※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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土産
傷を癒やした真は今、町の土産物屋の軒先にかがみ込んでいた。
「んー、これはなんだろう?」
「そりゃアレっすわ。女が喜ぶヤツっす。肌がね、こう、ぴっかぴかになるんすわ」
店番の若者が調子よくわけのわからないことを言う。
帝国製という話だが、Y字型の木柄の先にローラーがついているそれは、どう見ても美顔ローラーで……少なくとも提示された金額に見合うようなものではなさそうだが。
「そうか。肌がね。それはよさそうだなぁ。きっと喜んでくれる」
うれしそうに治ったばかりの左手の上で転がしてみる真。
若者はむにゃむにゃと口を蠢かし、決まり悪そうに。
「あの、それ買ってもらったら、なんとおんなじもんがあと二十九個ついてくるんすけど……」
「それは」
真の顔が厳しく引き締まったのを見て、若者がびくりと眉をすくませた。やばい。さすがにぼったくり過ぎたか!? そもそも作ってんのそのへんのおばちゃんだし。
「ものすごく、お得だね?」
あー。若者は天を仰ぐ。
目の前のハンターはどうやら町を助けてくれた凄腕で、ついでにバカみたいなお人好しなのだ。いやむしろお人好しは抜きでバカなのかもしれない。うん、そうにちがいない。
なんにしても、程よくぼったくってとっとと帰ってもらおう。若者は腹の底で決め、薄っぺらい笑顔を真へ向けた。
「兄さん、喜ばしたい女いるんすか?」
真はうっすらと頬を染め、こくりとうなずいた。
「うん。私にとって誰よりも大切な人がいるんだ」
月と八咫烏とが彫り込まれた指輪を日にかざして言う。
なんだよなんだよ、女みてぇな顔して、しっかりよろしくやってんじゃねぇの!
若者はこみ上げるむかつきを無理矢理に飲み込んだ。なにせ向こうの影にはいつの間にかやってきた役所の職員がいて、こちらへ口パクで「適正価格適正価格」と告げていたし。
役所ににらまれたら商売が立ちゆかない。いいぜ? こうなりゃ適正価格で、高いもん買ってってらうからよ!
「加護石なんてどうすかね? 帝国産の“右脚”を守るって石と、このへんで採れる“左脚”を守る石の組み合わせで。旅してる人たちにゃご好評いただいてるんすよ! まあ、値段もちょいと張りますけどねー」
真は示されたふたつひと組の石のお守りをつまみ上げた。マテリアルの類いは感じられない。おそらくはただの石なのだろう。でも。
黒と青の石は、まるで自分と彼女の眼の色のようで。
なんというか、ふたりでひとつの存在となる自分と彼女にふさわしい気がして。
「……もらっていくよ。いいものを勧めてくれてありがとう」
花のように笑んだのだった。
若者は思う。まったくこの兄さんはよ、調子狂うったらねぇよ。でもよ、その女のこと、すっげぇ好きなんだな。わかったよ、わかりましたよ負けたよ負け。
「いや、こっちこそゴチソウサマっす」
「え?」
「こっちのことっす毎度ありー」
そして真は若者に別れを告げ、大切な人が待つあの場所へと踏み出した。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【鞍馬 真(ka5819) / 男性 / 22歳 / 蒼き翼】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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加護受けし帰途、彼の足取りは至極軽くあった。