※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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豊穣祈願の森
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「これは、完全に迷い込んでしまったようですね」
繁々と辺りに広がる木々草葉を見渡しながらクリスティア・オルトワール(ka0131)が静かに言った。
太陽の光……ではなく、地面自体がほんほかと輝いているように思え、微かにだがマテリアルを森全体から感じる。
「誠に申し訳ない。まさか、この様な事になるとは……」
クリスティアの背後で、一人の侍が深々と頭を下げていた。
今回の冒険の依頼主でもある仁々木 正秋(kz0241)だ。
事の発端は東方諸国の一つである十鳥城周辺の集落からの申し出だった。
昔から豊穣を祈願する神社が深い森の中にあり、毎年、集落の代表者が詣でに行っていた。
それが、歪虚の襲撃により代表者が大怪我をしてしまい、代わりに一帯を治めていた正秋に仕事が回ってきたのだ。
「集落の者の話によりますと、誰を寄せ付けぬ神聖なる森と……」
「一応、脱出の手段はありますから、もう少し、探索を続けましょう」
魔術師であるクリスティアは空を飛べる魔法も使える。
最初は空から確認しようとしたが、森が深すぎて祠の位置は分からなかった。
「畏まりました。それでは、拙者がクリスティア殿の行く手を塞ぐ蔦草を払います」
「大丈夫ですよ。私、こうした冒険は慣れていますから。それに、無駄な体力を使うのはよくありませんし」
迷いの森であっても、何かを探すというのは古代遺跡の探索に似ている。
そう考えれば、どうやって目指す場所まで辿り着けるか妙案が浮かぶかもしれないと思う。
「流石、ハンターオフィスからの紹介されたハンターだけありますね」
「そうでなければ、このような生業は続けられませんから。ところで、正秋様は、祠まで行くのに、集落の方から何か言われていませんでしたか?」
「えーと。確か……“豊穣なる者のみが詣でられる”……という話は聞きました」
十鳥城は長らく歪虚の支配地域に残っていた為、土地は痩せ、人々は苦しんでいた。
それが、長江の土地を活用した事業を進めた事で、今や豊かになりつつある。
集落の人の言葉をそのまま受け取るのであれば、正秋自身は“豊穣なる者”と言えるだろう。
そんな風に考えながら、クリスティアはピタリと足を止めた。
「正秋様、確認したい事があるのですが、『ここ一帯は歪虚の支配地域』だったのですよね?」
「ええ。集落は鬼が住んでおりまして、歪虚の軍門に下る形で細々と生活していたそうです」
「歪虚の支配地域は、このように、豊かな森が広がっているのですか?」
生い茂る森に腕を向けながらクリスティアは尋ねる。
一般的には負のマテリアルに汚染された場所は、草すら生えないという。
それなのに、ここは自然に満ち溢れているのだ。
「まさか、“ここ”だけですよ。こんな不思議な場所」
「すると、何か特別な力が働いているという訳ですよね。例えば、歪虚を退けたり迷わせたりするような」
「……なるほどです。それなら、森からマテリアルが感じられる理由にもなります!」
ポンと手を叩く正秋。
マテリアル――正確には何らかの術式や結界に似たようなものが、森全体に展開されているのだろう。
その力により、歪虚は森からマテリアルを奪う事ができなかったのだ。
おかげで、クリスティアと正秋の二人も迷子になったのだが。
「そうすると、毎年、お参りしていた集落の代表者も迷子になっていたのだろうか?」
正秋の陳腐な疑問にクリスティアは微笑を浮かべて応えた。
「“豊穣なる者のみが詣でられる”……これが答えですよ。集落の人は迷子にならない術を知っていたのです」
「それは……どういう意味でしょうか?」
「こうするのです」
ニッコリと笑い、クリスティアは豊かに実った稲のように頭を下げた。
そして、そのまま歩き出す。まだ事態が分かっていない正秋もそれに倣う。
どれだけ歩いただろうか、差し込んでくる光の向きが代わり、クリスティアは顔を上げた。
目の前には巨大な樹木。その幹の穴に厳かな祠が立ててあった。
古めかしい鳥居から垂れる紙垂が風で揺れている。
「これが……祠……ですね」
周囲は七色と4季に彩られて、マテリアルに満ちていた。
東方に残った微かな龍脈が集まっている――そんな気がする場所だ。
「素晴らしい所ですね。クリスティア殿、案内ありがとうございます」
景色に圧倒されながら正秋は、感謝を告げる。
これで、集落の人々を安心させる事が出来るだろう。
「クリスティア殿、最後にもう一つお願いがあります」
「なんでしょうか?」
「祈願をお願いしたいのです。昔は巫女が行っていたそうで……クリスティア殿は巫女ではないでしょうが……」
土下座する勢いで頭を下げた正秋を“この人今日何回頭を下げたのだろうか”と思いながら、クリスティアはゆっくりと頷いた。
「分かりました。それでは……今年の五穀豊穣を祈って」
こうして豊穣祈願の森に、手を叩く音が響くのであった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0131/クリスティア・オルトワール/女性/20/魔術師】
【kz0241/仁々木 正秋/男性/20/十鳥城代官】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。赤山です。
どの様な内容で描こうかなと思案しつつ、ギャラリーからヒントを頂きました。
遺跡探索や冒険を書きたいし、クリスティア様が活躍する話にもしたい。
そんな風に考えた結果、迷いの森での冒険という形にさせていただきました。
お気になる点があれば、お気軽にリテイクをお申し付けください。
この度は、ご依頼戴き、ありがとうございました。