※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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部族会議の日常 ~首長と補佐役の講習会~
戦いの続くクリムゾンウェストではあるが、日常生活は存在する。
歪虚が姿を見せなければ、クリムゾンウェストの人々も平穏な一日を過ごす事になる。
今日は、その一シーンを覗いてみよう。
「……本日は、ご招待を……」
「ダメです。もう一度最初から始めて下さい」
パシュパティ砦の一室では、奇妙な光景が存在してた。
部族会議首長のバタルトゥ・オイマト(kz0023) が立ち、その様子を補佐役のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0232)が椅子に腰掛けダメ出しをしている。
「またか……」
「ええ、またです。それもこれもバタルトゥさんが、正しい礼儀作法ができないからです」
優しい口調のヴェルナーではあるが、その指導はかなり厳しい。
元々、部族会議は蛇の戦士シバの発案で発足された。辺境部族が西方諸国と肩を並べる国家として出発する為の地盤なのだが、これは自動的に首長が辺境国家の代表を意味する。
そこで、バタルトゥへ礼儀作法を叩き込むべくヴェルナーが講習会を開いたという訳だ。ヴェルナーは今日の為に眼鏡と指示棒を持参していた。講師気分を満喫しようというのか。
「いけませんね。これでは陛下だけではなく、紫草さんも許してはくれませんよ?」
「いつも通りではダメ、か」
「はい、ダメです。以ての外です。
礼儀作法が用いられるのは、正式な場である事が常です。ここで失礼があれば事務方の努力を無にする恐れもあります」
「むっ……」
ヴェルナーの言葉にバタルトゥが反応する。
実際には余程の失礼が無ければそのような事はないのだが、ヴェルナーは敢えてその情報を与えない。バタルトゥに緊張感を持たせる為だ。
「ですから、礼儀作法は大事なのです。
たとえば、バタルトゥさんと謁見を申し込んできた東方の武家が居たとしましょう。鎧甲冑姿で現れた彼は、バタルトゥさんの前で突然胡座をかいて床に座ります。
『いや、ワシも年でのう。最近、とんと礼儀作法を忘れてしまった。正式な調印など面倒なのでこれでも良いか?』と言われても良い気はしないでしょう?」
「……ヤケに具体的だな」
話を聞いていたバタルトゥは、ヴェルナーの言葉の裏にある感情が込められている気がした。
いつもと同じ笑顔なのだが、どうしても誰かを想像してしまうのだ。
「いいえ。あくまでも架空の人物です。気のせいですよ、ええ。
大切なのは自分の考え方や文化が相手と同じではない、という事です。礼儀作法は、相手を思いやる気持ちの表れとお考え下さい」
「相手を思いやる気持ち、か」
バタルトゥはここで講習会の内容を反芻する。
かなり面倒な手続きも多いが、すべてに理由がある。相手を不快にさせない為に考え抜かれたルールなのだろう。
しかし、学ぶ側も体力が必要だ。かれこれ数時間はこの部屋で講習会を続けている。
「そろそろ、休憩にしないか?」
「ふふ、もう根を上げられましたか? 戦場では果敢なバタルトゥさんも、この講習会では子供のように我慢ができませんか?」
「そうではない。長い緊張が続けば集中力が落ちる」
最近、ヴェルナーが子供扱いしてくる事に不満なバタルトゥ。
だが、それもヴェルナーが敢えて子供扱いして反応を楽しんでいる事をバタルトゥは気付いていない。
「それも……そうですね。
ふふ、ここはバタルトゥさんのお願いを受け入れて休憩としましょう」
その言葉でバタルトゥは椅子へ体を投げ出した。
戦場でも緊張感が続く事が多いが、この講習会は別種の緊張感で空気が張り詰めている。その原因は講師役であり、目の前で悠々と紅茶を入れている『この男』にある。
「砂糖は四杯でしたね。甘い方がお好きなんですか?」
ヴェルナーは紅茶のカップにスプーンで砂糖を入れる。紅茶の中へ溶けていく砂糖は、かき混ぜられてその姿消した。
「……何が言いたい?」
疲労もあってバタルトゥは機嫌が悪い。
半分はヴェルナーがバタルトゥの反応を楽しんだせいなのだが、当のヴェルナーは全く気にする素振りも無い。
「いえいえ。他意はありません。個人的な疑問を述べたまでです。それにしても……」
要塞ノアーラ・クンタウからカップを差し出すヴェルナー。
バタルトゥの前に砂糖たっぷりの紅茶が、そっと鼻孔を擽る。
「それにしても……なんだ?」
「バタルトゥさんは本当に感情が豊かですね」
「!」
バタルトゥは口を付けたカップから紅茶を零しそうになった。
今までどこへ行っても仏頂面で余り感情を表に出さないタイプとして言われていた。
しかし、ヴェルナーはここに来て他の者とまったく異なる主張をする。
「何を言って……」
「子供の頃、親兄弟から同じ事を言われませんでした? 顔や態度に出ているから分かりやすい、と」
「…………」
ヴェルナーの言葉を聞いて思い返せば、確かにそんな気もする。
自分では分からないが、どういう訳か親族は自分の考えを理解していた節がある。
その理由は未だに分からないのだが、ヴェルナーは何かを掴んでいるようだ。
「どうして分かる?」
「知りたいですか? ふふ、本当にバタルトゥさんは分かりやすいですね。
……あ、馬鹿にしている訳ではないのです。ただ、気付いてしまうとバタルトゥさんの行動は実に可愛らしく感じてしまいます」
ヴェルナーの言葉にバタルトゥは目眩を覚えた。
――可愛らしい?
オイマト族の族長にして部族会議の首長である自分が、ヴェルナーから見れば可愛いという。
まるで理解の範疇を超えている。
だが、そうして戸惑うバタルトゥもヴェルナーの掌の上なのかもしれない。
「理解できない、とお思いですね? 族長になってから、そうやって戸惑った事がないのではありませんか?
きっとイェルズさんですら……いや、彼はまだ経験が浅い。おそらく今のバタルトゥさんを見ても理解できないでしょう。
そうなると私だけが『バタルトゥさんを一番理解できている』となるのでしょうか」
「……嫌な表現はよせ」
さすがにバタルトゥもヴェルナーがからかっていると察したようだ。
これ以上バタルトゥを怒らせても困る。
ここはヴェルナーも空気を察して引き下がる。
「これは失礼。少々、調子に乗ってしまいました。気分を害されていらしたらお詫び致します。
ですが、気晴らしにはなったと思います」
「一番気晴らしになったのは、お前じゃないのか?」
「ふふ、バレましたか。とても楽しませていただきました」
ヴェルナーは素直にバタルトゥの指摘を認めた。
バタルトゥの反応を見て楽しんでいた。それはバタルトゥにとっても荒立たしい事ではあるのだが、ヴェルナーを前にすると怒りも何処かへ消え失せてしまう。
最早、いつもの展開だと考えて諦めているのかもしれない。
「まったく、お前という奴は……」
「お詫びに後で何か甘い物を用意させましょう。
ですが……その前に今日の講習を終わらせないといけません。授業を再開しましょう」
紅茶を飲み干したヴェルナーは、立ち上がる。
再びその手に握られているは、指示棒が握られている。
「まだやるのか」
「ええ、やりますよ。私が頭からちゃんとお教えします。手取り足取り、ね」
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【kz0023/バタルトゥ・オイマト/男性/28/闘狩人】
【kz0032/ヴェルナー・ブロスフェルト/男性/25/疾影士】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤です。
何故か、もの凄く特設ページのノベルを執筆している気分になります。
この二人で、かつヴェルナーの登場を多くして欲しいという要望……。挑戦させて頂きましたが、お気に召したら幸いです。
次回がございましたら、別なる展開も描かせて頂ければと思います。
それでは、また機会があれば宜しくお願い致します。