※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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はっぴーすいーとでー?
昼下がりのリゼリオ。多くのハンターが集う地区なので治安がよく、商店街を行き交う人々は寛いだ様子で買い物を楽しんでいる。
だがそのことよりも何よりも、人々を浮き立たせる原因は他にあった。
「バレンタイン&ホワイトデーの今だけ! 今だけの限定スイーツはいかがですかー!」
「今ならラッピング無料でーす! 贈り物に是非!」
そう。
バレンタインからホワイトデーまで続く、甘いお菓子と恋のイベントの真っ最中なのだ。商店はどこも赤やピンクを基調とした飾り付けをし、通りには甘いカカオの香りが立ち込め、雰囲気を盛り上げている。
そんな平和を絵に描いたような街角にて。
小洒落たパラソルを広げたテラス席に座る氷雨 柊羽(ka6767)は、半ば呆れ顔で向かいの連れを見やった。何か言いかけて止め、ぬるまったカフェモカを啜る。ほろ苦く甘いそれで喉を湿してから、改めて口を開く。
「……玲さん。まだ食べるの?」
「え?」
たいらげた皿を端に寄せ、いそいそと席を立とうとしていた香藤 玲(kz0220)は、きょとんと目を丸くした。
「まだ3皿しか食べてないよ?」
「まだ3皿って……」
柊羽は自らの食べかけの皿を見る。ビュッフェで好きなスイーツを選び取るスタイルのこの店の皿は、一皿が大きい上にパーテーションで仕切られていて、幾つもの品を同時に盛り付ける事ができる。つまり、一皿で結構な量と種類のスイーツが味わえるのだ。
この店、通称すいぱらこと『すい~つすい~つ★ぱらいぞ』は、蒼界から転移してきたパティシエールが営んでいるという事もあり、並べられた品々は蒼界に由来するものが多い。そこで、柊羽は玲にオススメを見繕ってもらったのだが、見事に2皿てんこ盛りにされてしまった。それを少しずつ消化している間に、玲は同じ量をあっという間にたいらげておかわりまで完食し、更に新たなスイーツ求め席を立とうというのである。
「結構量あると思うんだけど。おなか平気?」
気遣わしげに柊羽が尋ねると、
「余裕だよ? おねえさんは……あれ、あんま進んでない? 口に合わなかった?」
玲はおろおろと上目遣いに見やってくる。そんなものだから、気遣い屋の柊羽はうっすら笑みを浮かべ、急いで首を横に振った。
「ううん、選んでくれたものはどれもとても美味しいよ。リアルブルーのお菓子は、見た目も凝ってて可愛らしいのが多いんだね」
「でしょー!? 待ってて、柊羽おねえさんの分も持ってくるからっ」
「え、待っ……」
柊羽が引き留める間もなく、玲は笑顔で店内へすっ飛んでいく。玲が素早かったのもあるが、あんまり嬉しそうな顔に水を差すような事は言えなくて。甘い物は嫌いじゃないが、適量というものがある。
(それでも、残してしまったらきっと――マナー違反なのは勿論あるとして――この店へ誘ってくれた玲さん、悲しむだろうな)
柊羽はカフェモカの残りを一息に嚥下し、静かに気合いを入れる。まだ目の前にあるスイーツと、これから運ばれてくるだろう新たなスイーツを、残らず胃に納める為に。
一見クールに見える柊羽だが、実に面倒見の良いタチなのだ。
そうして、やたらと甘いエクレアを頑張って頬張っていると、何やら玲がぷりぷりしながら戻ってきた。その手には、紅茶を入れたカップがふたつあるきり。
「どうしたの?」
「もー聞いて! シューロール取りに行ったら、目の前で最後のふたつ、カップルに取られちゃってー。で、今度はティラミス取りに行ったら、これもまたカップルが残りを全部取っちゃってー。んもーどこ見てもカップル! カップル!」
喚きながら差し出されたカップを受け取り、柊羽も改めて周りの席を見回した。普段なら女性客が多そうだが、今日は恋人達の姿が目立つ。
「まあ、時期が時期だからね」
「リア充なんて全員爆散すればいいのに!」
「そんな不穏な事大声で言っちゃダメだよ。ほら」
言って、柊羽はマカロンを玲の口に押し込む。途端、玲の頬がふにゃっと緩んだ。
「おいひぃ♪」
「良かった」
頷きつつ、内心スイーツが増えなかった事に安堵している柊羽なのだった。
ところがマカロンを飲み下すと、玲が何かを思いついた顔をした。まさか別のスイーツのアテを思いついたのかと、恐る恐る尋ねてみる。
「どうかしたの?」
「えっと、さ」
玲はもじもじと、けれど嬉しそうな顔をして、小声でぼそぼそと言う。
「もしかしたら、僕達もカップルに見えてたりするのかなー、なんて」
「それはないんじゃない?」
が、柊羽は真顔で即否定。
「何で? 僕がガキんちょすぎるから!?」
柊羽は涙目になった玲の口へすかさずロッシェを押し込み宥め、
「違うよ。ほら僕、男性に見られがちだから」
友達にも勘違いされていた位だし、と苦笑いで付け加える。
スレンダーな身体付きに、すんなりとよく伸びた手足。切れ上がった目許は涼しげで、琥珀色の瞳は見た目の年齢よりも落ち着いた印象を与える。すっと通った鼻筋に、形の良い唇。そこから続くほっそりとしたおとがいと、白い首筋――『中性的なエルフの美少年』。そう形容するとしっくり来るのが柊羽の見目なのだった。
「うー、僕も初めて会った時は勘違いしちゃったけどさぁ」
申し訳なさ気に頭を掻いた玲だったが、「でも!」と勢い込んで身を乗り出す。
「男装の麗人ってヤツだよ、イケメンにも見える美女とか二度美味しいじゃない?」
「二度って」
「僕よりチョコ貰ってそうではあるけど、」
「確かに、あげるより貰う方が多いかな」
「やっぱりー! ……ってそうじゃなくて、ともかくそれだけ顔が整ってる美人さんって事だよ! あ、試しに髪下ろしてみたらどうかな?」
「髪を?」
柊羽はサイドテールに結った髪をつまんだ。それしきの事で何がどうなるものでもないと柊羽は思うのだが、玲はわくわくと身を乗り出しっぱなしだ。小さく息をつき、髪留めに手をかける。
解いた途端、細く透明感のある髪が、はらりと肩に流れて落ちた。清楚な銀の光と、シャンプーの柔らかな香りが辺りに舞い、周囲の客が振り返る。頬に触れた髪がくすぐったくて、柊羽は何の気なしにかき上げた。その仕草がとても様になっているとは知らずに。
「ほら、何も変わらな……」
言いかけて、じっと見ている玲の頬が赤くなっていく事に気付く。ついでに、周りの客の目がこちらに向いているのにも。
何だか居心地が悪くなり、柊羽は急いで髪を束ね直した。
「結んじゃうの!? 下ろしてるのもすごく似合ってるのに!」
「……慣れない事は、その……気恥ずかしくて」
俯きぽそりと呟く柊羽の姿に、玲の頬がますます赤くなっていく。
「良いじゃーん! ねーもっかい下ろしてみてよー」
「ダメ」
「ちぇー。でもおねえさんのお陰で、今の僕は完全なる勝ち組!」
「ちょっと意味が分からないんだけど……」
困惑する柊羽を他所に、玲は上機嫌で紅茶を啜る。
「いーのいーの! あ、この後どこ行く? 近くに美味しいクレープのワゴンがあるんだって!」
「えっと……僕はそろそろおなかが、」
「そう? じゃあ近くの公園で日向ぼっこでもする?」
「それはいいね」
「じゃあクレープをテイクアウトしてこ!」
「それはちょっと」
銀髪の美少年めくエルフの美少女と、蒼界出の黒髪の少年。一見不思議な組み合わせのふたりは、その後も始終賑やかに、午后の一時を満喫するのだった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6767/氷雨 柊羽/女性/17歳/白銀のスナイパー】
ゲストNPC
【kz0220/香藤 玲/男性/14歳/甘味中毒駄ハンター】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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大変お待たせしてしまいました。柊羽さんが甘い物責めになってしまったお話、お届けします。
おまかせでという事でしたので、遠慮なくあれこれ詰めさせていただきました。すみません!
きっと、柊羽さんは玲と一緒だと、面倒見つつ振り回されたりするのかなぁ、などと考えていたらこうなりました。
髪を下ろすのも、きっとお似合いだと思うのです。
イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。
この度はご用命下さりありがとうございました!