※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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夏要素→沸いた脳味噌による全開悪ふざけ
「こちらご覧になってお待ちください」
店員の声に何気なく視線を向けて──そのまま思わず数秒視線を止めたものが何人か居たかもしれない。
パフェが評判の喫茶店、この季節でも行列の出来るそこで。その二人組は目を惹く存在だった。
レースのあしらわれた白のワンピースに水色のカーディガンという清楚な印象の一人は──まあ美少女と呼んで申し分無い見た目だろう。
もう一人は今一つ無造作な姿だが、逆に余分なものは必要ないと分かってると言わんばかりで──認めよう、イケメンである。
そんな二人が、片や弾むような笑顔で、片や穏やかな微笑で寄り添い立っている様ははっきり言って絵になった。
「あ、きみも見る?」
ワンピース姿の一人が、ふと視線に気付いて見えやすいようにと、メニューを手にしたまま連れの方へと向けて掲げる。
「うん……やっぱり気になるかな」
相手の方もそう言って差し出されたそれを相手の肩越しに覗き込むと、二人の距離は一層縮まる。
「……来るまでは完全にポスターの季節限定チョコミントに心固まってたつもりだけど、やっぱりこうして色々見ると迷うなー……」
「あはは。分かる分かる。私もどうしようかなー……」
そんな会話を聞く限り、どうやらイケメンの方も単に付き合わされてというより、一緒にこの空間を楽しめる間柄のようだった。
これが美味しそう、それが綺麗、とメニューのあちこちを指差しあって微笑みあって。
やがて、二人は店内へと案内される。
「わあ……」
頼んだパフェが運ばれてきて。声をあげたのは片方だけだったが、感動したのは二人同時、喜びも共にだったろう。
二人がそれぞれ選んだのは──結局──チョコミントのパフェと、もう一人が選んだのはマンゴーのパフェだった。
チョコの濃茶のラインが薄青のミントクリームを引き立てる鮮やかな層と。
目映い白と明るい太陽のようなオレンジ、合わない筈がない二色のマーブル。
丁度、並べてみると一層コントラストが映える組み合わせだった。意識したわけではないが鮮やかになったテーブルに、やっぱり二人で来られて良かったねとまた笑う。
「チョコミント、好きなんだ?」
「んー……これも好き、って感じかな。わりと甘いもんは何でも好きだし」
「そう言えば色々食べてるよね。この前はチーズ系だったし……チョコケーキ頼んでたこともあったね。さっぱり系ばっかりって訳でもないのか」
「うん、何か一つこれが好き、っていうより、その時々で今なんか無性にこれが食べたい、とかそんな感じになることが多いかなー」
「へえ……ふふ。言ってくれたら、いつでも付き合うよ?」
「はは、それは……まあやっぱり、有り難いな。一人だと気後れするのもあるけど、やっぱり君と一緒の方が楽しい」
交わす会話は、他愛もない。好物。近況。友人の話──これほど見栄えのする二人なのにそこに艶っぽいものは一切無くて、それが逆に二人の関係の安定感を感じさせた。
そうする内に、グラスからはパフェも残り少なくなっていく。
その頃には話題も尽きて、今は二人、名残惜しむようにスプーンを動かす手を鈍らせながら、窓からの景色を眺めている。
海沿いの人気店。
窓の外には青い空と輝く太陽、白い砂浜に海が広がっている。
目を薄く伏せて過ごす二人の姿は本当に安らかで。二人を含めて一つの景色のようで。
思わず見止めた人たちはドラマの一幕に混ざりこんだような錯覚を覚えて、自分たちもあんな風に、と願いたくなるような、そんなカップルに見えたかもしれない。
そんな視線を気にする素振りもなく、そうして二人は店を出ていくのだった。
まあ。
「……しかし、本当に良かったのか? 俺としては一人じゃなけりゃ、別にそこまでして貰わなくて良かったんだけど」
「うん? ああ、女装ならきみに気にしてもらう必要はないよ! 私としても折角のパフェなら何の気兼ねもなしに全力で楽しみたかっただけだからね!」
気にしないっていうかこいつら、カップルでもなければそう言うつもりは微塵も無い、故に自分たちがどういう風に見えているかの自覚も全く無いから気付いていないだけなのだが。
……というわけでワンピース姿は鞍馬 真(ka5819)の女装である。
店から少し離れたところで伊佐美 透(kz0243)が改めて確認するが、真は今己が女装しているということ以上に喫茶店での一時が楽しかったということに満足しているようだった。
二人そのまま海沿いの道を歩く道行きの会話で、透は苦笑する。
少し前を歩く真の背中を見れば、まだどこか浮かれているようにも見えた。
さっきまでの時間が余程楽しかったのもあるだろうが、やはりそういう嗜好が有るわけでもないのに女装するというのは多少やけにならないとやってられないところはあるのだろう。あとは……。
(疲れてるん……だろうなあ)
多分、責任感で自覚も出来ないんだろうが。
激戦続きのはずだ。分かってて敢えてお互い、その事は今日は話題にしなかった。
……透は、実際。真の今の姿に何も思うことは無かった。職業柄、ここまできっちりの女装はそう無くとも、「男でもこれくらい可愛くはなる」ことは経験している。偏見も違和感もなければ妙な気持ちを抱くことはなく、頼りになる尊敬する存在であることは何も変わらない、隣に居るのはずっと、いつもの親友の──筈だ。
だけど。
ふと気になってしまうと。いつもと違う姿に、異なる印象を抱いてしまう──こんなに細かったっけ? と。
そうして、その時。真もまた何かに気付いたように、表情を変えていた。楽しそうにしていた顔がハッとした後、哀愁を帯びていく。反射的にだろう、魔導スマホを取り出してその画面を確認しようとして……──。
そこに、これまでは望まなかった想いが透に芽生えていた。
真が覗こうとした画面を、透が咄嗟に手を伸ばして押さえる。表示される時間を隠すように。
「──……透?」
「あのさ……真。今日はもう少し、俺に付き合ってくれないか」
「え? い、いやでも……これ以上は……」
不意に。真剣な顔で言ってくる透の、これまで見たことの無い温度に。真は戸惑いから躊躇いを見せる。
「……うん。君が真面目なのは分かってるし、そういうところを尊敬もしてるから、無理強いは出来ないけど。……それでも、今日は。……駄目かな」
「……。そんな顔……されたら、狡いよ。きみの気持ちは分かってるつもりだし……嬉しくは、ある、けど……」
混乱から口ごもり、しかしそれもすぼんでいく真の様子に、透は言うべきことは言ったとただ、結論を出すまでを見ていた。
やがて。
「そう、だね。……今日は、いっか。うん。他でもない、きみのお誘いなら……良いよ」
真は、ゆっくりと顔を上げて答える。
不安そうな、それでも笑みに変わっていく表情に、透の顔もまた、微笑を浮かべて──二人は見つめ合う。
そうして……──
「あ、それじゃあどうする? 一旦戻って着替えるか?」
「ああそうだね。普通に夕飯とかするなら別に女装の必要もないか」
話が纏まれば素に戻って具体的にどうするかの話に移るのだった。
Q.
さっきの空気何だったんですか?
A.
単に長い時間のんびりし過ぎたかと気にし出したワーカホリックとそれをもう少し休ませたいと思ったお節介の会話ですが何か。
☆このあと普通の服装に戻った真と、パフェの時と変わらない雰囲気でめっちゃ仲良く焼肉しました──……!
━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注有難うございます。
今夜は(しっかり休めてちゃんと気分転換出来るまで)帰さない……──!
そんなわけで今回も天然炸裂空間。駄目だこいつらツッコミ役がいません。
いっそ誰か知り合いに目撃されろなどと書いてて思いましたがそうなったら実際どうなるんだろう(
毎回、さすがに怒られないかギリギリを攻めてて申し訳ありません。問題ありましたらすみません。
改めて、ご発注有難うございました。