※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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咲かせる手の、色は
共に過ごす時間が増えるにつけ、忙しい人だと思うようになっていた。
けれどきっと、この認識に同意してくれるような相手を見つけることは難しいのだろうと、セシア・クローバー(ka7248)は思っている。
彼を深く知らぬ者の方が多い。陽気な色男は、深く付き合うようにならなければ、それこそ知ろうとしなければ、その本質を見いだせない。
一人、頷きを返してくれそうな人物は思い至るけれど……今は、ただ目の前の花束を愛でていたい。
『緑の人だ』
差し出された薔薇の淡い緑は、確かに光を浴びた春のようで。
この3月のどこか淡い陽射しに輝く様子は、確かに金に見えることもある。
込められた想いも紐解いてもらった。それを聞きながら、自分は選ばなかった方法ではあるけれど、こうして形に出来る、年上の彼の知識に感心してばかりだ。
そんな彼が示す感謝も普段から感じとっている。
セシアが彼の喪失に気付いてから、彼の見方を変えたなんてことはない。ただ、彼のことをより知りたいと思うようになっただけだ。
地上の星として見つめてくれる。
緑の人だと温もりを求めてくる。
希望の花だと慈しみ愛を告げる。
セシアは様々に例えられて、そのたびに、彼は違う役につく。
けれどそれをいつもこともなげに熟すから、当たり前の日常としているから。忙しいように感じる者はとても少ないのだ。
彼も、勿論セシアもひとりずつだから、傍から見れば同じに見えるだけなのかもしれないけれど。
マリトッツォの甘さを思い出す。たっぷりのクリームは見た目ほど重くない。さらりと食べ切れてしまったことにも驚いた。
きっとそれと同じだ。彼はセシアにとって当たり前の存在になっている。
星だと呼ぶなら、求める輝きを差し出そう。
あたためる為にいくらだって抱きしめよう。
あなたの愛を前にいくらでも笑顔で咲こう。
どれも、彼が居るからできることだ。
輝くのも、抱きしめるのも、咲くのも。セシアを慈しむ彼の手があってこそ。
「空の青を内に抱くあなたこそ、緑の手の人だ」
そう伝えたらどんな顔をするだろう?
今日はいつも以上に愛の言葉が降り注いで、受け取るばかりになってしまったけれど。
次の機会なんて贅沢は言わない。けれど、いつか。
彼がつい言葉を止めてしまうくらい、それこそ手を休めてしまうくらいに、想いを届けられますように。
彼を休ませられるのは、きっと自分だけだから。
━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
【セシア・クローバー/女/19歳/魔符術師/恋は、確かな愛に】