※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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ワーカホリックの稀有な休日
「いつものを」
「あら、お兄さん。きょうは遅いのね?」
鞍馬 真(ka5819)さんが朝食にカフェに行くと、店のおばさんからそんなことを言われます。
「休日だからね……」
「あら、いいこと。お兄さん働き詰めでしょ? って、休日なら楽しそうな顔なさいな」
「え?」
ミニサラダとミルクを受け取りつつ面食らいます。
「弱ったな、って顔してるわね」
「予定、ないからね……」
「体を休めるのもお仕事でしょう……はい、どうぞ」
淹れ立ての珈琲と焼きたてのハムエッグトーストを受け取った時でした。
「それでね、アンジェ通りに立った占い屋さんがよく当たるんだって」
「うそ、ホントに~?」
「厄除けグッズも売ってるって」
「へー。じゃ、クランのお店でバッグとハンカチ買ってから寄ってみる?」
自分の座るカウンターから離れた窓際テーブルの声。年頃の娘二人のきゃいきゃいした会話が耳に入ります。
「聞かないわね。若い子は新しい情報に敏感なこと」
店のおばさんは首を傾げます。
「ふうん」
カップを手にしたまま考え事をする真さんでした。
朝食を終えた真さん、繁華街を歩いています。
困ったことに、予定ややるべきことがないし見つからないからそぞろ歩き状態です。
その時、強い風が吹き抜けました。
(ん、ちょっと寒いかな?)
風の冷たさに身を縮めた時でした。
「良かったらこちら、どうぞ」
近くにいた女性からチラシを手渡されました。見ると、特別セールの告知。最大六割引きのスーパーバーゲンだそうです。
「ちょうどいいかな……」
休日の買い物にうってつけ、とにこやかです。目的ができると生き生きしますね、真さん!
で、文面に目を落とします。
コート、マフラー、セーター、などの文字にニコニコ……あれ?
……スカート、パンプス、ガーターベルト&ストッキング?
「これ、女性専門店じゃないかな?」
かな、じゃなくて間違いなく女性専門店です。
これは行くことはできませんね。
「……ええと、バーゲンだそうですよ?」
真さん、このチラシをもらったことにちょっと傷つきながらもいい情報ではあるので近くにいた女性に譲ったり。
でも、せっかくだからと手近なアパレルショップに行くことにしました。もちろん男性専門……ではなくユニセックスのお店にしたようです。
「……これ、色がいいかな」
でもって真さん、マフラーを見ています。早速鏡の前で首に巻いてみたようですね。
「こっちは軽いんだね」
薄手の物と取り換えて、マフラーの端をふわっと肩の後ろに投げて気取ったりして楽しそう。
「お客様、マフラーもセーターと合わせるのが流行ですよ?」
そこに女性店員が。手にいくつかのセーターを持っています。
「いや、今着ているカーディガンに合うのでいいよ」
「うーん、せっかくですからいろいろ着替えてみてはどうでしょう?」
ここで流されるのが真さんです。完全に捕まりました。
「それじゃあ」
早速着替え着替え。
「どうです? あっ、眼鏡を掛けないとよく見えないですか?」
「いや。伊達眼鏡だから……いや、合わせた方がいいのかな」
セーターに着替えた時に外して女性店員に預けた眼鏡を改めて掛けます。
「少しルーズでふわっとしるタイプです。タイトでシャープに魅せる物もありますが……お客様の雰囲気だとふわっとしている方が似合ってますね」
「うん、いいね」
真さんが苦笑したのは、完全オフ以外の時に来たのだったらどっちを勧められたのだろう、とか思っているからです。でも店員の提案をあっさりと受け入れたのは性格上、仕事の時に買い物に来る自分の姿が想像できなかったからだったり。
「そうそう。コートもありますよ」
「いや、コートはあるから必要ないかな?」
「あ。定番モノですね。さすがです。一着はそういうどこに出ても恥ずかしくないものを持っておくべきで、もう一着別の魅力の物をそろえておくと便利ですよ?」
「そう、かな?」
疑問を呈しますが、あっさりと流されます。
ただ、これは仕方ありません。
だって、真さんの思い浮かべたコートはお仕事用だからです。ワーカホリックさんにありがちですね。
「モッズコートもスタイリッシュさを追求したのからボタンや縫製で違いを出したものまであります。ダッフルコートは一発で違いを演出できますね。中綿ジャケットはカラーが豊富です」
そんなこんなで完全に捕まった真さんですが。
「いや、コートは今日はいいかな。……その方がまたこの店に来る楽しみがあるから」
にこやかにお断りの言葉を。
女性店員、ハートにズキュン♪
「じゃ、じゃあまた来てくださいね。ぜひその時も私をご指名ください」
握手されてぶんぶん。若い女性で可愛くって良かったですね、真さん。
「ありがとうございました~」
というわけで、マフラーとセーターをお買い上げ。
真さん、気に入ったようでおニューのマフラーをして足取りも軽いです。
とはいえ、コートとか見ちゃったものだからほかの店のコートとかも気になります。
「ふうん……」
アパレルショップのショーウインドウが気になって、見つけるごとに立ち止まってますね。まったく真面目さんなんだから、もう。
その時でした。
「や、おねーさんカワイイね」
「え?」
張り付いていたショーウインドウから振り返ると、ケーハクそうなチャラい男がいました。
「どう? 向こうの茶店でお茶でも?」
「いや、結構です」
どうして女性に間違われるんだろう、とあわあわ左手を振ります。
で、気付きました。
己の格好を。
大きめでルーズなシルエットのカーディガン。長いサラサラの黒髪は下ろしたまま。
でもって、胸にはセーターの入った紙袋を右手で抱えています。
身体のライン、見えにくいことこの上ない状態です。
「まあまあ。……あ、荷物持ってあげますよ?」
こ、このままではお持ち帰りされてしまう!
「い、いいですから!」
真さん、逃げました。
「……まさか女性に間違えられるとは」
逃げ切った真さん、壁に手を付いてぐったりしてます。
「おや、それが欲しいの? 付き合ってくれたらプレゼントしようか?」
ぎくっ。
振り返ると、今度は立派な服装をした男性が微笑みをたたえ真さんの様子を覗き込んでいました。なかなかのイケメンです。
で、改めて周りを見て気付くのです。
ここが、高級な女性専門のデザイナーズショップのショーウインドウ前だったことに!
「い、いえ別に私は……」
「まあ、まずは食事でもしてお互いのことを知ろうじゃないか」
「いや、だから……っ!」
真さん、脱兎!
でもって、上手く今度も逃げきれました。さすが現役ハンターさんですね。
「もっと男らしい見た目にならないと駄目かな……」
橋の上に立ち止まり、自分の前髪をいじりながら悩みます。
というのも、いずれのケースも男のような乱暴な言葉遣いをしてもよかったのですが、いずれもそうしなかったという事実も思い出してしまったからです。
ただ、これは仕方ありませんよね。
「ハハハ、おねーさん冗談キツいね!」
「そんな汚い言葉を貴女が使う必要はまったくない。さ、後は私のエスコートに任せて」
とか、言われそうな気がしたのですから。
男性であることを完全否定されたとしたら、そりゃもう精神的に止めを刺されそのままお持ち帰りされる危険すらあったのです。
「あ、そうだ」
ここで妙案が浮かびました。
早速、アンジェ通りに移動です。
で、新たなに立った占いの店で。
「厄除けのリップクリームなんてもがあるけど……お兄さんには逆効果だねぇ」
困ったねぇ、と占い師さん。
「そ、そうですね」
真さん、今朝のカフェで聞いた話を思い出したあたりは情報を読み解く現役ハンターさんらしいのですが、こればかりはどうしようもないようで。
「やっぱりもっと男らしい見た目にならないと駄目なのかな……」
とぼとぼと占いのテントを出る真さんです。
っていうかちょと。
ちゃっかり厄除けのリップクリームは購入してるじゃないですか!
というわけで、行きつけの喫茶店にも土産話ができたし、なんだかんだで充実した休日だったようです。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka5819/鞍馬 真/男/22/闘狩人
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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鞍馬 真 様
いつもお世話様になっております。
ほんわりした真さんのお話ですね。男性から女性に間違われるまではいいとして、まさかナンパまでされるとは!(笑)
とりあえず、一回だけだと「たまたまだから」とか真さんに勘違いされる恐れもあるので、女性からのも含めて三回間違われてもらいました。ただまあ、真面目な依頼の時はカッコよくて間違われそうにないから改善されることはないでしょうが(ですよねっ・ぐ)。
ただ、ちょっとかわいそうなので可愛い店員さんにきゃいきゃいさせてあげたりも。
それはそれとして、ナンパされて逃げるか、その場にとぼけたまま残してナンパする方に退散してもらうかはかなり迷いました。ほのぼのっぽく仕上げるなら後者だな、とは思いつつ。逃げると動きが出て普通のテイストなら変化が出ていいのですが……。
結局、逃げないと「まあいいか」な感じが強くなりがっくり感が薄れるので逃げていただきました。
「休日の街という、普段の私の居場所ではないところに私がいるのだから少し申し訳ない」と真さんが真面目に考えたのかも、ということで。
この度はご発注、ありがとうございました。