※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
義刃
 グラズヘイム王国東端の町にてクーデター発生。敵は歪虚ならず、人なり。
 その報を聞いた鞍馬 真は、ひとつの誓いを心に定め、駆け出した。
 私のすべてを尽くして、戦火にまかれた誰かを救う――!

 町ではすでに多くの建物が打ち壊され、火の手があがっていた。
 真は跳ね上がる心と呼吸を整えた。
 敵の数がわからない。味方の数もわからない。しかし、味方が数で勝ることはありえない。クーデターとは思いつきで起こせるようなものではないし、町の惨状が敵の圧倒的火力を示している。
 息を絞り、腰を落とし、愛剣である魔導剣「カオスウィース」を腰だめに構えた。このまま突撃すれば任侠映画のチンピラそのものだ。
 真はこみ上げる苦笑を飲み下し、代わりに肚を据えて声音を放った。
「どこの誰かは知らないが、クーデターなんてくだらない真似はやめておいたほうがいいな!」
 その声に引き寄せられてきたのは、お仕着せの甲冑で身を固め、武器を構えた王国兵たちだった。
「ハンター風情が聞いた口をた」
 言いかけたその口が大きく開かれ、声にならない濁った息を吐く。
 刺突一閃――直線上の敵を一気に突き抜く真のアクティブスキルに、ふたりの同僚ごと串刺さされたのだ。
「急所は外してある。運がよければ助かるだろう」
 うそぶく真へ、残る兵士らが打ちかかった。
 真は大きく横薙がれたハルバードをスウェーバックでかわし、突き込まれたスピアの穂先を持ち上げた膝で流し、その勢いを利して回転、突き出した踵を三人めの急所へ叩きつけた。そしてさらに。
 思わずかがみ込んだ兵士を足場に飛び込み前転、兵士らの包囲の裏へ回り込んで、魔導剣を縦横無尽に振り回す。
 ――王国兵。まさにクーデターってわけか。
 足元に転がってうめく兵を拘束し、真はさらに進む。

 町の中央部では激戦が繰り広げられていたが、量産型魔導アーマーを中心に戦線を押し上げるクーデター軍の有利は明白だった。
 ――まともにやりあえばすり潰される。
 しかし。町を守るため、必死で戦っている人たちを死なせるわけにはいかない。
 ――足がかりを作れば、一歩でいけるか。
 覚悟は容易く決まった。あとは踏み出すだけだ。廃墟の影を渡り、敵の裏を取った真が、一気にかけ出す……
 研ぎ澄ませた視覚を貫いて飛来する短矢。
「っ!」
 真はとっさに魔導剣の腹で自らの正中線をかばう。
 ガヅ! 刃越し、眉間を叩く短矢の衝撃に持って行かれそうになりながら、それでも真は前へ駆け、地に転がって駆け、また転がって、燃える街路樹の影に跳び込んだ。
 ――狙撃手!
 敵の中に、周囲を警戒する狙撃手がいる。武器は狙撃力に優れた弩弓だ。撃たれた角度から考えれば潜伏先はある程度限られてくるように思えたが、こちらがスキルを使うように、あちらもまたスキルを使っているはずだ。
 ――どうせ読み切れないなら。
 真は魔導アーマーへ駆けた。頭を下げ、跳躍と前転を交えながら、それでいて最短距離をまっすぐに。
 狙撃手は無駄な矢を放つことなく、真の軌道を先読みして二発を撃ち込んできた。タイミングを見るに、あらかじめ矢をつがえた複数の弩弓をローテーションしているのか、巻き上げ器を担当する助手がついているのか……おそらくは両方だろう。だとすれば矢切れを待つ意味はない。
 さらに、真の接近に気づいた敵兵が向かってきた。状況は刻々と悪化しているわけだが、その分、防衛側への圧力は軽減している。
 ついに魔導アーマーがこちらを向き、左腕を突き出した。腕の代わりに装着された杭打機から、ためらうことなく太い金属杭を発射する。
 悪寒に突き上げられるまま、真は大きく前へ跳び。
 石畳を砕きながら突き立った杭の爆炎と衝撃がその背を叩いた。
「――っ!!」
 地を一、二、三回転、立ち上がった真は、その杭こそが町を破壊した兵器に他ならないことに思い至ることもないまま、無心で前へ。アーマーの足元へたどりついた。
 回避機動をとるアーマーの腹の下をキープしつつ、駆け込んできた敵兵のスピアを剣で弾き、その手首を斬り払う。
 敵兵はアーマーの四本脚に阻まれ、真を包囲することができない。だが。
「ぐっ!」
 真の右肩に短矢が突き立ち、体勢を崩した。動作性を重視する彼は軽装だ。剣だろうと矢だろうと、当たればただではすまない。
 真は奥歯を噛み締め、敵兵の攻めをなんとかしのぎつつ、アーマーの下からよろめき出た。
 その隙を、狙撃手は見逃さない。
 放たれた必殺の矢。
 真の両眼が青く光る。
 深く沈み込んだ彼の頭上を通り過ぎ、アーマーの装甲に矢が突き立った。
 ――これで足がかりはできた。
 すべては真の策だった。隙を演じて狙撃手に最大威力の攻撃を撃たせるための。
 沈み込んだことで、力は充分に溜まっている。真は上へ跳び、矢を足がかりに操縦席へ至り。
「きみの任務は終わりだよ。あとは休んでてくれ」
 操縦席の兵士を無力化した。
 かくて防衛部隊は反撃に転じ、狙撃手を含めたクーデター軍は敗走した。


 応急処置をすませた真は防衛部隊と連動し、あるいは単独行動で敵陣を突き崩し、斬り払い、撹乱し、戦場の中心へ向かっていく。
 そこには町からの避難を阻まれ、クーデター軍に捕らえられた民がいる。
 防衛部隊からの情報で、おおよその敵陣と人質たちの配置は知れているが……もう少し先に確かめておくべきだった。
 真の迅速な行動をきざはしに、防衛部隊は勢いを得た。追い詰められたクーデター軍は切り札の一枚として民を使ってくるはずだ。故郷を、家族をこれほどに傷つけられた彼らから命までもを奪わせはしない。
 ――油断ではなく、プライドを引き出すしかないか。彼らにそれが残っていたらの話だけど。
 傷ついた肩を見やり、真は息をついた。神経は無事だったようだが、衝撃で鎖骨にヒビが入ったらしい。呼吸するたび、キシキシと痛んだ。これ以上アクロバットを演じれば折れる。折れてしまえば剣を支えられなくなる。
 もう幾度繰り返してきたかは思い出せないが、息を整え、真は慎重に歩を進める。
 と。
 左手の薬指にはめた指輪がまたたいたように感じられて、思わず目を奪われた。月と八咫烏とを彫り込んだそれは、大切な人の指輪と対をなすもの。
 ――絶対に生きて帰るから。

 真はかがめていた背を伸ばし、人質を押し込めた宿屋を囲うクーデター軍の前に姿を現わした。
「こんばんは。私は王国のハンターで鞍馬って者だけど、責任者の人に会わせてくれないか?」
 言った瞬間後ろへ引く。
 途端、矢が彼の残影を抜けて足元へ突き立った。
 ――当然、聞く耳は持たない。
 真は神経を研ぎ澄ませつつ“交渉”にかかった。大丈夫、内容はシンプルだからね。あとはきみたちの誇りに賭けるしかないんだけど。
「ここまで来るのにきみたちの仲間を何十人か殺してきた。これからきみたちを同じように殺すよ。……安心していい、私は今のところひとりだ」
 ひとりで殺したと臭わせることで敵を煽り、早くしなければこちらの味方が来ることを臭わせた。すべては単なるハッタリだし、敵が冷静ならまず乗ってこないだろう。だから。
 血で汚れた敵兵のヘルメットをいくつか放り出してみせる。血は真自身のものなのだが、さすがにそれを見抜ける者はあるまい。
「貴様……友を……!!」
 兵のひとりが剣を抜き放ち、こちらへ向かってくる。それに続く者たちも。
 よかった。きみたちにまだ誰かを思う心があって。
 真は薄笑み、ダッキングして剣閃をかわし、魔導剣の柄頭でその膝を突く。
 膝の皿――膝蓋骨の隙間に柄頭をねじり込まれた兵はもんどり打って倒れ、続く兵士の足をすくった。
「すね当ては上からの攻撃を止められない。憶えておくんだね」
 延髄を蹴りつけて倒れ込んだ兵らの意識を奪う真。
 その間に長槍兵が列を組み、彼を取り巻いた。
「打て!」
 号令一下、振り上げられた長槍の穂先が真へと降りそそぐ。突かれるのも厄介だが、しなる穂先は受けた剣を越えて敵の頭部を叩き、脳を揺らす。意識を手放せば一気に蜂の巣だ。
 真は大きく一歩、すべるように踏み出し、重い穂先の豪雨をかわした。軽さとしなりを出すため、槍の柄は粘りの強い木材でできている。当たったところでどうということはない。
「白兵!」
 しかし、真の意図を小隊長と思しき兵はすぐに読み取った。兵らは即座に後退して槍を手放し、腰の短剣へ手をかけた。多数がひとつ処へ集中する乱戦において、得物の長さはかえって不利に働く。いい判断だ。しかし。
 ――それは私の間合だよ。
 敵兵の抜き放たれようとしていた剣の柄頭を蹴りつけ、安全圏を確保。前に踏み出した右足で地を蹴り返すように体を踏み止めた真が、それによって生じた反動を今なお彼を前へ運ぼうとする慣性へ乗せて剣を振り上げた。
 肩口を斬られて跳ねた兵士をカーテン代わりに、右足を軸にして半転。上に抜けた刃を斬り下ろし、次の兵士の頭を冑の上から打ち据えて失神させ、その反動を利してさらに半転。チェインメイルで守られた三人めの兵の胴を薙いで反吐を吐かせた。
 ――そろそろ追いつかれるかな。
 真へと殺到する短剣。
 いかな真とて、よけきれるはずがない。だから回転を止めず、急所をかばいながら斬られるまま斬られ、動きを止めた。
「行け!」
 とどめを刺すべく兵士が駆け込んでくる。
 真はそれを自らの血の赤に遮られた青き右眼で見やり。
 口へ含んだ血を噴きつけた。
「っ!」
 視界を潰され、数瞬動きを乱す兵士。それだけの時間があれば充分だ。
 真の刺突一閃が一気に兵らを突き抜け、小隊長への道を拓いた。
「おおっ!」
 兵らのものとはちがう、肉厚なロングソードを正眼に構える小隊長。隙がない。さすがは現場を任されるだけのことはある。血の目潰しも効くまいが。
 ――目潰しはなにも血でなければできないものじゃないんだよ。
 鍔迫り合いを挑んだ真が、柄に取り付けられたトリガーを引く。彼のマテリアルを吸い込んだ刃が強い白光を放ち。
「なっ!?」
 小隊長の眼をくらませた。
「これが私の奥の手だよ――!」
「ぬおっ!」
 さらに攻め込もうとした真を小隊長が強引に振りほどいた。
 剣を合わせていた真はこれを避けられず、後じさる。さらに、ぱきん。乾いた音が鎖骨から響き、骨の支えを失くした右腕から力が失せた。握ることはできても、力を込めることはもうできない。
 真は背後から迫る兵の短剣を、後ろへ投げ出した右腕で受ける。どうせ使い物にならないのだ、あと1秒を稼いでくれればいい。
 そして彼は、激痛に痺れる体の内にマテリアルをかき立て、左手ひとつで鍔元を握り込んだ。この魔導剣はバスタードソード。柄の長さは通常のロングソードよりも長い。だから。
 ぎちり。柄頭を歯で噛み締め。
「んううううううっ!!」
 突き込んだ。遅れて踏み込んだ右足で小隊長の踏み出せる足場を潰し、まっすぐと。それは変形の電光石火――
 切っ先が小隊長の胸元を弾き、衝撃でその肋をへし折った。
「が、はっ」
 大の字に倒れる小隊長。
 真はゆっくりと振り返り、柄頭に食い込んだ歯を引き剥がして。
「次は、誰だい……?」


 兵を拘束し、人質の無事を確認した真は、ぶつりと白目を剥いて倒れ伏す。
 しかし、援護に駆けつけた防衛部隊員も民も、誰ひとり笑いはしなかった。目の前で無様を晒した彼がどれほどのことを成し遂げたのか、それを知るがゆえに。

 果たしてクーデターは誰かの手で終焉を迎えた。
 その影で誰かを救ったハンターの名を語る者はなかったが、その姿を忘れる者もまたないだろう。
 伝説とは、そのようなものだから。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【鞍馬 真(ka5819) / 男性 / 22歳 / 献身なる武人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 史の影を駆けし名も無き義の徒。それを人は勇者と呼ばん。
  
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
鞍馬 真(ka5819)
副発注者(最大10名)
クリエイター:電気石八生
商品:シングルノベル

納品日:2017/07/28 16:34