入れを終えた。
レナードは達成感に顔を輝かせて笑う。
「ありがとうやでーダルマさん、これでいつでもワイバーンをお迎えできる気がするでー!」
「バッチリだ! レナードのトコに行く飛龍は幸せモンだぜェ」
「せやったら、ええなぁ……」
糸目を更に細めて、レナードは楽しげにゆらゆら足を揺らした。……俺の膝の上に座ったまま。もう下りていいと言うと、照れ笑いして立ち上がる。
「えへへー。最初はびっくりしたけど、ダルマさんお父さんみたいやから、何か落ち着いてしもて」
「こんなでっけェ子供がいる歳じゃねぇぞ!?」
「でも見た目で言うたら……あっ、その、ふ、雰囲気が!」
「見た目ェ?」
そんなワケ――コイツは見た目10代後半、俺は誠に遺憾だが30代半ば――……あるな。
打ちひしがれていると、ふと以前レナードが言った言葉が頭を過った。
『僕の方がお兄さんやのに』
あれは確か、見た目ではレナードと同じ年頃の"人間"の友人と、見た目は20代半ばだが実際10代なうちの隊長といた時だ。
寿命が50年前後な俺ら"ドラグーン"は、10代で身体が他種族の成人程まで成長し、その後老いる事はない。
けれど400年と長寿な"エルフ"は、外見の歳の重ね方は様々なようだ。
なら、コイツは?
『僕の方がお兄さん』の括りの中に、俺は入っちゃいないと思うが……いやでも、種族を考えると入っててもおかしくねェわけで。
分かるのは、エルフは齢100を越えると森から出て来辛くなるようだから、それよりは下だろう事。
つまり、レナードは少なくともあと――
「……ダルマさん?」
呼ばれて我に返る。レナードの目がうっすら開き、心配そうにこっちを見ていた。
僅かに覗く灰色の瞳。
いつもニコニコ隠されているこの瞳で、どれだけの月日を見てきたんだろう。
これから先、少なくともあと300年、一体何を見ていくだろう。
互いに天寿を全うするとして、この瞳が目にする内350年もの歳月は、俺には知りえねェものだ。
「いや、レナードと飛龍は良い相棒になるだろうと思ってなァ」
「そ、そやろか?」
「そうとも」
手を伸ばし飛龍の首を撫でた。
龍騎士隊の飛龍は、一生の内に幾人もの龍騎士を背に乗せる。飛龍はドラグーンに比べ何倍も長寿で、どうしたって乗り手が先に逝くからだ。
相棒を得て見送って、また新たな相棒を得ては見送ってを繰り返す。この飛龍の相棒は今の乗り手で5人目だと聞く。
レナードもその寿命から"見送る側"になるんだろう。人懐こいコイツにとって、それがどれだけしんどい事か想像に難くない。せめて隣で共に見送れる者があれば……
「ダールマさーん? お腹でも減ったん?」
「お。詰所に戻って茶ァでも飲むか!」
「賛成やー♪」
レナードは外套の前を掻き合わすなり外へ飛び出す。慌てて追いかけ隣に並ぶと、レナードは無邪気に頬を緩めた。
俺が隣にいられるのはあとどれ位か分からないが――その灰色の目に映る世界が少しでも優しいものであるようにと、密かに願った。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ka6613/レナード=クーク/男性/17歳/灰瞳に映る神秘】
ゲストNPC
【kz0251/ダルマ/男性/36歳/年長龍騎士】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お世話になっております、レナードさんのお話お届けします。
今回は仲良くしていただいているダルマ視点で書かせていただきました。
思えば、生身では最長寿の種族(レナードさん)と、最も短命種(ダルマ)のふたりなので、
たまにはオッサンも真面目にこういう事考えたりするんじゃなかろうかと。
イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。
この度はご用命下さりありがとうございました!