※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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異なる歩み
大通りを人が盛んに行き来し、整然と並ぶ石造りの建屋の屋根から小鳥がこまかくのぼりおりするような、そんな陽気だった。
グラズヘイム王国内の都市のそんな様子は、ユリアンにすれば馴染んだものであるから、依頼の合間に少し羽をのばして歩くのには適していた。
もっとも、平素からなにかと仲間の家事やら手伝いやら、世話をこまめにこなす性分のユリアンであるから、今も仲間の薬師に頼まれて買いだしに出てきているのだった。
「はい、これで品は全部だね」
「ありがとうございます」
律儀に頭を下げるユリアンに、店主は小袋に品を詰めて寄越した。
なんどか使った店であるから、このハンターであるという割に物腰の柔らかい青年に、面倒見のいい店主にすれば気にかかる所もあったのかもしれない。
「どうも、最近物騒だからね。あんたも気をつけな」
「なにか、ありましたか?」
辻斬りらしい、と店主は顔をしかめた。金や物を盗るだけならまだしも、ばっさりとやられてるらしいから酷い話だ、と。
「あんた、腕っぷし強そうじゃないからね、気をつけるんだよ」
ハンターだと知っているはずだけどな、とユリアンは少し引っかかりながらも、気をつけますとやはり律儀に一礼して店を出た。
そんなこともあったからだろうか。なんとなく、帰りは人通りの少ない路地を歩いていた。
歩くたびに、不思議と予感がした。
それは暗い予感であり、ユリアンにとっては一時期、自身について回って己を悩ませた虚無の気配だった。
さきほどまでの通りの活気はどこへいったのか、人の気配が完全に途絶えたような錯覚。
そこから、もうひとつ先の路地裏、そこで唯一、何かが蠢いているという確信。
忌避されるべき気配。わずかな逡巡の後、ユリアンはその気配へと足を進めた。
古い家屋の石造りの壁が陽の光をさえぎり、昼間とは思えぬ薄暗さ。
そこで蠢いていた何かが、こちらへ注意を向けた。
「なんだ、お前は」
厚いフードからのぞくやせた体に対して、目ばかりがきつい光を放っている。
そんな男の傍らには、体がひとつ横たわっている。ここから見ても明らかにすでに息絶えている。ここまで引きずって来たのか、その体は地に赤黒い血糊をたっぷり吸わせていた。
「…面倒だ。見たこと忘れてとっとと消えろ」
ユリアンは平気で一歩を踏み出した。
「おい」
亡骸を漁っていた手を止め、刃物に手をかける男。その刃の光は、男の目の光と同質に見えた。
この男は、放っておけば同じことを繰り返すだろう。ユリアンをまとう気配が、なぜか確信をもって告げていた。
男の後ろに横たわる亡骸。どこかで見た景色。虚無。己までも、虚無であるという錯覚と恐怖。
一度は拭い去ったその気配に、ユリアンは苦痛を覚えながらも歩を進めた。
「…そうかよ」
男は薄暗がりの影に消えた。常人であればそうとしか見えなかっただろうその疾走を、ユリアンは視界の端に捉え続けた。
(疾影士)
己と同じ体系に属すその体捌きに、ユリアンの気が張り詰めた。わずかに腰を落としたが、歩は止めていた。
壁を蹴り、すばやくユリアンの頭上の左右を行き来する気配。その不規則なリズムが一瞬途絶えるや、鋭く細いきらめきが、ユリアンの頭上に降り落ちた。
ユリアンは剣を抜いた。
なぜか、父に剣を教わった時のことが瞬きのように思い浮かんだ。
「ああ、手間をかけさせたな」
次の依頼までの宿へ戻ってきたユリアンを、薬師は作業をしながら出迎えたが、その顔はユリアンを見るやぴくりと止まった。
「遅かったな。何かあったか」
「うん。まあ、少し」
手にした薬草類を渡しながら多くは語らないユリアンに薬師は、ほーうとよく分からない声をだした。
「まあいいけどな。たまあにお前、そういうときあるよな。ちょっと座っとけお茶でもいれてやる」
かちゃかちゃと背を向け準備をする薬師。お茶の葉のように取り出したのは薬草類をしまった場所からだったように見えたが、気のせいだろう。
「いいんだけどな。何か必要あればすぐ俺らに言えよ?」
「うん」
椅子に腰掛け、両の手のひらをさすってみる。
(…あのころとは違う)
目を閉じたユリアンは穏やかな笑みを浮かべることが出来た。
運ばれてきたお茶が、ユリアンの前に差し出された。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1664/ユリアン/男性/20/疾影士】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせして申し訳ありません。お気に召して頂ければ幸いです。
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