※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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友情の距離感(とは)
鞍馬 真(ka5819)にとって装いとは重要な戦闘準備だ。
様々な状況で人を救うために、気付けば様々な力を得た。そして、彼はその様々な力に合わせて装いを新調してきた。
伊達ではなく、一つ一つの戦いにおいて、己がどんな力を、役割をもち、何を意識して立ち回るのか。それを強く自覚する為のマインド・セット。
今日もまた彼は、一つの戦いに向けて入念な準備をしていた。袖を、脚を通しながらその感触を確かめ、しっかりと裾を伸ばす。髪に丁寧に櫛を通し、リボンで纏める。そしてすべての準備を終えると、今の自分を確かめるために鏡の前に立つ。
蒼の瞳が見つめる鏡の先には、今。
どこに出しても恥ずかしくない美少女が居た。
行列必須の絶品スイーツ店巡り。それが、真がこれから目指す戦場であり、その為に彼にとってこれは必要な準備だった。
人目が気になったり雰囲気を壊していないか不安になって折角の味が十分に楽しめないなんてことの無いように。
何より、息をするように仕事のことを考えてしまう彼にとって、完全にいつもとは違う自分、と強く意識することは重要だった。……「彼」のままだったらどうしても考えてしまうだろうから。こんなことしている場合だろうか、と。
──そう、今の私は闘いなんて無縁の、ただのスイーツ大好き女子!
鏡に向けて頷くと共に、真は踵を返し、今日の戦場へと向かっていく。
要するに。
今の真は心身共に、限界まで疲れはてていた。
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知り合いの女性ハンターに監修してもらった女装は完璧で、彼の存在は違和感なく行列に溶け込んでいた。そうして手に入れたクレープ、店主曰く拘りに拘って完成させたカスタードは確かに濃厚ながら重たすぎず、苺の酸味と合わさってその風味を十分に堪能しながらもいくらでも食べられそうな味わいだった。
この分なら次の店も余裕で楽しめそうだ……真の顔に自然と微笑が生まれる。甘いものはやはり荒んだ気持ちを幸せにしてくれる。ふと気持ちが緩むと共に溢れたそれはまさに「花が綻ぶような」笑顔だった。
……だから、つい人目も惹くのだろう。
順調のはずだった計画がここで迎える思わぬ展開、とは。
「お姉さん可愛いね。甘いもの好きなの? オレいい店知ってるんだー」
その笑顔に惹かれて軽薄な軟派男が真に絡んできた、事では無く。
「ああ……いえその、結構です」
気分を壊したくない(というかボロを出したくない)真がその対応にもたついてしまったこと、でもなく。
「……ちょっと、少し見てたけど流石にしつこすぎるんじゃないか。……って、え?」
そうするうちに助けに割って入って来た存在がよりによって知り合い──伊佐美 透(kz0243)だった事である。
ここから軟派男を退散させるまでについては取るに足らない話なので割愛、として。
「あの。有難うございます、素敵な殿方?」
顔と視線を反らしながら、明らかに狼狽えた声で真はそれでも誤魔化そうとする。
暫く驚いた様子で真を見ていた透は、その態度に益々驚きを見せた。
「ああいえ……マジマジ見てすみません、良く似た知り合いが……居ると思ってつい……だったんだけどまさかマジで真なのか」
「え」
……真の女装は完璧だった。透からは完全に女性だと疑わないほどに。だから。下手に取り繕わなければ、「良く似た女性がいるもんだなあ」で終わっていたのである。
「しまったああああ!」
理解して真は頭を抱えてその場にしゃがみこむ。
「しゅ、趣味とかじゃなくて……ほら、大の男が甘いものを食べ歩くのは目立つから」
そして、そのまましどろもどろに必死で説明をする真に、透はそっかー、としか言えない様子で苦笑するしかないようで。
「……次はパフェを食べるつもりだったんだけど、一緒に行く? 口止め料として奢るよ」
「いやまあ、言いふらすつもりなんて無いけど……でもまあここはお誘いに乗っといた方が逆に君が楽なのかな。うん、甘いものは好きだし……確かに一緒に行けると有難いよ」
……そんなわけで、次なる目的地、パフェの人気店には二人で並ぶことになったのだった。
●
二人が向かうとすでに行列ができていたそこに居たのは女性グループが殆どで、偶にいる男性は大体、恋人の女性に付き合ってきた、という甘い雰囲気を漂わせている。透と真もその中に違和感なく溶け込んでいるわけだが、二人の間に、勿論別に恋愛感情は無い。
「そんなに落ち込むなって。気にしてないから」
待つ間、未だしゅんとした様子の真を気遣うように透は軽く彼の肩にさするように優しく触れた。勿論別に恋愛感情は無い。
「……うう……本当に? 引いてない……?」
真は不安げに、伏せたままの顔はそのまま、視線だけを上げて揺れる瞳で透を伺い見る。勿論別に恋愛感情は無い。
「大丈夫だって。そりゃ……正直少しは驚いたけど。見慣れて来たらやっぱり真は真だしなあって」
その視線を、透は真っ直ぐに受け止めて、覗き返すようにしながら微笑して答えた。勿論別に恋愛感情は無い。
「しかし……人、増えてきたな」
「そうだね。通りの邪魔になっても悪いし、もう少し詰めようか」
並ぶうちにふと気がついて、自然に身を寄せ合うように互いの隙間を狭める。勿論別に恋愛感情は無い。
……そろそろ何が勿論なのか。
──この二人、二人して「親しくなった同姓の友人」への距離感がやたら近いのだった。
二人ともなので二人で居ると指摘する存在が居ないため、その距離感は修正されることは無く。
店内に入っていく、キャアキャアと期待に声を弾ませる女性グループ、あるいは、男性に優しくエスコートされて扉を潜る恋人たち。列の前のそんな人たちを見送る度に、良いのかなあ、と目を合わせて苦笑する二人だが、そんな仕草すらますますこの場に馴染んでいくことを全く自覚していない。
やがて彼らも店内へと案内される、店員は二人を全く訝しがることなく二人掛けのテーブル席へと案内して。程なく二人の元へとパフェが運ばれてくる。
真は先ほど甘酸っぱい系だったからとショコラのパフェ、中層のほろ苦いビターチョコがアクセントとなり最後まで飽きない味わいで。透のはレアチーズを中心にキウイなどのフルーツを並べた薄黄とフルーツが見た目も鮮やかな一品を。
それぞれ、満足げに味わってスプーンを進めて。
「あ、そっちも一口食べてみたい」
ふと透が言うと、真は躊躇いなく「いいよ?」と言って器を透の方に少し押し出して。透も全く遠慮なくそこに己のスプーンを差し込んで掬って食べる。そうして透も「こっちも食べてみる?」と自分の器を差し出すと、真もそれに倣った。
……いやえーと、これくらいは普通だよな男同士。別にアーンとかしたわけじゃないし。見た目が完全に男女なせいで何が正しくて間違ってるのかよく分からなくなってくる光景である。
なんというか。
基本的に二人とも根は真面目なのに、たまにこうしてツッコミどころのある空間を作り上げたり。
それから。
「美味いなあここ」
「そうだね。並んだ甲斐があったなあ。……あとこの服も」
「いや……まあ別に変なところはないから、逆にどういえばいいのか困るなそれ」
激戦に疲労していた。どこか思い悩んでいた。そんな二人が今は、少し油断するように、互いの前では気を緩めている様で。
……つまり、そんな時もある、二人なのだ。
━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注有難うございます。
明るくて笑える話を、とのことだったので結構悪ふざけしてみましたが、大丈夫でしょうか……。
一度ちょっと触れておきたかったのネタなのですが、つまり大丈夫、こいつもこいつです。
いや何が大丈夫なのか増々不安要素しか無くなったかもしれませんが。
こちらとしても前々から、まあ他人との接触を忌避なんてしてられないよなと思ったらこいつも特に親しい友人にはそうなるんじゃないかなーと思ってまして。
何かいまいちまとまりが上手くいかなかった気もしますが、こちらとしてもほのぼのが書きたいなあと思っていたので助かりました。
問題ございましたらすみません。
改めまして、ご発注有難うございました。