※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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真に、問う
「そんな闘い方をしていては、いつか自分自身の所為で死んでしまうかもしれないのだよ」
エルフハイムの森の中、死線を潜り抜ける仲間たちの中である人物がそう言って自分に語り掛けて来た。
その人物はさながら死神のように自分の前に立っている――否、揶揄するでもなく彼女は『死神』だ。そう呼ばれ、自らもそう語っていたではないか。
「……ここで全力を出さないで、いつ出すと言うんだ」
今自分が挑む闘いはこれまでの集大成だ。
たった1人の少女から始まった大きな闘いは、本来であれば後に話を聞くだけで終わっていたかもしれないもの。けれど自分は知ってしまった。
この闘いの裏で起きる真実を、苦しみを、そして悲しみを。
「私は何もできなかった……何か出来たかもしれない時に、何も出来なかった……」
「それはあの時を言っているのかい? だとしたら確かにあの時の君は何の役にも立っていなかった。けれどそれは致し方のない事でもあるのだよ」
少女は次々と過去の傷を抉ってくる。だがそれは真実であり、自分の心に巣くう拭えない後悔の傷でもある。
「仕方なくはないだろう……あの時万全であれば、あのように不甲斐ない想いをすることもなかった。だから」
「だから今死ぬのかい?」
ピタリと思考が止まった。
後悔する念と、自責の念。その双方が語り掛ける言葉から自分の意思が戻ってくる。
少女は今『死ぬ』と言っただろうか。
「何故そんな顔をするのかボクにはわからないのだよ。君は今のままでは死んでしまう。それは事実だ。そして君はそれをまだ足りないと言う……その言動は確実に死を招く」
少女の武器が大鎌から細身の剣へと変化する。曲刀、とでも呼べば良いのだろうか。刃の部分が剣になり、柄の部分が更に変じて盾に代わる。
そうして小さな肩を竦めると、少女は自らの前に立って武器を構えた。
「何を……」
「君の顔は死にたくないと言っているのだよ。ならばボクは君の真の意思を尊重するのだよ。君がそこまでして闘い、そこまでして死にたくないと言うのならば、少しばかりの時間稼ぎをしよう。体制を整えたまえ、鞍馬真。君は何の為に闘うのだい?」
白の髪が闘う動きに添って揺れている。
――何の為に闘うのか。
改めてそう問われた事はなかったかもしれない。それでも漠然とした答えは常に自分の中にあった。そしてその答えは先の闘いで見付けたつもりでいた。
「……私は今、死にたくないのか……?」
***
CAMの手に包まれて致命傷を回避した真は、戦場から僅かに離れた場所で闘いの音を耳にしていた。
広がり続ける結界とそれに立ち向かう仲間達。闘いがかなり厳しいものになるのは予想がついていた。だから仲間の力になりたくて必死に闘い、ソウルトーチを使った。
ソウルトーチは諸刃の刃だ。
使う場面によってはかなりの効果を発揮し、自身が思いもよらぬ成果をもたらす。けれどそれは自らが危険になると言う結果の表れでもあり、真はその双方を体現した。
単身で敵の中に突っ込み、自らを囮にした闘い方は無謀以外の何者でもない。けれどそれが故に仲間が助かったのも事実、
「……戻らない、と」
手を伸ばして木に縋りつく。
指先が震え、全身が寒気と冷や汗を伝わり力が入らない。それでも何とか立ち上がると、腹部に言い得ぬ痛みが走った。
「――……、……っ、こんな傷……」
抉られて覗く肉のなんと醜い事か。
「私が、もっと強ければ……」
きっと強ければ付かなかった。
盾を捨てたのも。仲間に助けられたのも。こんな場所にいるのも。全ては自分が未熟だから。
「!」
唐突な衝撃に、頬が地面の泥を掬う。
何が起きたのか理解できず、ただ瞳だけを動かして現況を探る。
「は……はは……来たのか……」
乾いた笑いと狂気が口を突いた。
先程まで全身に流れていた寒気と冷や汗が消え、ただ冷めた感情が全身を襲ってくる。
敵だ。
敵が目の前にいる。
武器を構え、今まさに自分を殺そうと……いや、何か違う。
「なに、を……」
敵の視線が別の何かに向かっている。
いったい何に――
「ッ、なんで……何でここに……」
敵の視線を辿った真の身に再び寒気が走った。それと同時に戻ってきた冷や汗が彼の動きを鈍らせる。だが動かない訳にはいかない。
「動けッ、ぇー……!」
走り出した先にいるのはエルフだ。しかも幼い容姿をしたエルフが地面に蹲る形で怯えたようにこちらを見ている。
その目を見て無意識に己のマテリアルが反応した。
一瞬だけ金色に染まった瞳が合図となって自身のマテリアルが燃やされ始める。正真正銘、これが最後の力だろう。
真はありったけの力を持って敵の注意を惹きつける。これに敵の目が反応した。
騎士の姿をした亡霊が生前の誉である剣を振り下ろしてきたのだ。
鈍い金属音が響き、真の体が僅かに地面へ沈む。それでも何とか踏ん張ると、彼は側にいるであろうエルフに向かって言った。
「逃げるんだ……今なら、大丈夫だから……」
ギチギチと鳴る金属の音とは別に、何かが走り去る音がする。
それをもって安堵が胸を包むと、真は目の前の存在を睨み据えた。
亡霊になってまで闘い続ける存在。もしかしたら自分もいずれこうした存在になるのだろうか。それはもっと遠い未来かもしれないし、もしかしたら――
「そんな闘い方をしていては、いつか自分自身の所為で死んでしまうかもしれないのだよ」
声と同時に消え去った重みと敵。その双方に目を見開く真が目にしたのは、白髪の死神だった。
***
「助けた時は死にたそうな顔をしていたと言うのに、ヒトは面白い生き物なのだよ」
殆どの敵を掃討した後、彼女はそう言ってお道化て見せた。
その仕草に息を吐きながらも、何処か安堵している自分がいる事に気付く。
「やはり君は死にたくないのだね?」
「……そうだな。死ぬのが目的ではないから……私が闘うのはもっと別の……」
そう、別の理由だ。
「まあ、別に死ぬのが目的でも構わないのだけれど、それだと少し面白みに欠けるからね。では問うてみよう。君の闘う理由は何なのだろう?」
彼女の武器は既に鎌に代わっている。後ろ手に持って可愛らしく小首を傾げる姿は好意的だが、問いかける目が笑っていない。
答え次第では命を取られるんじゃないかと言う錯覚を覚えながら、自分の内に問いかける。
「私が闘う理由……それは――」
口にした瞬間、スゥッと心の内が晴れた気がした。
そしてその答えを聞いた少女の顔に笑みが差す。
「うん。その答えは嫌いではないのだよ。けれどその答え故に言えることがある」
何? そう視線を上げると少女は悪戯っ子のように笑って人差し指を立てて見せた。
「君は君の闘い方を顧みるべきだ。何故闘うのか、その答えが得れている君ならばわかる筈なのだよ。逆の立場ならば如何思うのか、とね」
「逆の……」
言われて他人の思考が見えた気がした。
自分が得た答えが『目の前で仲間が死ぬことに耐えられないから』であるのなら仲間もきっと同じはず――
「ああ、感謝の言葉は結構なのだよ。そもそもそれを得たからと言って君が戦闘スタイルを変えるとは思えないのだよ。君がそうなる所以は君自身の心にあるだろうからね」
少女はそう語ると僅かにざわつきだした森の奥へと視線を飛ばした。
闘いは決した。
結末はハンターの望み通りになり、悪とされた存在は消え去った。けれど歪虚がいる限り闘いは続く。
真は差し伸べられた手に己が手を重ねると立ち上がった。
まだまだやることは残っている。それでも今は休息を。考える時間を自分自身に。
―――END...
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka5819 / 鞍馬 真 / 男 / 25 / 人間(リアルブルー) / 闘狩人(エンフォーサー) 】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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