※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
またいつかなんて告げず

 雪が降る地方はやはり寒いのかと思っていたが、グラウンド・ゼロ程ではないにしろ汚染地域に片足を突っ込んだ場所なだけに陽光が射し込まないのと、負のマテリアルが齎した影響が大きかったらしい。と村に引き返してきて体感温度の差に内心驚く鞍馬 真(ka5819)の唇からはそれでも白い吐息が、空気に溶けては現れてを繰り返す。いまひとつ実感はわかないが死に対する危機意識の低さが単に寒いと錯覚させたのかもしれないと思う。そんなことを考えつつ歩いていると、子供は風の子とよくいったもので、家の前で遊んでいた男の子が一人、真に気付くとそのまま猪突猛進、といわんばかりに駆け寄ってきた。その彼が顔を過ぎ腹部を見たところで、怪我は治せても裂かれた箇所や血痕ははっきりと残っていることを思い出す。平気かと詰め寄ってくる少年に真は若干身を引きつつ、
「ちゃんと治したから、大丈夫だよ。服も後で繕えばいいしね」
 と騒ぎにならないよう言い含める。じっと負傷の痕跡を凝視していた少年は、ハッと我に返ったように目を見開くと、勢いよく顔を背けた。少年が自分を女性と思い込んでいると察したのは、赤い頬を見られまいとして彼が駆け出した後のこと。リゼリオで暮らしていた頃は依頼でも依頼外でも、それなりに――というのも少しおかしい気もするが、女装経験があったものの、旅に出た今は無縁で他人に自分がどう見られるかなんて人並みのマナー以外、全く気にしない。
(まあこれっきりだし……このまま黙っていても問題ないよね)
 なんて思いながら依頼人である村長の家へと向かい歩き出す。真がリゼリオを出る頃には、今後ハンターの大半はお役御免となるという話が同業者間で噂になったが、実際に知人友人を訪ねあちこちの国を歩いてきた印象としては現場で戦う人間はまだ暫く必要だと思う。それこそ全世界を浄化するには途方もない年月がかかるだろう。
 少年から連絡が回ったらしく、村長宅では思わずやめてくださいと声をあげるほどの歓待を受けた。男女どちらともとれる容姿が災いして、その細腕で何が出来ると最初は胡乱げな視線を向けていたのに。折角の備蓄が勿体ないと祝杯を固辞し永住してほしいとの懇願も丁重に断る。有難く宿だけ借りて、まだ皆が寝静まる薄明の頃に出発した。
「どうかここの人たちが幸せでいられますように――」
 祈りは朝靄の中に溶ける。一度歩き出せば真はもう、振り返らなかった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
おまけノベルのほうもご発注いただき、ありがとうございました!
おまけというか本編に入れられなかったその直後のエピソードを
字数の都合上ふんわりした感じですが、書いてみました。
こうして真さんは各地に足跡を残すのでしょうがきっと、
ほんの一時だけでもどこかの村に腰を落ち着けることは
しないんでしょうね。ですが真さんの行為は確かに誰かの救いで、
時代が過ぎていき伝言ゲームのように少しずつ変化していっても
ずっと語り継がれる、人に寄り添った強さ優しさになるのではと
そんなふうに妄想してみたりもします。
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
鞍馬 真(ka5819)
副発注者(最大10名)
クリエイター:りや
商品:おまけノベル

納品日:2020/01/16 11:36