※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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何となく、というならば
「そう言えば」
と、ふと思い出したように想(kz0285)はユリアン・クレティエ(ka1664)に言った。
「……また、ハーモニカを聴かせていただくことはできるでしょうか」
「え? 俺の?」
それは流石に、ユリアンにとって虚を突かれる提案ではあった。
確かに一度、想に聞かせたことはあるけれど。その時も自覚していたように、下手では無いものの大した腕前ではない、と思う。
あれはあくまで、初めて出会った時に届けられなかった『彼女』の音楽へのつなぎのつもりだった。
その後、想は実際に彼女ら、もっと本格的に音楽を生業とする人たちの素晴らしい演奏を目の当たりにする機会も得た。
それはそれで、彼がいたく感動していたことは間違いないと思うのだが。
その上であえて自分の音が良いというのは、それはつまり。
「──……何となく、なんですけど」
まあつまり、そう言う事なのだろう。
「あ、いえあの。おいやでしたら勿論、無理強いはしませんけど」
「まあ、嫌っていうかまあ……まあ、いいか」
どう返せばいいのか。
言った手前、というのもあって、多少戸惑いつつもユリアンはハーモニカを取り出してみせた。
空の帰り道。
素朴な音色が、風に流されるように彼らの後を引いて残されていく。
想は静かにそれに耳を預けていた。
彼にとってはやはりこの音が。『何かの役に立つ』以外の世界への扉だったのかもしれない。
「音楽は……好きかもしれません」
ぽつりと言ったその言葉は、ああ、とても嬉しいと、ユリアンは思う。
「……弾いてみる?」
「え? ああ、いえその、それは……。とりあえず、聴く、方で……」
「そっか。そうしたら、こないだみたいな機会があったらまた声をかけるかな」
「月面の、あれは……凄かったですけど、色々凄くてその……」
何気ないユリアンの言葉に、想は少し身体を縮めて目をぱちぱちとさせた。
ふむ、確かにリアルブルー式のライブはいきなりは刺激が強かったかもしれない。……自分でもあれは、光とかの刺激で結構興奮が静まらなかったし──いやまあ、『あの時』の興奮はライブのそれだけじゃなかったから何とも言い難いけど。
何か、もう少し落ち着いて聴けるコンサート、とかか。
思い出しかけた何かを今は振りほどくように、ユリアンは慌てて思考を切り替えるのだった。
……うん。自分の音が、言葉が。想が何か見つける切欠になってくれたなら、良かった。
━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注有難うございます。
そんなわけでおまけはこのように。
ユリアンさんと一緒の時間を過ごす、となったら、と考えたらふと、ごく自然にあの時聞かせていただいたハーモニカの事が思い出されたのですよね。
役割だけを求めてきた彼には、きっと思いもかけないところに届いたのでしょう。
出会いと心遣いに感謝を。
改めて、ありがとうございました。