※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
紅茶と魔女の物語


 休日の空気はどことなくそわそわと楽しくて、少し急かされるように家を出る。
 マーガレット・ミケーリこと、メグが向かうのは家からほど近い図書館。
 ブックバンドで束ねた数冊の児童文学を抱えて、石畳と煉瓦の小径を早足に行く。
 近くには喫茶店がある。擦れ違う人人が纏う甘い香りがふわり、華やいでいた。
 在ることは知っているけれど、行ったことは無いなあ。なんと無しにそんなことを思いながら本を抱え直す。
 ふとその先に温かそうなマフラーに顔を埋めた若い人が見えた。
 軽い会釈をしたその頭の上、ぽん、と跳ねた緑の精霊。
「きゃっ」
 不意の声にその人も驚いたのだろう。足を止めたブーツの音。
「あれ、久しぶりだね?」
 聞き覚えの有る穏やかなテナー。
 久しぶりという言葉。
 恐る恐る顔を上げると、黒縁の硝子の奥で柔らかな青い瞳が細められた。
「あ、あの、はい! お久しぶりですっ」
 その人が、メグの未だ短い人生の中、話すと長くなる半生に於いて、浅からぬ影響を与えたハンターの一人だと知る。
 思い切りよく頭を垂れると、抱きかかえた腕の中から1冊のハードカバーの児童書が零れ落ちた。
「……っと、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
 咄嗟にそのハンター、鞍馬真に受け留められた本の表紙には、楽しそうに手を繋いで笑うとんがり帽子の魔女と猫が描かれていた。


 本の礼を言ってぎくしゃくとぎこちない動きのまま立ち去ろうとしたメグを引き留め、鞍馬は通りがかりに見かけた喫茶店へ入る。
 俯き加減でひょこひょこと付いてくるメグの表情は察しがたいが、頭の上で跳ねている緑の光を見るかぎり、緊張しているだけなのだろう。出会った頃、彼女がハンターになろうと決めた頃が懐かしい。

 向き合って座った鞍馬の手許には紅茶が、メグ自身の手許にはミルクティが、テーブルの隅には、今し方鞍馬が救った本が置かれている。
「あの、……ありがとう、ございます。えっと、助けてもらって」
 さっきも聞いたよと言われて言葉に詰まって首を横に振る。
 図書館の本だから傷が付かなくて良かった。しどろもどろに告げる言葉をじっと待ってくれる瞳は、やはりとても優しそうに見えた。
「好きなのかな?」
 鞍馬に問われて、背筋を伸ばし、はい、と上擦るように高い声で返事をする。
 寛いでと言う彼の長い髪が、肩から一筋さらりと零れる。頬を撫でたその髪を耳に掛け直した指が、すっと表紙を指して、その本の、と言って示す。
 真っ直ぐに伸ばされた指。筋が浮いて得物を握る逞しさを感じる長い指と大人の手。
 白磁のカップに添えた自身の手がとても小さく見えた。
「……やっぱり、まだ、憧れてしまうんです」
 子どもの頃に大好きだった魔法使い。そんな話をすれば笑われるだろうと目を逸らす鞍馬の表情は、しかし真摯に、メグの言葉を待っている。
「この魔女さんの何でもできて、沢山の友達を守れるのが、素敵だなって思うんです」
 きっとそれは、鞍馬も同じ。
 彼の戦う姿を何度も見た。大きな剣を軽々と扱う姿を。
 彼が毅然と敵に向かっていく姿を知っている。その後ろで怯えながら、守られながらその背中を見ていた。
 お店の手伝いをした時も、鞍馬の回りは楽しそうな声が絶えず、お客さんも嬉しそうにしていたのだから。
 だから、思わず。
「鞍馬さんみたいで、えっ、あ、……あの、そうじゃなくて……」
 鞍馬さんが魔女みたいとうことでは無くて。
 言い間違ったと真っ赤になって俯くと、鞍馬の笑った声が聞こえた。
「……沢山の人を幸せにしたり、前に出て戦えるのが、すごいって、思ったんです」
 鞍馬の青い双眸が瞠って、捉えるようにメグを見詰めた。
「きみには、そう見えるのかな?」

 長い黒髪、硝子の奥に青い瞳。今は少し笑っていて、寛いだ顔をしている。
 顔立ちの想像よりも少し低い、大人の男の人の声。
 人見知りしがちで、喋るのも得意では無いメグが答えるのを待ってくれるところはとても優しい。
 遠目には若い女の人なんて、見えてしまいそうな様相で、きっと綺麗な髪がそう見せているのだろうけれど、こうして近くで見ると、ずっと年上で、大人で、男の人で、それから。

「…………私の顔に何か付いてるかな?」

 見とれてしまうくらい、輝いている人だ。


 不躾な視線を詫びてテーブルに額が突きそうな程頭を下げている少女を眼前に、鞍馬は困ったように眉を垂れて、頬を掻いて首を傾げた。
 思わぬ評価に驚いて、つい、問い返してしまったがメグはどうにも竦んでしまったらしい。
 こまったなあ、と、のんびりとティーカップを傾けて、ぼうっと窓辺の花を眺める様でも見ていれば違ったのかも知れないが。
 そろりと顔を上げたメグが再度非礼を詫び、その頭の上で緑の精霊がはしゃぐように、ぽんぽん、と、跳ねている。
 ひーちゃんと呼ばれる彼か、彼女の言葉は知れ無いが、それは一先ず好意と受け取っておくことにした。

 じっと見てしまってごめんなさい、どう見ていたのかなって考えてしまったから。
 それから、顔には何も付いてないです。
 大凡そんな言葉を言えた頃にはミルクティも飲み終えていて、図書館まで一緒にと行ってくれた鞍馬と店を出た。
 そんなに危なっかしく見えただろうかと、今度は落とさないように締め直した本を両腕で確りと抱き締める。
 頬を嬲る風に、寒いですねと言って見上げた鞍馬の髪が顔を覆うほど舞い上がっている。
 黒い綺麗な髪が波打って頬に貼り付き、振り払おうと頭を振る様子は、可愛らしいというのかも知れない。
 そんな風に思っては失礼だろうな。
 髪が落ち付くまでは目を逸らそうと横を向いて、メグも鬱陶しく舞い上がる髪を払い、凄い風ですねと呟いた。
「おっと」
 髪に視界を遮られた所為で見落とした小石に躓いて、吃驚したと声を上げて笑う素直な表情。
「大丈夫ですか?」
 可笑しそうに頷いた鞍馬を見上げ、その瞬間を見逃してしまったのは惜しかったなと内心少し、残念に思う。

 垣間見えた意外な一面に、半歩だけ近付いてみた。
 そして。
 その半歩に気付いてしまうところは、やっぱりすごいと思ってしまう。
 その半歩を喜んでくれるから、あともう半歩、近付こうと思った。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5819/鞍馬 真/男性/22/闘狩人(エンフォーサー)】

【kz0215/マーガレット・ミケーリ/女性/14/聖導士(クルセイダー)】(NPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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鞍馬 真様
 ご依頼頂き有り難う御座います。
 こちらでは初めまして、いつもお世話になっております。
 鞍馬さんのご期待に、メグの抱いている印象や気付いてしまった一面が、添えていれば幸いです。 佐倉眸 拝
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発注者:キャラクター情報
アイコンイメージ
鞍馬 真(ka5819)
副発注者(最大10名)
クリエイター:-
商品:シングルノベル

納品日:2018/02/05 14:29