※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
-
イマドキ男子高校生~神託蒼記録~
●先輩の事情
らっしゃい! ご注文は!
醤油チャーシュー
味噌野菜マシ
豚骨脂抜きチャーシューね!
パンッ!
「お願い!」
ぎゅっと目を瞑った顔は下に、二人の後輩に向けて、綺麗に合わせた手がしっかり見えるようにして。
九条 子規がいつものラーメン屋に後輩二人を誘ったのは、この話をするためだったのだ。彼ら二人の協力が無かったら、自分の計画は成功以前に始まりさえもしない。
どうしても大事にしたいことができたけれど、自分一人の力では限界がある。助けを求めるとするなら、この二人しか考えられなかった。
(そこまでは、ちょっと恥ずかしいけど)
先輩としての矜持もあるし、気恥ずかしいから、そんな深い部分までは言えない。
いや、いつか言えるようになるのかな? ……なるかもしれない。
(って、そうじゃなくて!)
ともかく今は、その大事なことを守って貫くために動かなければいけない日なのだ。
「どうしたんですか、先輩?」
首を傾げ子規を見てから、城里 陸が尋ねる。ただいつもの寄道に誘われただけだと思っていたけれど、どうやらそうではなかったようだ。
「二人とも、俺のバレンタインに協力して!」
席に座り鞄を下ろして、いつも通りの注文を済ませてからほとんど時間は経っていない。
「え、バレンタイン?」
続く言葉に一度ぽかりと口をあける。
(いつもより落ち着きが足りないような、とは思っていたけれど)
なんとなく、寒さのせいだと思い込んでいた。
「……えっとつまり……あ、ああ……」
すぐに思い至ってなるほど、と頷く。男の身の上では縁遠いはずのバレンタインだが、睦自身外見的な都合でそれなりに詳しい自負がある。……あまり誇れることではないけれど。
(そういえば)
バイト先のカフェでバレンタイン&ホワイトデーフェアを率先して提案したのがこの九条先輩で、自分達も準備を手伝っている。そのことを思い出したのだ。
(自分にとっても大事なイベントだからなんですね)
どうしてそこまで力を入れられるのだろう、女の子のイベントという印象が強いからこそ不思議に思っていたけれど、これなら納得だ。九条先輩には意中の相手がいる、というのも聞き覚えがあったから。
(クリスマスも、そういえばこんな感じで言われたような)
暮科 悠里は少し前にもあったなと思いだす。あの時は今よりもうちょっと必死な感じは少なくて、どちらかと言えば気軽な感じだったような気がするけれど。
冬休みに何かあったのだろうか、バイトでも顔を合わせていたけれど、何か感じ取っていただろうか?
記憶を辿っている途中で、そもそもの原点を思い出す。
(相手……は、そっか)
変化があったということは。
何かしら進展があったのなら良かったと思うくらいには、普段から応援して居るつもりだ。世話になっている先輩が相手と良い関係を築けているなら良いことだと思う。
(うん、ちょっと妹に似てる感じが憎めないんだよなあ)
甘え方、と言えばいいだろうか。頼みごとをする時の仕草とか、咄嗟の行動力とか。
男性にそれは流石に申し訳ないとも思うので、決して口には出さないけれど。
兄貴というのも違うのだ、この人は。兄妹の多い悠里だからこそそう言った違いが気になってしまう。
目標があって、それに真剣に取り組んで、それと同じくらい他の事にも力を注げる人なのだ。時々周りが見えていないような、危ういところもあるけれど。そこは自分達でフォローすればいい。こうして頼ってきてもくれるから、自分達はそこに答えればいいと思う。
(まあ、妹が同じことを頼んで来たら許さないけど)
家族は家族、先輩は先輩。そこはしっかり切り替えられる。
「当日ってことですよね? その日って確か……」
睦がシフト表を取り出そうと鞄を探る。
「うん、俺、ホール担当になってるんだ」
フェアの提案者だからというのがその理由だろう。
「……だけど、そこを代わってもらいたくて!」
パンッ!
再び手を合わせる子規の、必死の声音に睦と悠里が顔を見合わせる。
合わせた手の向こう側からちらりと向けられる視線に、小さく笑いあって。
「仕方ないですね」
「うん、仕方ないね」
シフト表を改めて覗き込む。
睦は出勤、悠里は休日になっていた。
「ということは」
「俺と交換……つまり、俺がホールの代打?」
今度は悠里がぽかりと口をあける番だ。
まだ一年目の睦と悠里はそれぞれホール、調理場にしか担当で入ったことがない。そろそろもう一方の業務も出来るように仕事を教えるという話は出ていて、睦が調理場の基本から習い始めたばかりの時期だ。悠里の方は、まだもう少し先のことだと思っていた。
ただ早いか遅いかの違いだというなら。
「ちゃんと仕込んでくれるなら……?」
不安がないというわけではないけれど、頼られると答えたくなってしまう、そんな声音で。
悠里の言葉に子規の手が解かれる。
「大丈夫! 悠里君ならホールもいけるって。ね、陸君もそう思うでしょ?」
まだ当日まで時間もある。教えるための時間は十分にとれるから大丈夫だよ。もうひと押しとばかりに勢いをつけた子規が目を細める。
「そうですね……フェアの特別メニューがある分、少しいつもとは違うと思いますが」
軽く首を傾げて、一通りの業務をさらう。完全な初心者があと半月ほどで覚えるとすれば難しいだろうけれど、悠里は厨房でメニューを見ているはずだし。店の空気や、自分が教わっているところも見ていたはずで。
(その間、俺も厨房の仕事覚えられるようにすれば、バランスもとれそうですね)
当日はホールだけれど。それまでの教育機関は自分が交代で入ることになるだろう。
「暮科くんなら大丈夫ですよ! ……ね?」
当日は僕も居ますからフォローできますよと太鼓判を押した。
「ん、それじゃあ頑張ってみようかな」
覚えるのが早まっただけだしね、そう請け負えば、安堵した顔で子規の顔に笑みが浮かんだ。
「ありがとう二人ともー!」
●後輩達の連携
ヘイお待ちぃ!
熱いうちに食ってくんな!
「丁度来ましたね」
いただきます、と手を合わせてから箸を取って配る睦。
「うん、これで安心して食べられるー」
頷いて肩の力を抜く子規に、悠里が首を傾げた。
「子規さん。夕飯家で食べてくアリバイもおまけでつけるけど、それで大丈夫?」
ホールの仕事、きちんと仕込んでくれる分のおまけでね、パキリと割りながら尋ねる。
「あー、そっか」
「「???」」
「えっと、アリバイ工作はお泊まりまでで……」
エヘヘ、と照れたように笑う。せっかくの機会だから、できるだけ長く一緒に居たいとその顔に書いてある。
いいかな、ダメかな?
そんな視線を向けられて。睦と悠里が再び顔を見合わせた。
「お泊りまでとは長いですね……まあいいです、了解しました!」
睦の向ける笑顔から子規も意図を感じ取る。
「それじゃ野菜マシを」
「今日は入りませんってば、みんな休みだから来てるんじゃないですか」
バイトの日か、授業で体育があった日なら別ですけどね。
「じゃあ次の時にそれと同じメニューでどうかな」
「それなら。ご馳走様です♪」
もう一つ、と悠里が人差し指を立てて二人の注意を惹いた。
「ホワイトデーも土曜日だけど、そっちは?」
更に一カ月先とはいえ、カップルにしてみればセット必須のイベントだ。
フェアの都合でシフトも3月分まで決まっている。その日に子規が休みなのを確認し、再び見つめてくる後輩達。
「! できれば、それも……」
「OK。泊まり、どっちがどっちの家にする?」
頷いて、すぐに睦に話を向ける悠里。
「なら、バレンタインデーは俺の方で引き受けます」
「それじゃホワイトデーはこっち持ちだね、了解」
動けばすぐに決まるものだ。
「あー、良い後輩を二人ももって俺幸せだなー」
頼った先が彼らでよかったとしみじみ言えば。
「子規さんだから良いんだけどね」
「そうですよ、お世話になってなかったら、頼まれてもやりませんよ?」
わざとらしく返されて、揃って笑い声が零れた。
「バレンタインデーはともかく、ホワイトデーは俺らも考えないとなあ」
部活の女子が話してるの聞いちゃったんだよね。
「義理チョコの共同出資とか……なんであるのかな」
チョコレートが悪いってわけじゃないんだけど、とぼやき始める悠里。
「ですよね、お返しも毎年悩んじゃいますし」
「妹と家族の分があるから、一緒に考えればいいのはわかってるんだけど……」
「九条先輩、バイト先の女の子達も義理チョコとかって……あるんですか?」
気になった睦が投げかける質問に、悠里もはっと顔をあげた。
「そこは大丈夫だよ、バイト先と内容被りを避けるのって大変らしいからね」
ケーキだけでなく、持ち帰り専用の焼き菓子も置いているカフェだ。バレンタインの時期はただでさえ期間限定商品も増える。いつも見ているような物を渡す女子は居ない……という話。
安堵の表情を漏らす後輩二人を見ながら、心の中でこっそり続けた。
(……本命とかはまあ、あるみたいだけど)
それでも渡したいような相手が居れば、頑張る子は居るらしい。
「もう手作りクッキーで良いかなぁ」
作るのも慣れてるし、間違いないよな。
(バイト先に来てみたいとか言ってる皆にも、それで勘弁してもらおう)
恥ずかしいからやめてくれって頼んで誤魔化しているけれど、そろそろ危なそうだ。この際、作ってる間に台所をじろじろと眺められても我慢するしかないと悠里は心に決める。
(仕事中と同じ気持ちになれば気にならない、はず)
家で使わないような材料の調達をどうしようかなと考えて。
(その辺は別のを使えばいいか)
「……俺もクッキーにしよっと」
調理の練習にもなるだろうから、丁度いいかもしれない。
(覚えたいからと言えば多分、パティシエも手を回してくれますよね)
面倒見のいい調理場の責任者だ、意欲を示せば答えてくれることは知っている。現に暮科くんもそうやっていろいろ覚えたと言っていた記憶がある。
(材料、全部使い切る頃には覚えられる気がします)
その頃にはちょうどホワイトデーになっている気がする。
(この後、暮科くんに買い物に付き合ってもらおうかな?)
(去年は自分もこうだったかな)
確か同じようにお返しの事を考えて……何を返して貰えるか、緊張と期待で胸がいっぱいになって。
(勉強も、珍しく集中力が切れたりしてたなー)
復習も少し甘くなっていて、試験当日いつもより苦労しちゃったな、と考えて。
(試験?)
「二人とも、ちょっといい?」
ちょいちょい、と子規の指が視界に割り込んで、睦と悠里が顔をあげる。
「色々頼んだ俺が言うのもだけど……試験勉強、忘れちゃダメだよ?」
「「!!!」」
はっとした顔が並んだ。
「うん、言っておいて正解だったかな?」
くすくすと子規の笑い声で、元の顔に戻るのも同時だ。
パァンッ!
「そうだ陸様、ノート貸してっ。煮卵つけるから」
「に、煮卵ならしょうがないなー」
今度は悠里が頼みごとをする番だ。手を合わせた後、すぐに食券を買いに行く。
「えっ睦君、悠里君の煮卵は入るの!?」
俺の野菜は駄目だったのに、と小さなクレームには微笑んで返すのも気安い間合い。
「煮卵は別腹なんですよ? ……で、どの科目?」
すぐに戻ってきた悠里から煮卵を受け取って尋ねる。
「化学面倒で……」
「それは俺より適」
言いかけた言葉は飲み込んで、すぐに笑顔を浮かべなおす睦。
「俺も得意な方だから。……この後の買い物に付き合ってくれたら、要点纏め講義もつけるけど、どう?」
「ありがとうございます睦様っ!」
改めて相談を始めた後輩達に向ける目をつい細めてしまう子規。
(熱心だし、仲も良いよな)
キリがいいところでまた声をかけよう。
りがとうございっしたー!
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ka0410/九条 子規(ジュード・エアハート)/男/二年/オールマイティ/恋も仕事も本分だから】
【ka1664/暮科 悠里(ユリアン)/男/一年/調理担当/自律への一歩だと思うんだ】
【ka2490/城里 陸(フレデリク・リンドバーグ)/男/一年/ホール担当/社会勉強なんですよ】