※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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記号と呼ばれた歪虚
クリムゾンウェスト北。
龍園よりも遙か北の地に足を踏み入れる事になったのは、とある依頼だった。
指定地域の探索。
危険ではあるが、その危険な理由も何が発生するのか分からないというものだ。
指定地域は高濃度の負のマテリアルが充満している地域であり、一般人が行動すれば大変危険な場所である。
グラウンド・ゼロの例もある。ハンターを派遣して調査する事になったのだが――。
「……危険です。ご主人様、戦闘からの撤退を具申します」
フィロ(ka6966)は依頼人である帝国軍人の覚醒者へ警告を発した。
探索もある程度完了して各自撤退を開始していたのだが、依頼人が更なる発見物を持ち帰りたいと言い出した。フィロは危険性がある事を指摘したが、依頼人がその指摘を無視したのだ。
「何とかしてよ!」
依頼人は尻餅をついて情けない声を上げている。
無理もない。フィロはハンターの中でも折り紙付き。星神器「角力」を手にした優秀なハンターである。だからこそ依頼人は安心しきっていたのだが、何事も油断は大敵である。
「後退を。この場は私が敵を止めます」
「……ひ、ひぃぃぃ!」
情けない声を上げて下がる依頼人。
フィロは逃げ去る依頼人に目をくれず、前を見据える。
フィロの眼前にいるのは――危機の元凶、強烈な重圧を放つ歪虚である。
黒いオーラを纏いながら、寡黙な青年。端正な顔立ちで、手には二本のトンファーを手にしている。
黙示騎士? 否、そのような報告はない。
何者なのか。それはまったく分からない。
果たして、フィロ一人で太刀打ちできるのか。
「お引き取り願います」
フィロは大きく踏み出した。
同時に体を捻って右腕を振りかぶる。
角力を振り上げ、鹿島の剣腕を発動。鎧徹しを強化して歪虚へと叩き込む。
――しかし。
「…………」
フィロの一撃は歪虚のトンファーによって阻まれた。
正確には一撃を受け流された後、もう片方のトンファーがフィロの腹部を直撃。
続く二撃目を放つが、角力によって防ぐ事ができた。
どうやら相手も格闘に覚えがあるようだ。
「あなたは何者ですか?」
フィロは歪虚に問いかけた。
先程から何度も戦いを挑んでいるが、歪虚は感情も言葉も露わにしない。
黙ってフィロの攻撃をいなし続けているだけ。
これでは生還しても相手の情報を手に入れる事もできない。せめて今後の為にも情報を入手しておきたい。その為、フィロは敢えて言葉による接触を図ったのだ。
「……流離う者」
「流離う? この地の方ではないのでしょうか」
「分からない」
男はただ、その一言を呟いた。
流離うという事は、この北の地に住む者ではないのだろうか。
だとしたなら、一体何処から来たのか。
しかし、『分からない』という事はその記憶もあやふやなのかもしれない。
「覚えている事は、ないのでしょうか」
「覚えている事……」
その一言を発した瞬間、周囲の負のマテリアルが一層濃くなった。
歪虚は静かに項垂れながら、再び口を開く。
「覚えている事は、ある。名前は『スフォルツァンド』」
「スフォルツァンド……」
フィロは男の名前を繰り返した。
フィロの記憶ではスフォルツァンドとは音楽記号の一種だ。
「確か、音楽で『その音を特に強く』という意味を持つ記号です」
「……記号っ!」
その言葉に反応したスフォルツァンド。
今まで凪のように静かだった周囲が、一気にざわめいた。
スフォルツァンドに沸き上がる激情が、フィロの目から見ても明らかだ。
「俺は、俺は……記号じゃない!」
「!」
スフォルツァンドは一気に間合いを詰める。
瞬時に反応したフィロは角力によるカウンター。
その一撃に対してスフォルツァンドはトンファーの一撃で迎え撃つ。
双方の攻撃が正面から直撃。
周囲の空気を吹き飛ばし、お互いの力がぶつかり合う。
「俺は俺だ。誰にも記号扱いはさせない!」
(過去のトラウマをお持ちなのでしょうか。
それよりこの実力は歪虚でも高位に位置するはずです。一体何故、記憶を……)
不明な事が多すぎる。
だが、何よりも大事なのはこの窮地を脱する事。
スフォルツァンドの尻尾を踏んで激昂させたのは失敗だったか。
「非礼はお詫びします。スフォルツァンド様は記号ではありません」
「……! 俺は、記号じゃ……ない」
その一言で、スフォルツァンドは落ち着きを取り戻した。
再び感情が消えていく。
フィロは直感する。この歪虚は危険だ。このまま放置は得策ではないが、今はスフォルツァンドの情報を持ち帰るのが先決だ。
「俺は……俺は…………分からない」
そう言いながら、スフォルツァンドはふらふらと歩み始める。
フィロを無視して歩き続ける様は、まさに流離う者。
そんなスフォルツァンドを呼び止めようとするが、フィロは敢えて口を閉ざした。
(このまま去ってくれるなら良しとするべきでしょうか。
それにしても、スフォルツァンド様とはいずれ何処かで相見えるのでしょうか)
フィロは、あの流離い人の再会はそう遠くないと予感していた。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6966/フィロ/女性/24/格闘士(マスターアームズ)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊でございます。
この度はノベルの発注ありがとうございます。
今回は戦闘シーンを中心にさせていただきたいと考え、新たなる敵を用意してみました。あの歪虚が一体何者なのか。記号とは何か。その謎は……そのうち何処かの機会で描かせていただければと思います。
それでは機会がありましたら宜しくお願い致します。