※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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似ている君達は
「昼から一緒に出かけよう」
早朝にちょっとした仕事をこなし、部屋で一息ついてからそう言ってきたのは貴月黒斗の方だった。
星宮 瞬兵は驚いたように少し目を丸くして黒斗をまじまじと見ていると、黒斗は少しくらい顔をする。
「……都合悪いかな」
「え、あ、いや、そうじゃなくて……」
(偶然、なのかな)
今日のための準備というか、買い物をつい昨日に終わらせたばかりで、あとはいつどのタイミングで誘おうかとこっそり悩んでいたところだった。
渡りに船と言うより他にない。
ただそんな風に悩んでいたなんて黒斗が知るはずもなく、首を傾げるばかりだった。
「どうかしたのかな。ダメならダメで、しかたないよね……」
「んーん、ぜんぜんダメじゃないよ。ただちょっと驚いただけ。俺も誘おうと思ってたところなんだもん」
「……そっか」
(あ、ほっとしてる)
表情の変化は乏しいほどでもないが、それでもあまり大げさな変化を黒斗の方は見せないので、わかりにくいと感じる人もいるかもしれないが、それでも瞬兵には黒斗の感情が考えるまでもなく、自然にすっと入ってくる。この1年近く、ずっと見てきたのだから。
ずっと見ていたからこそわかってしまうのだが、黒斗が他に何か言いたい事があるというのにも気づいてしまった。気づいてしまったが、何を言いたいのかまではさすがに分からない――いや、何を言おうとしているかの候補がありすぎると言うべきか。
出かけるなら昼食はどうするかとか、行きたいところがあるとか、いつくらいまで一緒にいられるかとか様々な候補があって、どれを言いたいのか、はたまたその全てを言いたいのか、そういう判別をするのはさすがに無理があった。
(えい、聞いちゃえ)
「お昼ご飯はどうする? それとも、どこか先に行きたいところがあるのかな。夜も予定ないし時間はたくさんあるから、先でも後でもいいよ」
「ああ、えっと……昼は少し後回しになる、かな。今日の昼から噴水開きがあって、それを瞬と一緒に見ておきたいなと――その後の予定は考えていないんだけど……」
瞬兵にチラリと目を向けるが、その目に意地の悪いものを感じ取った瞬兵が身構える。
「今日は朝まで一緒にいたい」
「えぅ……」
それは瞬兵も同じ気持ちなのだが、そこまでストレートに言われると恥ずかしいというか、照れてしまう。そしてそう言えば瞬兵が照れるのを承知で黒斗は言ってくるのだから、瞬兵としては反応に困ってしまうばかりである。
そうやって困っている瞬兵を楽しんでいるかのように、黒斗は口元に小さく笑みを浮かべていた。
「黒の意地悪……!」
「ごめん、瞬の反応が可愛くて」
さらに畳みかけられ、「うぐぅ……」と声にならない声を漏らしてしまう瞬兵。意地悪されても気持ちが全く揺らいだりしないのが、ちょっと悔しい。
(だってもう、1年の想いだから)
1年前と変わらぬ――いや、それ以上の想いを胸に、ポケットの中の物を握りしめ、黒斗から視線を外さない瞬兵であった。
少し入り組んだ小道を黒斗に手を引かれ歩いている瞬兵はいつもの見慣れた風景と少し異なり、まるで異文化の街を歩いているような錯覚に陥りながら、辺りを見回していた。
「こんな所があったんだね」
「俺も瞬もこことは家が正反対だし、こっちにあまり来る必要がないからな。こっちの文化をまるまま残した地域らしいよ」
「へ~」
黒斗の説明に返事をしながら見て回る瞬兵だが、時折、ポケットの中に手を入れては黒斗の横顔を窺う。
そして黒斗も時折、瞬兵を伺ってくるので視線が合ってしまうため、その度に瞬兵は見てないよ、視線が合ったのは偶然だよと言わんばかりにきょろきょろするのであった。
(いったい、何をそんなにソワソワしているんだ?)
瞬兵の様子にそんな疑問を浮かべながらも、いやと首を振る。
(ソワソワしているのは、俺の方かな)
瞬兵の手を握っている方の手はまだマシだが、もう片方の手――家を出た時から実はずっと握りっぱなしの手の中は、かなりじっとりしている。手の中の物がふやけてしまうのではないかと言うほどに、手汗が酷かった。
(ふやけるわけはないけど……錆びたりとかは、しないよね)
こんな短時間でそれはないというのもわかっているが、そんな不安がよぎってしまう。
――早く、渡さなければ。
それは黒斗だけでなく、瞬兵も全く同じ気持であった。
けどそのためのタイミングというか、きっかけがなかなかない。あっさりと渡してしまってもいいような気もするが、それでは味気がない気がしてしまうし、味気がないとなんだか気持ちも薄いように思われてしまいそうで……難しい。
どちらも悶々とした気持ちを抱えたまま、何度目かの角を曲がり、何本目かの小道を進む2人。そんな2人の前に、ちょっとした広場が待っていた。
家に囲まれた広場はそれほど広くはないはずだが、これまで小道が続いた分だけ、広く感じる。そんな広場のど真ん中にちょっとした大きめの池があり、その周囲には水をずっと湛えている小さな水汲み場が2つあった。その水汲み場にそれぞれ、大人の頭ほどある石を持った男達が立っていた。
「あの水汲み場の噴出口を塞ぐことで全ての水が中央に集まり、噴水になるらしいね」
「へー、そんな仕組なんだ」
黒斗の解説に感心する瞬兵だが、実のところ気になる所が他にあった。
それは、人が多い事である。
いや、人の数自体はそれほど多くなく、せいぜい広場のどこかにいるという程度で、魚卵の様な密度はない。ただ必ずペアを作っていて、はたから見てもその人達が自分と黒斗のような関係であると分かる人ばかりなのだ。
なんでなんだろう――それが瞬兵の顔に書いてあったのか、黒斗は説明のために口を開いた。
「最近、聞いた話なんだ。2つに分かれていた水を1ヵ所に集め溢れさせるというのが、2人が合わさることで枯れない気持ちが溢れ出てくるという意味合いに捉われて、ここの噴水開きを『恋人の誓い』と言う……らしいね」
「恋、人……!」
今更な話で紛れもない事実なのだが、それでもはっきり恋人と言われるとまだ意識してしまう部分はある。知らず知らず、ポケットの中の物を強く握りしめていた――黒斗もまた、閉じっぱなしの手を強く握る。
2人がお互いを見つめ合っていると、水汲み場の男達に動きがあり、いよいよ噴出口が閉じられる時が近づいてきた。
恋人たちが見守る中、水汲み場の噴出口が閉じられると、池の中央が盛り上がり『愛』が溢れ出てくる。噴水と言うには少し低い水柱かもしれないが、それでも確かに枯れる事無く、溢れ出ていた。
溢れ出る『愛』をしばらく眺めていた2人だったが、やがて黒斗が「もう、1年か……」と呟き、瞬兵はハッとして黒斗の横顔を見る。見られている事に気づいていない黒斗は何かを言おうと言葉を探るように目線を少し上に向け、しばらく口を開けていたが、やっとの事で言葉を選び抜く。
「――今日と言う日にこれを、一緒に見たかった」
「そっか……ありがと、黒」
「このあとは何も考えていないけど……これを瞬に」
瞬兵に正面から向かい合いながらも顔をそっぽに向け、黒斗は閉じていた手を瞬兵の前に差し出すと、ゆっくり開いていく。
ずっと握られていた手の中から出てきたのは――銀色の指輪だった。
「俺達が……その、恋人、になってから、1周年の記念に。今日が、その日だから……」
その言葉に瞬兵の目は大きく丸くなり、はっきりと驚きながらもポケットの中に手を入れ、指でつまんだそれを黒斗の前に差し出した。
「指……輪?」
「俺も……俺も、1周年の記念にって、用意してたんだ」
消え入りそうな瞬兵の言葉に、黒斗の目も丸くなっていた。
お互い、まさか今日と言う日の事を覚えていて、相談もしていないのに示し合わせたかのように、銀の指輪を贈ろうと決めていたということである。
そう考えると――どちらからともなく、笑みを漏らしていた。
「覚えていたんだね、黒」
「ああ。瞬もね」
笑いあいつつ噴水を背景に黒斗は瞬兵の左手を取り、指輪を嵌める。そして瞬兵もまた、黒斗の右手を取り指輪を嵌めた。
噴水の飛沫が2人を祝福するライスシャワーのようでもあった。
「ありがとう、黒」
「ありがとう、瞬」
互いに礼を言いつつ、指輪を嵌めた指同士を絡めあい、手をつなぐ。
「――今日はもう、帰ろうか」
「帰っちゃうの?」
少し寂しげな瞬兵へ、黒斗は頷く。
「帰って、朝までずっと話そう。この1年間のことをね」
黒斗の申し出に瞬兵は「いいね」と笑い、2人は歩き始めた。
重なり合う銀の指輪が、果てる事無く湧き出る噴水を映したまま――……
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6784@WT10 / 貴月黒斗 / 男 / 13 / 冷静に情熱的 】
【ka6783@WT10 / 星宮 瞬兵 / 男 / 10 / きっともう寂しくなる事はない 】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度のご発注、ありがとうございました。Fの世界についてはよくわからない部分もありますが違和感のない設定で、ソワソワ感が上手く出せていなかったかもしれませんが、初々しくかきあげる事が出来たと思いますが、いかがだったでしょうか。ご満足いただけたら幸いです。
またのご発注、お待ちしております